第8話 お楽しみの時間?
◇◇ “カナン” 大衆食堂 “金色亭” 2階──
現在、フィンはラミーと二人、宿屋のベッドに向かい合う形で座っていた。
「よし、それじゃさっそくやろうか。
相性とかがあるかもしれないから、いま試しておきたいんだ。」
フィンは真剣な顔つきでラミーを見つめて言った。
「う、うん。な、なんだかドキドキするよ……。
あ、待って! あ、あたし臭くないかな?」
ラミーは、そのオレンジの髪を手で鼻に寄せつつ、上目遣いでフィンを見る。
「いや、別に臭くはないぞ? それに、嫌ならやめてもいいって言いたいところだが、俺たちは “パートナー” だからな。
これからも二人でやっていく為にこれは必要なことだ。」
フィンは、正直な気持ちをラミーに伝えた。
「そ、そう? それなら、いいんだけど……。」
「何度も言うけど、でかい声だすなよ?」
「わ、わかってるよう……! ……で、でもでも、やっぱり我慢できないかも!」
「大丈夫、全部俺に任せてリラックスしてればいいよ。それに、慣れてくればすっごく楽しいんだ。きっとラミーも気にいると思う。」
「ほ、ほほほんとうに? あたしは経験ないからわかんないけど……、そういうものなのかな? フィンはこういうのこれまでよくやってたの?」
ラミーは少し照れたような、それでいて不安そうな表情でフィンを見つめている。
誰とでもできるかと言われれば、そうではない。波長がピッタリ合わないと、うまくいかないこともあるからだ。
フィンは少し返答に悩んだ後、こう答えた。
「……いや、あまり経験はないが、ああ、初めてじゃない。」
「そ、そうなんだ……。」
フィンの言葉に、ラミーは肩を落とした。
どうやら “パートナー” として、初めての相手に選ばれなかったことをラミーはかなりショックに感じているようだ。
さっきまで緊張でピンと伸ばしていた尻尾が、一瞬でぐにゃりと垂れ下がってしまった。
「……だが、これからは日常的にやっていくことになるんだ。しっかり慣れてもらうからな。」
「っえ!? 日常的に!?」
ラミーは目を見開いてフィンを見つめ、顔を赤らめた。
「ああ、街中とか周りに人が居てもできるようにしておかないと、いざと言う時に困るんだよ。」
「…っえ、っええ!? それってどんな時!?」
「いや、色々あるだろう?? 例えば、後をつけられたりして身を隠す時なんか、咄嗟にできないと困るぞ?」
「か、隠れた先でするの!? ……そ、そっか。心に余裕を持つため……ってことね!?」
「……? ……よくわからないが、何なら繋ぎっぱなしで外に出て試してみるか?」
「……!? い、いや……さ、流石にそれは……。」
ラミーは顔を更に真っ赤にしていやいやと首を振っている。
「そうか? まあ、とりあえずやるぞ?」
「……あ、待って待って!まだココロの準備が……。」
ラミーは、ギュッと目をきつく閉じた。
(お父さん、お母さん、ラミーは今日、ついに大人になりましゅ……!!)
………………
……(ラミー、聞こえるか? ラミー?)
……( ……… 。)
……(おーい、ラミー? どうした? 聞こえているはずだが?)
……( ……… 。)
フィンはラミーに⦅念話⦆を繋げ、会話を試みる。
一瞬彼女の思念が読み取れたように思ったが、まだ波長が重なりきっていないのだろうか、呼びかけてもラミーからの返事はない。
隣へ目を遣れば、ラミーは俯き、肩を震わせている。
……(そうか、ラミー。初めての念話の相手じゃなかったこと。やっぱりちょっと怒ってるんだな?
確かに、こんな楽しいことを黙っていたのは悪かったよ。けど、俺もコレが使えるようになったのはつい最近なんだ。
それに、安心していいぞ? 俺だってこれをやったことのある相手はそもそもこれを教えてくれた人だけだし、特になんか楽しい話をしたわけでもないから……。)
そこまで言ったところで、何やらボソボソというラミーの念話がフィンに届く。
……( ……か。)
……(え? よく聞こえないぞ?)
