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12.いざ城外へ 2

◾️◾️◾️◾️ アルフレッド目線です


 馬車は大通りに隣接する大きな建物の裏口で止まった。始めの目的地に着いたらしく、馬車を先に降りたアルフレッド様の手を借りて地面に降り、エスコートされるまま店の中に入って行った。

 

「今日は、こんな服装だから念の為裏口から入ったが、貸切にしているからゆっくり選べば良い」


 何を選ぶのだろうかと、大きな机以外何もない部屋を見渡していると、右手の扉から五十代の女性と三十代の男性が出てきた。顔の雰囲気が似ているから親子かもしれない。


「アルフレッド様、ご婚約おめでとうございます。噂に聞いてましたより遙に美しい方でございますね。このリンダ、腕によりをかけて誠心誠意努めさせて頂きます。さあ、シャルロット様、どうぞこちらへ」

「あ、あの、アルフレッド様……これは一体どういった事でしょうか」


 アルフレッド様は笑うばかりで何も言わず私の背を押すと、リンダの後を追う様に隣の部屋に入っていった。


「わぁ、これはいったい……」


 思わず言葉を失ってしまう程、その部屋は真っ白な布と、ドレスに埋め尽くされていた。


「絹は全て西の国から仕入れた上質な物を使用しています。白と一口にいっても黄色味が強い物、青味がかったものといろいろございます」

 例えばこちらは艶のある生地で、これはしなやかなハリのある素材を使用しており……と、どんどん私にドレスをあてていく。


「あ、あの、アルフレッド様、これは……私は今、いったい何をされているのですか?」

「決まっているだろう。花嫁衣装を作っているのだ」

「は、花嫁衣装って、……私、結婚するんですか?」

「……えっ?」


 だって私は冷遇された挙句に殺されるのですから。花嫁衣装はいらないはずなのにどうして?


 ……そうか、結婚準備をする振りぐらいしなきゃ、周りも私も怪しむからね。

花嫁衣装ぐらい用意しておかないとと考えられてのことでしょう。

そういうことなら、ここは素直に騙されてあげよう。


 そう思って隣を見ると、アルフレッド様が何やら頭を抱え込んでしまっている。

 

 どうしましたか?


 

 ドレスを選ぶのは大変だ。それも一生で一度しか着ない物であればなおさら。でも、私、多分このドレス着ることはないんじゃないかな。そう思うといまいち集中して選べない。こんなことなら無理にでもニーナに付いて来てもらえばよかった。


 いくつかの生地を当てられ、その中から光沢が綺麗な生地を選んだ。生地には銀糸で細かな刺繍が施されていて動くたびにきらりと控え目に光る。アルフレッド様が誉めてくれたのが決め手だ。


 ドレスは生地の良さを引き立てるシンプルなAライン。ガンダリアのドレスは胸元や肩や背中が空いたのが多く、それは少し恥ずかしいので、胸から肩にかけてレースを入れることにした。こちらはアルフレッド様の希望でもある。


 私達のやりとりをリンダが目を細めて見ている。多分、仲睦まじい婚約者に見えているのだろう。まさか、私に選ぶ気力がないとは夢にも思っていないだろう。


 採寸の段階になってアルフレッド様は部屋を出て行った。そして、二人になったとたん、再び彼女のおしゃべりが復活した。


「でも、びっくりしたんですよ。いきなりウェディングドレスを作ってくれ、ですからね。いえね、私どもは代々皇室御用達でございますから、御指名があるのは当然なのです。むしろ今までご連絡がなかった事が不思議なぐらいですからね」


 ものすごくい速さで採寸しながら話し続ける。


「アルフレッド様には何度もお会いしましたが、あれ程優しい目をなさっているのは初めて見ました。あっ、そこの窓からお二人が馬車を降りる姿を見ていたのですが、全身から貴方への愛情が溢れておりましたよ。客商売の人間は人を見る目も確かなのです、あの目は信頼して大丈夫な殿方の目ですよ」


