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第2話 初めての死


 ◇◇◇


 ラミーと別れてしばらくした頃──。


「お、どうやら “タイマン” の発動条件を満たしたようだな。」


 走り続けているうち、相変わらずステータス画面は確認できないが、感覚的に明らかに自分のステータスが上昇したのを感じた。ラミーは、どうやら完全にあの怪物のターゲットから外れたようだ。


 そして “タイマン” が発動したことで分かったことがもう一つある。俺がまだ奴のターゲットから外れていないということだ。


 ──ギャオオオオオオオオウ!!!


 怪物が、その存在を示す様に再び大きな雄叫びをあげる。やはり怪物は、俺の背後に張り付いたままだ。


(いや、徐々に迫ってきているか……。)


 ユニークスキル “タイマン” の効果は、プレイヤーが格上相手に1対1の戦い(タイマン)を挑む際、基礎ステータスが倍になるというものだ。

 だがおそらくは、学園生活編(育成パート)を終了したばかりの俺のステータスを倍にしたところで、あの怪物が相手では5分と持たないであろう。


 そしてその事には、おそらくラミーも気が付いているはず。


 ◇◇◇


(──ここは……。)



 しばらく森を進んだ時、俺達は丁度木々が途切れ、広場のようになったところに出た。どこか見覚えのある景色に記憶が呼び覚まされるような感覚を抱きながらも、今は迫る脅威に対する反撃を優先する。


 刹那、俺はクルリと反転し、怪物──始まりの災厄(ディノケンタウルフ)へと向き直って一気に加速した。


 急激な軌道の変化に怪物は少しだけ動揺したようで、浅く上体を起こす。


「さて、まあ、不本意なアカウントとはいえねぇ……、試せることは試せるときに。」


 俺は、ニヤリと笑い──


「試さないと、なあ!!」


 攻撃に()()()したステータスによる渾身の素手の一撃を、怪物の胸に向けて叩き込んだ。


 ──ギャオォン!?


 思わぬ強打を受けて、怪物は間抜けな声をあげてタタラを踏む。


「ステの極振りは育成の定番ですよねっと!!」


 俺は、一撃を叩き込んだ反動を利用して怪物との距離をとった。


「あれ、もしかしてダメージ通ったか?」


(これを続ければ、いけるか……?)


 そんな楽観的な考えが浮かんだのも束の間、淡い期待はあっという間に打ち砕かれる。


 先程まで視界の正面にあった怪物の巨体が一瞬ブレたかと思えば、次の瞬間にはこれでもかと開かれた巨大な両顎が、猛烈な勢いで左手から迫って来た。


 ──バグンッ!


「うわ! っと、危ねぇ!!」


 咄嗟に後ろに跳躍して逃れる。──が、間一髪で噛みつきを逃れた俺に対して、怪物は続け様にその前脚を振り下ろした。


 頭を狙われたその一撃を、本能的に腕で庇う。


 ──ブチブチブチッ!


 筋繊維の引きちぎれる嫌な音がした。怪物の鋭い爪に左腕が引き裂かれ、俺はそのままの勢いで吹き飛ばされる。


「っぐぁああぅ……!!」


 余りの激痛に、声にならない絶叫が思わず口から漏れた。何とか起き上がり体勢を整えようとするが、怪物はそんな時間を与えてはくれない。


 怪物の爪が、俺の脇腹目掛けて再度真上から振り下ろされる。


 ──ドパッ。


 それは俺の着ていた革鎧を容易に切り裂き、腹からは赤黒い何かが盛大に溢れた。


「ぐふっ! 一撃かよ……。」


 俺はその場に俯けに倒れ伏し、一人嘯く。


 ──ドックドックドックドック……。


 あ、腹が……超熱っちい……これなんだ? ……血か? 血って、こんな熱いんだ……。


 ──なんてリアルな感触……。


 もちろん現実で俺は腹なんて割かれたことはなかったから、それがリアルなものかどうかはよくわからなかった。

 だが、身の内に広がっていくこの()()()()こそ、これまで俺が触れたことのない “死” というものの感触なのだろう。


「うぇぇ……やっぱこいつ、チュートリアルのボスなんかじゃねえな……」


 ──グギャオオオオオオォォゥ!!!


 怪物は勝利の雄叫びをあげているが、もはやこちらに興味を示すことはない。

 どうやら、俺を食べるつもりは無いようだ。


 大量の出血に、意識が徐々に遠のいていく。


(まあ、これで当初の()()()()、アバター死亡による “()()()()()()()” が発動するはず……。)


 そんなことを俺は考えていた。



 ◇◇◇◇◇◇



「ファーストと一緒なら、きっとあたし楽しい冒険ができると思うんだよね〜。」


 ふいに、人虎(ワータイガー)の少女の顔がフラッシュバックする。


「ねぇ! あたし等さ──── 、これからもずっと2人で、組んでかない?」


 その表情から恥じらいの感情は全く読み取れなかったが、ピンと伸びたままピクリとも動かない尻尾を見て、彼女が緊張しているのはよくわかった。


「俺もお前と一緒なら、退屈はしなさそうだからな。……いいぜ。」


 彼女の問いかけに自然と出た俺の答えは、肯定だった。


「ッ──、やった……、やった! 嬉しい! これからよろしくね! 私の “パートナー” !!」


 俺の言葉を聞き、人虎(ワータイガー)の少女は、ラミーは、満面の笑みを浮かべてその尻尾を振っていた──


 

 ◇◇◇◇◇◇



 あの時、俺がした返事は()だった。

 2人で転移門に入り、視界に光が溢れた瞬間、俺はすぐさま()()()()()し、ファーストという名前と、そのアカウントを捨てた。


 少しでも長くいれば、きっと彼女との冒険に、いや、もしかすると彼女に、どんどん惹き込まれてしまうような気がしたから……。


 そして今度は、必ず死なないという約束をも破った。


「ラミー、ごめ……、守れない約束……──。」


 ラミーに向けた謝罪の言葉を最後まで紡ぎ終える前に、俺は意識を手放した。


 ◇◇◇◇◇


2022.2.22 読みやすさ改善のため改稿しました( ᐢ˙꒳ ˙ᐢ )

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