第30話 フィリスの街と “魔導鎧”
◇◇城塞都市の市街地──
「おお、すごい賑わいだな」
「ええ、辺境と聞いて侮っていましたが……。一見するに王国の “レーヴェン” にも遜色ないほど人は多い様に見受けられますわ」
セリエは門を出て直ぐに広がる光景に驚いている。自らの出身地である王国の大都市レーヴェンでも、門を入ったすぐ側まで街の住人が溢れ返ることはないからだ。
「そんなに驚くことはない。もっと街の中まで進めばこの賑わいが嘘みたいに静かになるぞ?こんなに賑わっている理由は、この街一番の “大広場” がここにあるからさ。」
あれからフィンとセリエは何事もなく検問を終えて “黒門” を通過し、フィリスの城下街に足を踏み入れていた。
流石は現在大陸で最も勢いのある帝国の街、門をくぐって直ぐの大広場には至る所に “市” が立ち並び、そこで扱われている商品の種類も豊富だ。
「っえ!? ここが街の大広場ですの!? 普通、広場と言えば街の中心部にあるものではないんですの?」
セリエはシパシパと大きな目を瞬かせてフィンに問いかける。
「そう、多くの街ではな。これはこの城塞都市独特と行っても良い作りだ。 “黒門” ばかりに目が行きがちだが、この街の面白いところは他にもまだ沢山あるのさ。」
フィンはセリエにそう応えた。何もフィンとて現実世界でリセマラばっかりやっていたわけではないのだ。
ただ、シミュラクル漬けの毎日を過ごしていたことは間違いなく事実であるが……
彼は公式サイトやら掲示板をチェックしたり、公式の出版したファンブックなども持っていたので、何気に自分でプレイしたことのある以上にこの世界について知っている。伊達に、抜き打ちで行われたものを含んだ学園都市の試験を “全て満点” とれるわけではないのだ。
フィンはこの世界のあらゆる国の国情や、それぞれの主要都市の大まかな特徴についてはこの世界で “有識者” と呼ばれている者達のそれを凌ぐほどよく知っている。
この街の “大広場” が黒門の直ぐ側にある理由は、この街が戦時を意識した作りになっており、戦時にはここが出撃を待つ軍隊の待機場所兼ねて、練兵場や配給場所にも使用されるからだ。
非常に合理的な様であるが、この作り──実は門を抜かれた場合には街の中心部まで一気に敵に攻め込まれる危うさを有している。
絶対に “黒門” が破られることはないと信じられているからこそ出来る、超攻撃的な守りの城塞を有した街。それがフィリスなのだ。
◇◇◇
「私、これまで貴方に尋ねたことはありませんでしたけれど、フィンは何処の出身ですの? もしかして、帝国ですの?」
セリエはまた彼を試すような顔をしてフィンに尋ねた。
「いいや、違うけど?」
フィンは真顔で即答する。
「ふぅん。なら、どうしてそんなに色々知っている風に見えるのですかしらねえ。いずれ、貴方の故郷とやらにも行ってみたいものですわ。だって──。」
セリエは謎に包まれたフィンのプライベートに興味深々である。
だが、彼女がそこまで口にしたところでフィンの顔を覗き込むと、彼は少し困ったような表情で彼女に笑みを返している。
「……そうだな。」
フィンの笑顔には、何処か哀愁にも似た感情が見えた。
(何故そんな顔をするの?)
そんな言葉が喉の底まで出かかったが、結局その真意をセリエは問うことができなかった。もしかすると、彼は故郷にあまり良い思い出がないのかもしれない。
もう少し二人の関係が深まるまで、この話に触れることは避けようとセリエは思った。
思いがけず暗くなってしまった雰囲気を誤魔化そうと、彼女は再び自分の周りに目を遣る。すると、王国ではあまり見かけない形状をした鎧が彼女の目に飛び込んできた。
「そ、そうだ! ねぇフィン、あの方達が身につけている “鎧” ──なんだか面白そうな形をしていますわね。」
そう言ってセリエが指差す方へとフィンも顔を向ける。言われてみれば、街の中には他所では見ない独特の装具をつけた人間がチラホラ歩いているような気がする。
「ああ、アレは “魔導鎧” だな。ほら、学園で習ったろ? 帝国の魔術師は面白くって、自らの魔力をああして鎧に纏って接近戦もやるんだよ。接近戦専門の魔術師達は、 “魔導戦士” なんて職業を名乗っていることが多いんだ。」
近年益々発展を遂げた帝国は、大陸の中で最も “魔導科学” の発達している国だ。とはいえ、やはりゲームを元にしたこの世界はその技術進展の仕方が独特で、本来あるべき段階を踏まずにポンと新しい技術が生まれていたりもする。
魔導鎧というのもその一種で、帝国の秘匿した技法により作られたメカメカしい鎧だ。噂によれば、古代の魔法陣を内装に組み込むことで様々な機能を鎧そのものに付加するらしい。古代魔法陣の解明は逐次進んでいるもののまだまだ体系的に整理されたものではなく、現在は実験段階のサンプルを先行的に実戦投入しているという状況の様だ。これらは基本的に帝国の領内からは持ち出し禁止となっているが、帝国のお抱え冒険者になれば、その一部を扱わせてもらう事ができるらしい。
学園都市のあるフォーリナー神聖国と帝国は軍事協定で互いの技術を明かさないということになっているので、学園都市にその情報は殆ど入ってこないのである。
「へぇ、アレがそうなのね。なんだかカッコいいですわ。魔力を纏う……というならフィンにも扱えるんではなくって? お金なら多少は出せますわよ?」
セリエはワクワクとした表情でフィンに迫る。
「わわっ、なんだよ無理だって。アレは帝国に所属した魔術師にしか使わせて貰えないし、そもそも俺はあんな動きにくい鎧なんて着たら逆に戦力にならなくなるよ。」
セリエの言葉にフィンがそう返すと、彼女はガッカリとしつつもプクと頬を膨らませている。
「もう、せっかくフィンの喜ぶ顔が見たいのに……。とっても残念ですわ!」
セリエはそう口にして、なんとかフィンの気を引こうと次の面白いものはないかと探しにかかるのだった。
◇◇◇
次はいよいよ大きく動きます!
少し長くなるので、分けました☆
2021.11.9 読みやすさ改善のため改稿しました( ᐢ˙꒳ ˙ᐢ )




