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第38話 異なる世界、異なる始まり

 

 ◇◇◇


 フィンがステータス画面の “サポート” の項目に意識を集中させると、途端に時の流れが緩やかになる。


 念話で話す時と同じ様な要領で、フィンは繋がっているはずの “彼” ────ルシフェルへと呼びかける。


「おーい、ルシフェル? ちょっとだけ現実逃避したいんだが……。」


『……くすくす。あれ? 色男さんじゃない。大丈夫かい? モテる男は辛いねぇ。』


 フィンの呼びかけに直ぐルシフェルは応じた。どうやら、既にこの状況は彼の ”観測下” にあったらしい。


「はぁ、ルシフェル……お前、黙ってたな?」


 ルシフェルと話ができると分かるや否や、フィンは彼に向かってそう告げた。


『おや? いったい何のことだい?』


  “声” しか聞こえない状況にあっても、フィンにはルシフェルの現在の表情が手にとる様にわかった。


「なに笑ってんだよ、 “災厄” のことだ。」


『あ、そっち?てっきり “転移先” のことかと思ったよ。』


 ルシフェルは惚けた様な声でフィンの言葉に応じる。


「それもあるけどさ。どっちかと言えば “災厄” の方が重要だろ? 何で黙ってた?」


『ん〜。ちょっとだけ驚かせたかったからかなぁ。どう? ミレッタの寝顔見た時、驚いたでしょ?』


「ああ、()()の意味でな。」


『ははは、なら。成功だ』


 ルシフェルの声は明るい。心底この状況を楽しんでくれた様だ。フィンは、いつ “災厄” の “黒い霧(スポナー)” が自室に出てくるのかとヒヤヒヤしてたというのに。


「 “災厄” の発生条件は揃ったはずだ。なのに、どうして “黒い霧(スポナー)” が出てこない?」


 フィンは少し憤りながらもルシフェルへと問う。


『そうだねぇ。全ての “シミュラクル” はいま、基本的な世界の法則は共有されたままに、一部の人間たちの記憶や僅かな歴史が異なる “パラレルワールド” になっていることを既に君は知っているね?』


「ああ、知っている。クラスメイトの組み合わせの数だけ存在するパラレルワールドだ。かなり似通ったものはあるだろうが、一つとして “同じ” 組み合わせはない。」


『その通り。そして “始まりの災厄” は、君のこれまでの2回の転生では同じものだった。だけど今回はその発生条件も、もっと言えばその内容さえ違うものだ。よく考えてみて? この意味するところが、君なら検討がつくんじゃないかな?』


 ルシフェルの言葉に、フィンが数日前、 “作戦会議” の時から感じていた違和感。そして、ミレッタが出現した事でより強まっていたある疑念が、ついに確信へと変わった。


「なるほど分かったぞ……災厄の正体、それは──── “パートナー” となったキャラクター毎に設定された()()()()()()だな?」


 フィンは、絶対の自信を持ってルシフェルへと告げる。


『おお、その通り。フィン、正解(ビンゴ)だよ。災厄の発生条件とその内容は “シミュラクル” が変われば……。いや、君の “パートナー” が変われば大きく異なるんだ。つまり、セリエちゃんにとっての “始まりの災厄” は、ラミーちゃんと()()()()()()。』


「なるほどな……。道理で最初の世界で “始まりの災厄” を倒したラミーが次の災厄の “最初” の犠牲者になるわけだ。」


 ルシフェルの種明かしに、フィンは初めての転生先でのパートナー(ラミー)が辿った運命を思い出して一人納得していた。


『そりゃ彼女自身が災厄のターゲットになっているんだもの。簡単には避けられるはずないさ。そしてセリエちゃんに降りかかる “災厄” も、現在既に動き始めている。それがどんなものなのかは、私が言わなくてもわかっているよね?』


「……ああ。作戦会議で騎士団から聞いた情報から、実は大体の当たりはつけていた。蟲型で、旺盛な食欲を持ち、短期間にここまでの勢力へと成長する魔物は、 “シミュラクル” の世界ではそう多くはないからな。おそらく、それがセリエに降りかかる最初の “災厄” の正体だ。」


