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11.いざ城外へ 1

◾️◾️◾️◾️ アルフレッド目線です

○○○○ シャルロット目線です


◾️◾️◾️◾️


 城にきて三週間シャルロットは毎日のように庭を探索しているようだ。何度か一緒に行こうとしたのだけれども、仕事がおありでしょうと、遠回しに断られた。余りしつこいと嫌われますよ、とザイルに言われ散歩は諦めたけれど、シャルロットの噂は耳に入ってくる。


 衛兵1「シャルロット様はお優しい方です。会うと、休憩は何時からですか? 今日のお仕事は何時までですか? と愛らしいお顔で質問されます。最後には、働きすぎずに休憩してくださいね、と微笑んでくださいました」


 衛兵2「シャルロット様は気さくな方です。見廻りをしている私の横を一緒に歩いて、この後どこに行くの? 道順は決まっているの? と人懐っこい笑顔で質問されます。最後には、少しぐらいサボってもいいのよ、なんてご冗談も言われて」


 門番「シャルロット様は好奇心旺盛な方です。時々、門まで来られて何時に交代なの? いつも二人で見張りをしているの? と目を輝かせて質問されます。最後には、門から少し離れた木の下を指さし、暑い時はあそこに立って見張りをしては、なんてご提案も頂きました」


 衛兵3「シャルロット様は動物好きでいらっしゃいます。塀を叩いたり、古井戸を覗きこんだりされているので、どうされたのかとお声をかけたところ、迷子の子猫を探していらっしゃるとか。猫が入り込みそうな隙間や人気の少ない場所はどこかと真剣な表情で質問されました。最後には怪しい場所があったら教えてと手を振って立ち去っていかれました」


 うん、楽しく過ごしているのは良いことだ。




○○○○


 私が再びこの城に来てから三週間が経った。


 三日に一度ほどザイルがきて、勉強を教えてくれる。その後は短剣を避ける練習を少し。そして休憩のティータイムなるのだけれど、ザイルは用事があるからと言っていつも帰ってしまう。


 ニーナが言うには、アルフレッド様が私とザイルが一緒にお茶をするのを気にされているから、らしいけれど。その話は多分嘘だと思う。そんなこと気にされたことないもの。


 午後からは散歩と言って庭を歩くのが日課だ。もちろんただ歩いているわけではない。私なりに抜け道を探しているのだ。


 でも、最近衛兵の方がやけに優しい。私の姿を見ると笑顔で挨拶をして色々世間話をしてくれる。情報を聞けるのは良いけれど、ちょっと親しくなりすぎて抜け道探しがしにくくなってしまった。


 アルフレッド様は相変わらず、朝食を一緒に摂りに部屋まで来てくださる。

 さらに、昼ごろには花や珍しいお茶やお菓子が届けられ、最近では夏物のドレスも頂いた。



 アルフレッド様、随分私を甘やかしていませんか?



 と、今も変わらず私の前で朝食を摂る綺麗なお顔に心の中で問いかける。


 最初は会話も続かなかった……というか、一方的にアルフレッド様が話をしていた。でも最近はニーナが合いの手を入れるように会話に入り、私にも話を振るので、何とか話が続くようになっていた。


 気まずい空気が流れないのはいいのだけれど、時折じっと見つめられるので、抜け道探しに気づかれたのかとひやひやしてしまう。


 今日もニーナのさりげないリードで会話が続いていた。


「ガンダリアでは夏が始まる前に街をあげての夏祝祭(かしゅくさい)があると聞きましたが、何が行われるのですか?」

「昼間は多くの露店が出て、夜になると広場で歌や踊りが始まり大変賑やかだ。最後には花火もあがる」


 アルフレッド様は食後のお茶に手を伸ばしながら、花火なら城からよく見えると、こちらをちらちら見ながらニーナと話をしている。


(花火はともかくとして……)


「アルフレッド様、そのお祭り見に行く事はできませんか?」

「それは、城を出るという事か?」

「はい、王族に嫁ぐからには、この国の人達の暮らしぶりを知っておく必要があると思うのです。国王である父は、『国の上に立つ者は常に自身より国の利益と国民の生活を優先しなくてはいけない』と申していました」


 これは嘘ではない。

 小さい時から、何度もその言葉を聞いて育ったし、父を始めとする王族のその考え方を誇りに思っている。

 ただ、城の外を見たい理由は他にあった。


(城の中の事は分かったけれど、外の事も知っておかないと、生まれ故郷のキーランまで逃げきれない) 


 私、逃げる気満々です。


 アルフレッド様は腕組みをしながら眉を寄せて思案している。以前なら絶対に許して貰えなかったし、言い出す事さえできなかったけれど、今目の前にいるアルフレッドなら、もしかして、万に一つぐらいの可能性だけれど、いいと言ってくれるかも知れないと期待する。


