第1話 運命の波
小さな漁村に住む少年、エルは9歳の誕生日を迎えた。彼の父親、レオは村で評判の漁師であり、エルにとっては尊敬の的だった。エルは幼い頃からレオに海の厳しさと豊かさを教え込まれていた。彼はいつも父親の話に耳を傾け、いつか自分も立派な漁師になりたいと思っていた。
その誕生日の朝、レオはエルにとって特別な贈り物を用意していた。「エル、今日はお前の特別な日だ」とレオは微笑みながら言った。「約束通り、今日はお前を初めての漁に連れて行く。」
エルの心は喜びでいっぱいだった。彼はすぐに身支度を整え、父親と共に漁船に乗り込んだ。漁船は村の港を出発し、穏やかな海を進んでいった。エルは初めて見る広大な海の景色に胸を躍らせた。
「お父さん、今日はどんな魚が獲れるのかな?」エルは興奮気味に尋ねた。
レオは微笑みながら答えた。「今日は特別な日だから、いろいろな魚が見れるかもしれないぞ。あそこを見てごらん。」
エルが指差す方向を見ると、船の近くに群がる色とりどりの魚たちが見えた。赤や青、黄色、緑の鮮やかな色を持つ魚たちが、水面近くを泳いでいた。「わあ、こんなにたくさんの魚がいるんだね!」エルは感動して声を上げた。
レオはさらに話を続けた。「この海には、季節ごとに違う魚が現れるんだ。今の時期は特に多くの種類が見られる。見てごらん、あの大きな魚は『サーベルフィッシュ』と呼ばれているんだ。長い体と鋭い顎を持っていて、非常に速く泳ぐんだよ。」
エルは目を輝かせてその魚を見つめた。サーベルフィッシュは船の周りを素早く泳ぎ回り、その動きはまるで光の刃のようだった。エルはその美しさと力強さに圧倒され、もっと近くで見たいと思った。
レオは次に、さらに珍しい魚を指し示した。「あの青い光を放つ魚は『ミストフィッシュ』と呼ばれている。体全体が光ることで、捕食者から身を守ることができるんだ。夜になると、その光が海の中で星のように輝くんだよ。」
エルはその話を聞いてますます興味をそそられた。彼は目を凝らしてミストフィッシュの光を観察した。その青白い光は水面を照らし、不思議な雰囲気を醸し出していた。「本当にきれいだね、お父さん!」
レオはうなずき、「そうだね、エル。海は不思議と美しさに満ちているんだ。それを理解し、大切にすることが漁師としての務めなんだよ」と語った。
その時、レオが再び声を上げた。「見ろ、エル!あそこにもっと珍しい魚がいるぞ!」
エルがその方向を見つめると、青く輝く大きな魚が海中を泳いでいた。エルはその美しさに目を見張り、思わず船の端に身を乗り出した。その瞬間、大きな波が突然押し寄せ、エルは海に投げ出されてしまった。
「エル!」レオの叫びが聞こえたが、波の音にかき消された。エルは必死に泳ごうとしたが、海流に飲み込まれ、どんどん遠ざかっていく。水の冷たさが体に染み渡り、エルは必死で海面に浮かび上がった。視界には見知らぬ島の影が見える。
目を覚ますと、エルは見知らぬ浜辺に横たわっていた。頭上には太陽が燦々と輝き、波の音が静かに聞こえる。彼は無事であることを確認し、立ち上がった。辺りを見渡すと、この島が自分の知る場所ではないことを理解した。草木が生い茂り、遠くには山の稜線が見える。
エルはまず、父親のレオの姿を探した。しかし、彼の姿はどこにも見当たらない。エルは心配と不安でいっぱいになったが、彼は泣くことなく冷静に考えた。レオはきっと無事だと信じ、エルは自分の力でどうにかしてこの島から脱出しなければならないと決意した。
エルがまだ幼かった頃、レオの知り合いの老人、シェインじいさんがよく漁村を訪れた。シェインじいさんは冒険談を語るのが好きで、特にある宝島の伝説を話すのが好きだった。「その島には、無尽蔵の財宝が隠されているんだ」とじいさんは語った。「だが、その島には誰も近づけない強力な海流が取り巻いている。それを越えるのは並大抵のことではない。」
エルはその話を思い出し、もしや自分が今いる島がその伝説の島なのではないかと思い始めた。島を探索しながら、エルはシェインじいさんの言葉が頭から離れなかった。彼はシェインじいさんが語っていた冒険と財宝の物語が現実のものとなるかもしれないという考えに胸を躍らせた。
エルは父親と再会するため、そしてこの島の謎を解き明かすための冒険に出ることを決意した。エルの心には、恐れよりも興奮が満ち溢れていた。これから始まる旅路には、どんな冒険が待ち受けているのだろう。彼の旅は、まだ始まったばかりだった。