『ふふふ、相変わらず察しがいいね。』


 フィンの言葉に、ルシフェルは満足そうに笑っている。


「セリエにとっての “始まりの災厄” 。それはおそらく、 “蟻の女王(レジーナアント)” 。今回の昆蟲大戦(バグウォーズ)は、俺とセリエがパートナーになったことが原因でこの世界に発生した⦅災厄⦆ってことだな?」


 フィンは、どこか険しい表情をしてルシフェルへそう告げた。


『……そうだね。とは言え、君が責任を感じて思い悩む様な事ではないよ? 一度動き始めた “シミュラクル” は、君達が()()()()()()()()()()()()その “結末” に向けて突き進んでいくし、あらゆる “シミュラクル” が現実になった時点で、 “災厄” は辻褄合わせでもなんでもなく、その世界が歩むべき運命(ルート)なのだから。』


 ルシフェルは、 “災厄” の発生がフィンとセリエのせいで起きた事ではないと彼に告げる。


「そうは言うが、ルシフェル。今回の “始まりの災厄” ……、その相手が本当に “蟻の女王(レジーナアント)” だとすれば、とても()()()()の俺達が叶う相手じゃないぞ? ……お前、こうなる事が分かっていて俺達の “転移先” を城塞都市(フィリス)に設定したな?」


『おっと、バレたかい? ちょっとしたサービスのつもりだったんだけれど……正解だ。今回の転移先は、私の方で少し調()()させてもらったよ。本当は、同じような条件を持った他の地域……例えばあの “カナン” なんかでも今回の災厄は発生し得たんだけどね。』


 ルシフェルはそう答えるが、フィンには彼の()()がわからない。


「ルシフェル……お前の望みはいったい何なんだ? “シミュラクル” への()()は、お前にとっての御法度なんじゃなかったのか?」


 フィンは、少しためらいながらもルシフェルに彼の行動の真意を尋ねる。


『私は “君” への干渉は躊躇しないと言った筈だよ? まあ、あくまでも直接的に君の敵を排除するといった干渉は避けるけれどね。学園都市の “転移門” の行き先の操作くらいであれば、 “()()” もそう強い抵抗はしなかったし、歴史の改変にも当たらない。それにこの転移先は、今回()()にとっても()()()()()ものになっている筈だ。』


()()……?」


 フィンはそう呟くが、ルシフェルはその呟きを無視して言葉を続けた。


『私の望みは一つさ……全てはこの “世界” 全体の()()のため。だけど、フィンの事は応援しているよ? 君が一刻も早く強くなって “願い” を叶えることこそ、私の “観測者” としての役目を果たすための近道だと思っている。それだけのことさ。』


「……やはり解らないなルシフェル。いったい俺に何を期待している?」


『そうだね、もう少ししたら……もっと話をしよう。次にこちらに帰ってきた時にでも、ゆっくりとね。』


 ルシフェルがそう告げると、フィンを包み込んでいた時間の流れが徐々に速さを取り戻していく。


 どうやらルシフェルはこれ以上、現段階でフィンに語るべきことはないと思っているらしい。


「わかった。ルシフェル、もう少しだけ待っててくれ。まずは、この “災厄” を止めてみせるさ。それと……。」


 フィンは、最後にルシフェルを呼び止めて言った。


「俺の “願い” は彼女と、──メアリと結ばれることだ。世界の安定とやらが何かはわからないが、俺は()() “願い” を叶えるために動くぞルシフェル。そのことを忘れるなよ。」


 フィンは、はっきりとルシフェルにそう告げた。


『ふふ、安心して。君の “願い” を邪魔するつもりは、私には全くないよ。』


 ルシフェルの声は徐々に遠くなる。


 時間の流れが急速に元の速さに戻っていくなかで、フィンの視界はまるで眠りに落ちる時の様にゆっくりとぼやけていき、いつしか彼はその意識を手放した。


 ◇◇◇


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