「駄目ですか?」

「うーん、おそらく国王の許可が降りない」


 国王はかなり独裁的らしく、アルフレッドはあまり国王に意見できないように感じる。


「抜け出すか……」


 呟くような小声に先に反応したのはニーナだった。


 右手をピンと上げ、シャルロット様の用意はお任せください、と宣言するといそいそと部屋を出ていってしまった。


「……あの、抜け出すというのは?」

「変装をして裏口から城外に出る。ザイル以外の者には知らせないので、貴女もそのつもりで。大丈夫だ、なんとかなるだろう!」


 まるで、悪戯な子供みたいな顔をして言うものだから、思わず目をぱちくりとする。


(そんな顔、初めて見た……)


「なんだ? 行きたくないのか?」

「いえ、行きたいです! 行きます!!」


 思わず音を立てて、椅子から立ち上がってしまった私を、アルフレッドが嬉しそうに見上げて笑っている。


(こんなに表情豊かな人だったんた)


 この胸のドキドキは、初めての外出のためだと自分に言い聞かせ、椅子に座り直すと気持ちを落ち着かせるようにゆっくりとお茶を飲んだ。




 二週間後、ニーナが喜々として用意した服に袖を通し、鏡の前でくるりと回ってみる。いつもの絹ではなく木綿で織られたもので、爽やかな水色にウエストと襟首、袖口に紺のリボンがついただけのシンプルなドレスだった。金色の髪はこの国では珍しく目立つので、一つに纏めてつばの広い麦わらの帽子で隠す事にする。


 昼食をささっと食べて、こっそりと部屋を出た後はニーナに先導されるように裏庭を抜け、裏門の前にある馬車に乗り込んだ。


「ニーナ、あなたも早く乗って」

「いいえ、私は行きません。部屋でシャルロット様がいるように振る舞わなければいけませんから。ご安心ください! うまくやります」


 ガッツポーズをして満面の笑みを浮かべると、手を振って立ち去ろうとするので、慌ててその腕を掴んで引き戻す。


「えっ、無理無理。一人で行くなんて。お願い、一緒に来て」

「ふふっ、大丈夫ですよ。お一人ではありませんから」


 ニーナが笑いながら城を振り返ると、簡素な服を着た長身の男が走って来るのが見えた。唇がわなわなと震え、ギクシャクと首を回してニーナを一睨みする。


「デート、楽しんでくださいね」


 悪戯な目でそう言ってわざとらしく小首をかしげた後、今度こそ両手を振りながら走り去ってしまった。


 ニーナと入れ違うようにして来たアルフレッド様は平民の装いをしていた。それにも関わらず、その整った容姿は目を引く。


「遅くなってすまない。先に来ているつもりが仕事が少し長引いてしまった」


 そう言い訳をすると、するりと馬車に乗り込んで来た。馬車はそれを確認すると、ゆっくりと走り始めた。狭い空間に、いきなり二人きりになってしまい、思わず左胸の上でぎゅっと手を重ねる。


 私を刺したのはアルフレッド様かもしれない。そう思うと急に心臓の音が早くなる。


 大丈夫、もしそうだとしてもここにシャンデリアはない。ふーっと静かに深呼吸をして前を向くと、優しく微笑む紫の瞳と目が合った。

 

 純粋にこのお忍び見物を楽しみにしているその顔に、少し後ろめたさを感じて、思わず目線を外して窓の外を流れる景色を眺めるふりをしてしまった。


「祭りに行く前に寄りたいところがある。少し遠回りになるがいいか?」


 いいも何も、拒否する言葉が浮かんでこない。でも考えようによっては、よい機会かもしれない。


「どちらの方向に向かうのですか? 窓を開けて街並みを見たいのですが?」

「祭りの中心になる広場は城の南側にあるんだが、とりあえず東に向かう」


 キーランはガンダリアの東側に位置するので、方向としては丁度よかった。


 アルフレッドが開けてくれた窓から顔を出して外を見ると、広い一本道が走っており、立派な店構えをした建物が続いている。

 少しでも景色を覚えようと帽子を取って少し身を乗り出すと、気持ちの良い風が髪をなびかせ、花の匂いがどこからともなくしてきた。目を凝らすと遠くの山裾に薄っすらと時計塔が見えてきた。


「アルフレッド様、あの時計塔は何ですか?」

「あぁ、数百年前はあの辺りに城があり、移転して今の場所となったんだ。あの辺りは瓦礫ばかりで足元も悪く人も住んでいないのだが、時計塔だけはまだ形を残している」


 それはなかなか分かりやすい目印なので、覚えておこうと思った。


いつも読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり情報収集がスパイ行為っぽいんですけど〜?(笑) 今、開戦したら間違いなく極刑ですね〜。
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