 うん、これもう聞かなくていいや。


 適当にはいはいと相槌を打って聞き流しながら、私は先程見た道のりをもう一度思い出していた。



◾️◾️◾️◾️


 シャルロットはリンダに任せ、ハンスと机を挟んで向かい合わせに座った。


「アルフレッド様、それで王にも内密の話とは何でしょうか?」


 さっきまでの愛想のよい笑顔をしまい、鋭い目で俺を真っ直ぐに見てくる。


 職人としての腕も勘も愛国心も強いこの男は、ある日俺にこの国をどうして行くつもりか、と聞いてきた。国は一見潤っており、街も賑やかで、商いも貿易も奮っている。しかし、毎年かけられる税金は上がり、それは真綿のように、そして着実に国民を苦しめていっている。

 このままだと、いずれ腕の良い職人は他国に流れて行くと言われた。国王は気づいていないのか? この国の本当の財産とは俺達である事を、と言ってのけた豪胆な男だ。


「――お前にしか頼めないことだ」



 俺の無茶な要望と計画に、始めこそ驚いていたものの、すぐに前のめりになって話を聞いてきた。目に力強い光が輝く。

 父は国王の力で国が潤うと言うが、俺はこういう目をした職人が、いや職人だけでなく国民が国を潤すのだと思う。


 全てを話し終えた頃には一時間が経っていた。気が高まっているのか、二人ともぬるくなったお茶を一息に飲み、背もたれに身体を預けた。


 隣の扉を見るけれど、まだ開く様子はない。


「その計画は、あの姫様の為ですか?」


 悪戯な眼差しを向けて聞いてくるので、軽くひと睨みすると冗談ですよと面白そうに笑われた。


「アルフレッド様はおもてになりますが、ご自身から口説かれたことがありませんからね。だから、本命が現れる前に練習しておいた方が良いとあれほど助言しましたのに」

「興味ない女相手では練習にもならん」


 不貞腐れたように言う俺を、やれやれとやり過ごすと


「では、今日の本題(・・)といきましょうか」


 わざとらしくそう言って左の部屋に入ると、薄く四角い箱を両手で持ってきた。箱の蓋を開けると、輝かんばかりの宝石が三十数個ずらりと並んでいる。


 ガチャリと右の扉が開き、タイミングよくシャルロットが出てきたので、手招きをして隣に座らせる。


「あの、アルフレッド様、……今度は……これは何でしょうか?」

「婚約指輪をまだ用意してなくてな。急いで作らせるので、宝石を選んでくれないか?」


 箱の中の宝石を指さすと、目をぱちくりさせた後、首を大きく横に振った。


「こんな値の張るものを戴く訳にはいきません」

「どうしてだ? 貴女は俺の婚約者なのだからこれぐらいの品質の石は当たり前だろう」


 箱の中にはダイヤモンド、エメラルド、サファイア、アメジストといった様々な宝石が並べられている。若くして国一番の技術を持つこの男は、やりての宝石商でもあり、仲間内でも一目置かれている男だ。


 シャルロットは白い手袋を借りると、そのうちの一つをおずおずと手に取って、光に透かして見始めた。


「混ざり物が少なく、純度の高いとても品質の良い物ですね」

「ええ、勿論。私はこの国一番の宝石商ですから」

「……自分で言うな」


 俺のつっこみに、はははと笑い、すっかり商売人の表情に戻った顔でシャルロットにいろいろ説明し始めた。


「シャルロット様、お好きな石や印象に残った石はありますか?」


 シャルロットは暫く考えたあと、そっと一つの宝石を指先で掴みそれを掌に載せた。


初めて(・・・)アルフレッド様を見た時、そのアメジストの瞳に吸い込まれそうになりました。その瞳にこれから先ずっと自分の姿が映るであろう事を思うと、幸せな気持ちに包まれました」


 なぜか少し寂しそうにそう言うシャルロットの掌にあるのは、俺の目と同じ紫の石だった。


 シャルロットの掌からそれを取り、ハンスに渡す。


「これで作ってくれ」

「かしこまりました。最高の品を作らせて頂きます。ところでお二人はアメジストの石言葉をご存知ですか?」

「「石言葉?」」


 思わず声が揃った俺達に目を細めながらハンスは教えてくれた。


「誠実、心の平和、真実の愛です。お二人の誠実な愛が心を満たすよう祈りながら作らせて頂きます」


 この国一番の職人はそう言って商人の笑みを見せた。

読んで頂きありがとうございます。

暫く二人の城外でのお話が続きます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人の温度差がいいなぁ。ふふふ。 [一言] 白ってな、200色あんねん。を思い出してしまいました。ヒロインを輝かせる素敵なドレスか完成しますように。
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