……(フィンのばか〜〜!! しんじゃえアホ〜〜!!!!)
キーーーーーーーン。
頭の奥底まで、大音量の念話が響き渡る。
フィンが頭を押さえ込んで耐える間に、ラミーはものすごい勢いで立ち上がると、逃げるように走り去って行った。
「⦅念話⦆じゃ耳を塞ぐこともできないのですごく、辛い……。」
部屋に一人残されたフィンは、何が悪かったのだろうとしばらく考えるのだった。
◇◇◇◇◇◇
「とりあえず、ラミーを怒らせてしまったようだ。こういう時は謝罪だ。悪気はなかったとはいえ、相手を傷つけてしまった事に対しては誠意をもって謝らねば──。」
やっと頭痛から解放されたフィンが部屋を出ようとした時、ちょうどラミーが帰ってきた。
……しばらくの沈黙。
ラミーの顔は、まだ少し赤い。
フィンは、意を決して──
「「ごめん!」なさい!」
同じ言葉が口から出ていた。
二人は顔を見合わせる。
「あ、あたし、あたし何か変な勘違いしちゃって! 突然フィンから楽しいこと教えてやるって言われたから、てっきりその……。それに、大きな声出しちゃってごめんなさい!」
ラミーは矢継ぎ早に言葉を紡ぐと、勢いよく頭を下げた。
「い、いや……、俺の方こそ。ちょっとビックリさせてやろうと思って……。けどよく考えたらそんなに楽しくもなかったし、それにラミーが初めての念話の相手にそこまで憧れてたなんて知らなくて。本当にごめん!」
フィンも、しっかり頭を下げて謝った。
再びの沈黙……
しばらくして沈黙に耐えかねたフィンが眉を上げてラミーを見るのと、彼女がフィンを覗き返したのはまた同時だった。
──……っぷ。
あはははは!
ははははは!
二人は同時に吹き出した。
こんなにも、タイミングが合うのだ。
それに、念話も問題なく使えることがわかった。
たぶん、ラミーとの相性は相当良いのだろう。
「あははは! あたし、あたしね。ほんと早とちりが多くて、ほんと、バッカみたいで! あはははは!」
ラミーは手でパタパタと顔を仰ぎながら爆笑している。
「ははは! 俺もだよ。ラミーを怒らせてばかりだ。本当に悪かった。けど原因が分からなくて……いったい何で怒ったんだ?」
「……ッ大丈夫大丈夫! ほんと、なんでもないから。忘れて忘れて!」
笑い過ぎたのか、ラミーの顔がまた赤くなる。
「それに、大人になりまし──」
「忘れろー!!!!」
「あうっ!」
ラミーは全力でその拳をフィンの側頭部目掛けて振り抜いた。
◇◇◇◇◇◇
──その日の夕方。
(なんだかよく分からないが今日一日眠りこけていたらしい。頭もガンガンする。……風邪だろうか?)
貴重な一日を無駄にしてしまったことに、フィンは申し訳なく思っていた。
そのことを謝罪すると、ラミーは大丈夫とだけ答えて顔も合わせてくれない。
ただ、何故かビックリさせてやろうと思って隠していた念話について彼女は知っていたし、とても初めてとは思えないくらい要領よく使いこなせるということもわかった。
(あいつの獲得済みスキルの中に⦅念話⦆はなかったような気がしたんだけどな?)
フィンは首を傾げながら、ラミーのステータス画面をまじまじと見つめるのであった。
とても不思議な体験をした一日だった。
◇◇◇
少しコミカルな回を出してみました。
次話は、いよいよ情報と仲間集めです!
ここまで読んでいただき有難う御座いました。
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2022.2.22 読みやすさ改善のため改稿しました( ᐢ˙꒳ ˙ᐢ )




