第47話 ベルゼビュートの攻略法
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(やっぱり、“美食の女王”だったか……。)
フィンの爆発符による爆発を生き延びた魔族の女は、自らを “美食の女王” と名乗った。そればかりか、万魔殿の魔王の一柱だという。
フィンはそれらの名にもちろん心当たりがあった。“万魔殿” とはゲーム時代のシミュラクルにも実装されていたオンラインパートである。また、 “美食の女王” の討伐レイドの配信も観たことがある。
(クソッ、無理ゲーじゃねぇか! あそこは冒険パートのレベルをカンストさせたような奴らが挑む高難易度コンテンツだぞ!? とてもじゃないが育成パートが終わったばかりの俺たちが勝てる相手なんかじゃない!)
フィンは内心毒を吐く。いっそのこと無謀に突撃してこの周回を捨てることも考えたが、得られる情報が多いに越したことはない。今は冷静に、ただやれるだけの事をやるしかないと結論した。
フィンが思考を巡らせれば、そっと肩に手が添えられる。振り返れば、キースが穏やかな顔で語りかける。
「フィン君、奴を倒せなかったにせよ先程の一撃はお見事でした。」
「すみませんキースさん。先ほどの不意打ちが俺の最大火力、つまり切札ってやつです。あれでも倒せないようじゃ、どうやら俺ごときではもう役に立てることがない。」
フィンは申し訳なさそうな表情をつくって言うが、実際のところそれが本音であった。
今の周回では《付与魔術》による自己強化を行うことで体術使いとしてもそれなりに戦えるが、単純な攻撃力で言えば魔法職として放った先程の爆発符に勝る手段をフィンは持ち合わせていなかった。
「十分です。あとは騎士団がやりましょう。 “黒獅子の咆哮” の名にかけて、女王はここで倒さねばなりません。」
キースは決意を込めた眼差しでそう返す。
彼の負担をどれだけ軽減できるかはわからないが、フィンはありったけの《強化魔法》を重ね掛けしながらキースにゲーム時代の “美食の女王” に関する攻略情報を伝えることにした。
「もうご覧の通りではありますが、あいつの生命力は桁違いです。生半可な攻撃は即座に回復してしてしまいます。普通に戦えば長期戦になり、戦いが長引くほどこちらが不利でしょう。」
「それは私も考えていました。あれ程の傷を負いながらも再生するなんて、異常としか言えません。つまり、短期決戦でヤツに再生不可能なレベルにまで傷を負わせることが勝利条件になる。ということですね?」
キースは的確にフィンの意図を理解する。
「流石ですね、その通りです。それと、ご存知かとは思いますが魔族には “核” と呼ばれる器官があり、これが傷つくと大幅に弱体化します。先程の爆発では核までダメージが届かなかったようなのでだいぶ深く斬り込まないと難しいとは思いますが、俺の魔力感知で探ったところでは、あいつの “核” は左の脇腹あたりにあるはずです。意識的に狙ってみてください。」
“核” に関する情報はゲーム時代の攻略情報から得たものだったが、正直に言うわけにもいかないのでフィンは上手く誤魔化すことにした。
その言葉を聞いた後キースはじっとフィンの眼を覗き込んでいたが、やや間をおいてから頷く。
「ふむ……その眼、どうやら信頼のおける情報のようですね。先程の地下からの襲撃の際も、皆より一瞬早く障壁を発動させていて驚きましたが、あの一瞬でまさかそこまで見抜くとは。」
「傷の修復のされ方を見て魔力の流れを辿ったんです。器用さと目聡いことしか取り柄がないんでね。あんまり褒めたって、これ以上は何もでませんよ?」
フィンは礼賛に苦笑で返した。
「承知しました。では、ここは私が行きましょう。ミルダ、そのまま先行してヤツの足止めをお願いします。」
キースは既にラッシュの援護のため向かっていたミルダに念話で指示を出す。
「行けるさ。もちろん行ける。ただ、あの爆発でも倒せないんじゃ、どうしたって勝つイメージが沸かないね。何か勝算はあるのかい?」
ミルダはたらりと汗を流しつつその通信に応えた。
「かなり薄いですが……二手に分かれて叩くしかありません。ミルダは大鎌を抑えてください。私が隙をついて左脇腹の “核” を突きます。それさえ傷つければあそこまでの再生はできなくなるはずです。」
キースはミルダにそう言うと、今度はフィンを振り返る。
「もし “核” に傷を入れることができれば、そこからは手数の勝負です。総力を上げてヤツを削りきります。その時はフィン君たちも攻撃に参加してもらえると助かります。」
「わかりました。そうさせてもらいます。危険な役を押しつけてすみません。」
「なに、攻略の糸口を教えていただけただけでも助かりました。必ず奴を倒しましょう。」
こうして、作戦は決まった。
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