第6話 ⦅金色亭⦆
◇◇農耕都市⦅カナン⦆の大通り──
「ッく〜〜〜〜! っやっとついた〜!!
ねぇねぇフィン、何食べよっか!? この街って何が美味しいんだろうね? わくわく!」
「うーん、俺もこの街は初めて来たし、名産品とかよく分からないな。まあ、とりあえず、のぼりが出てるあの店でいいんじゃないか? 大衆食堂っぽいし」
⦅カナン⦆の街の門を抜けた二人は、大通りにある手頃な食堂を見つけて入店した。
◇◇◇
「金色亭へようこそ! お食事ですか? それとも──」
「はい! 食事です!」
店に入ってすぐに店員から声をかけられたラミーは、間髪入れずに返事をした。彼女の頭はもう食事のことでいっぱいらしい。
「ふふふっ、かしこまりました。では、こちらへどうぞ〜」
店員は、ラミーの食い気味な返事に一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑み直して二人をテーブルに案内した。
昼食を取るにはかなり遅い時間だったためか、店内は空いていた。
「ところでラミー、念の為聞くが、金は持ってるのか?」
席に着いたところで、フィンがラミーに問いかける。
彼としては結果を聞くまでもなかったのだが……
「無いです! フィンさん貸してください!」
即答だった。
「……ですよねー(棒読み)」
(やっぱりな、こいつめ)
ラミーは学園都市にいた頃から、かなり金遣いが荒かった。
種族的に肉食動物の習性が混ざっているためなのか、お預けっていうものができない性格らしい。なので、あたしが特別残念な娘というわけでは無い! 人虎は皆んなそうなのだ!! と、本人がいつか威張るように言っていたのをフィンは覚えている。とても威張れることではないのだが。
「フィーン……お願いだよぅ。ウルウル。」
(いや、ウルウルって口から聞こえる音ではないから)
「……おーけー、わかったよ。じゃあ、コレを食べたら、暗くなる前に街の人から情報を集めてきてくれるか? この街で何ができるのか知りたいな。」
「イエイ! フィンってば優しい! 大好き! まっかせて〜、じゃあ頑張って面白そうな話を片っ端から集めてくるよ〜!
あ、お姉さ〜ん! こっちこっち! え〜とね、コレとコレとコレと〜……」
ラミーは早速店員を呼び止めて、店のメニューから気に入ったものをどんどん頼み始める。
── オススメは何ですかー?
── 羊肉の衣揚げになります。
── じゃそれも〜。
「うん、じゃあ頼むよ。俺は、泊まる場所を探すからな。」
「は〜い。」
フィンは、この後の計画について頭を巡らせた。
(まずは、ステータスの確認をして、適正なランク帯のクエストがあればそれをこなしつつレベルを上げ、装備を整えていく必要がある。)
(近いうちに災厄が現れることは間違いない。どれくらいの時間が残されているかはわからないが、少しでも戦えるように準備を整えておくべきだろう。)
── えーと、あとお水を小樽で2つもらえます?
── あ、はい。大丈夫ですよ〜
(そして、この先旅を続けていくとなれば、移動の為の荷獣、もしくは馬なんかも必要になるだろう。)
(ゲーム時代のシミュラクルにも、確かに食事や睡眠の要素はあった。だがそれはあくまでも回復アイテムとしての位置付けであったり、一時的なステータスの向上を目的とした物だった。つまるところ、長期間何も飲まず食わずに戦闘を続けていても特に問題は無かったのだ。)
── お待たせしましたー
── やたー! おいしそー!
(しかし、この世界が現実になった以上、今後は食事や休息の取り方も考えていかなければならないだろう。転生前の生活で自炊した経験があることがせめてもの救いだった。)
── あと、店員さん……ごにょごにょ
── ああ、でしたらウチにもありますよ
── そうなの? いくらくらい?
── 等級は高くはないですが……ごにょごにょ
── へーそうなんだ〜。じゃあ〜
(目下のところ、まずはこの街で情報、資金、仲間の優先順位で戦力を整えていく。そして、頃合いを見てから更に大きな街へと移動して……)
◇◇◇
「──ん?」
しばらく考えに集中していると、フィンの視界の端でひらひらと動くものがある。
ラミーの尻尾だった。
横を見れば、いつの間にか食卓には大量の料理が並べられていて、それを前にラミーが目をキラキラさせている。
だが、手をつける様子はない。
自分がお金を払わないことに気が引けているのか、チラチラとフィンの方を見ては、尻尾の先だけを器用に左右に降っている。
きゅるるという音が鳴り、ラミーが完全に下を向いてしまったところでフィンは思わず声をかける。
「さ……、冷めないうちに……どうぞ?」
(まあ、頭を使うのは十分な休息をとってからでも良いだろう。そもそも、情報が揃っていない現状では、大まかな方針を決めるくらいしかできることはないのだから。)
「えへへ……じゃ、いただきます!」
ラミーは早速、鳥の丸焼きを鷲掴みにして齧り付いた。
その後もガツガツと言う感じで飯に手を伸ばす彼女は、何というかかなりワイルドだった。
「ちょっと行儀悪くない?」
「にゃによう、ふぉいしそうなんだからしょうがないじゃない! ……ゴクン。それに、お料理だって喜んで食べて貰える方がきっと嬉しいんだから、食べ方は間違っていないと思う!」
「……まあ、それもそうか。」
ラミーの言う通りであった。美味しいものは食える時に食べておく。一度街の外へと旅立てば、次にまともな料理が食べられるのは随分先になるのかもしれないのだから。
「あ、そうそう。ここの2階は宿になってて、いまちょうど部屋に空きがあるんだって〜」
「お、そうなのか?」
「食料になる獣とかを捕まえて渡せば食事代はサービスしてくれるってよ?」
「お〜。それはいいな」
「うん! そんでね〜」
◇◇◇◇◇◇
結局、フィンたち二人はその⦅金色亭⦆という食堂の二階にしばらく滞在することにした。
フィンが食事を済ませた頃にはラミーが既に眠そうにしており、宿も決まったので、なんだかんだでその日のうちに片付けておくべきことは無くなった。
フィンたちは情報収集の予定を明日に延期し、その日は早めに休む事にしたのであった。
◇◇◇
2022.2.22 読みやすさ改善のため改稿しました( ᐢ˙꒳ ˙ᐢ )