第7話 転生とスキルと少年と少女
◇◇⦅カナン⦆大衆食堂⦅金色亭⦆2階──
フィンは硬めのベッドに横になりつつ、天井を見上げてつぶやいた。
「──ステータス」
目の前に立ち上がった半透明のウィンドウには、フィンとラミーの名前が並んでいる
(とりあえず、俺の方から確認するか──)
フィンはまず、自分のステータスを表示させる。
⦅フィン⦆
性 別:男
種 族:人間
職 業:戦士
レベル:20
H P:172(172)(金)
M P:84(84)(青)
S P:20(20)
攻 撃:168(金)
防 御:125(銀)
敏 捷:137(銀)
技 力:133(銀)
隠 密:89(青)
魔 力:77(黒)
精神力:92(青)
────────
[スキル]
⦅体術5⦆⦅剣術3⦆⦅棍棒術3⦆⦅火魔法4⦆⦅神聖魔法4⦆⦅統率:小⦆⦅薬草学4⦆
[耐性]
⦅熱4⦆⦅毒5⦆⦅呪3⦆
[ユニーク]
⦅タイマン⦆⦅駿脚⦆⦅自動HP回復:小⦆⦅自動MP回復:小⦆⦅取得経験値up:小⦆⦅取得熟練度up:小⦆⦅取得絆量up⦆⦅念話⦆
「なるほど、学園都市編終了時のスキルに加えて、幾つかのアバターから継承したスキルはうまく引き継げているみたいだな。
一方で、HPや攻撃力といったレベル依存のステータスは引き継げないみたいだ。これは、アバターに依存する数字ってことかな。」
フィンのレベルが20まで上がっているのは、学園都市ダンジョンでのレベル上げによるものだ。
ゲーム時代の⦅シミュラクル⦆の学園都市編は、座学や学生同士の交流をメインにしたアドベンチャーゲームのようなプレイが主体になっている。
このため、学園都市編でダンジョンに潜る機会は少ない。
また、冒険パートの開始時点まではレベル上限が20になっていることもあり、一部のユニークスキルの取得の有無と、誰が⦅パートナー⦆かということを除けばその時点でのプレイヤーのステータス総合値には差異が殆ど出ない仕様になっていたのだ。
続いて彼は、ラミーのステータスを確認することにした。
⦅ラミー⦆
性 別:女
種 族:人虎
職 業:探索者
レベル:20
H P:168(168)(金)
M P:24(24)(黒)
S P:20(20)
攻 撃:169(金)
防 御:78(黒)
敏 捷:200(虹)
技 力:174(金)
隠 密:132(銀)
魔 力:28(黒)
精神力:45(黒)
────────
[スキル]
⦅体術3⦆⦅短剣術5⦆⦅罠探知3⦆⦅気配探知5⦆
[耐性]
⦅毒3⦆⦅痛覚2⦆
[ユニーク]
⦅野生の嗅覚⦆⦅健啖家⦆
「ふむふむ、こちらも学園都市編終了時点のステータスと考えて良さそうだ。
俺のようにリセマラした分の継承があるわけでは無いからスキルでは見劣りするが、ラミーはステータス面ではかなり優秀だ。流石は人気キャラランキング7位ってことだけはあるな」
ただ、フィンはこのパーティ構成がかなり⦅前衛⦆に偏っていることが気掛かりだった。
学園都市編を高速でリセマラするためには学園ダンジョンを出来るだけ高速周回する必要があったため、パートナーによって多少左右されはするものの、フィンの育成スタイルは基本的に攻撃特化になっている。
今回転生したこの世界でも、基本的にフィンの育成方針は火力ゴリ押しであったため、回復や補助の手段に極端に乏しい。
フィンは転生の際、魔法系で育成を終えたキャラクターから⦅神聖魔法⦆と⦅薬草学⦆のスキルを継承してはみたものの、ステータス値が引き継げないとなるとMPと魔力が物足りないので連発は難しいかもしれないと感じていた。
「うーむ。リセマラの仕様が少しわかってきたけど、こっちの世界では、レベルや能力値を上げるよりもスキルの取得・成長をメインに育成しないと俺の強みである転生を上手く使えないな。
あとは、なるだけ多くの災厄を退けて、情報を集めないと、本命の転生先で詰むことになったらもうやり直しが効かない──つまり、どの周回も手を抜くことはできないな。そう考えれば、まずは回復や補助を担う後衛を揃えていく必要があるか……」
こうした事を考えながら、フィンは幾つかこの周回での目標を立ててみた。こんな感じである。
⦅この周回の目標⦆
● 始まりの災厄の情報収集及び討伐
● 既存スキルのレベル上げ(各1〜2)
● 新規スキルの取得
⦅体力増大:小⦆⦅魔力増大:小⦆
最低でも、これらはこの世界を周回する上で早めにやっておかなければならないとフィンは思っていた。
まず、災厄に関して──
始まりの災厄の出現時期、場所そして対処法を解明することは、この周回での必須事項であった。
前回は転生後間もなく発動したにもかかわらず、今回の転生では開始から約1日が過ぎても未だワールドクエストは発動していない。
発動に何らかの条件があるのかもしれないとフィンは考えていた。
前回の転生では得られた情報があまりに少なすぎた。フィンには災厄の出現時期がズレているのか、転移した先の時間が異なっているのかもわからないのである。
また、前回のラミーは始まりの災厄への復讐を果たし、その次の災厄の最初の犠牲者になったというルシフェルの言葉から推測できることもあった。
現在既にラミーは一人でというわけではいかないにしろ、あの災厄を遠からず倒せるだけの力を持っていると見ていいのかもしれない。
これは、前回⦅タイマン⦆を発動させた状態での攻撃がディノケンタウルフに通ったことからも言えるが、恐らくあの災厄はパーティが揃った状態で戦えば、討伐適正レベルはそこまで高くはないのだろうとフィンは睨んでいる。
つまり今回の周回でも、パーティメンバー次第でなんとか出来るかもしれないと彼は考えていた。
次に、既存スキルの強化──
これは改めて言うまでもないが、転生での継承がスキルに限られている以上、今持っているスキルを少しでも強化していくことが次の周回をよりスムーズに進める上で重要になってくる。フィンはできるなら伸ばせるだけ伸ばしていきたい気持ちではあったが、ひとまず、各スキルの熟練度を1以上あげることを目標にすることにした。
最後に、新規スキルの獲得──
今回挙げた⦅体力増大:小⦆⦅魔力増大:小⦆以外にも有用なものは無数にある。しかし、特に転生後の即死を回避することを重視した場合、これらの基礎ステータスを上昇効果を有するスキルの取得は特に重要である。また、これらのスキルは取得条件もそこまで難しくはないため、次回の周回に備える意味でも確実に取っておきたいとフィンは考えていた。
◇◇◇
「ま、こんなところかな……」
ある程度の情報を整理したあと、フィンは隣で眠るラミーに目をやる。
「ん……んん。フィ〜ン。もう食べられないよぉ……むにゃむにゃ」
あんなに食べたにも関わらず、ラミーまだ夢の中でも何かを食べているらしい。
「──やれやれ、お前はいいよなぁ。ほんと、その性格が羨ましいよ。」
フィンはラミーに毛布をかけ直してからランプを消し、直ぐに自分も眠りに落ちた。
──…………
◇◇◇◇
「……ん。んん。」
──……
「……ぐすっ。ファースト──」
少女の寝言は誰にも聞かれる事なく、夜の闇へと消えていく……
◇◇◇
2022.2.22 読みやすさ改善のため改稿しました( ᐢ˙꒳ ˙ᐢ )