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第19話 魂の共有


 ◇◇狭間の空間(観測者の間)───



 笑い転げていたルシフェルも、暫くして落ち着きを取り戻したようである。フィンはようやくまともに会話が出来るようになった彼に向けて問いかける。


「ルシフェル、教えてくれ。転生先の世界で、俺の “パートナー” が前世の()()記憶を持っていた。そして、スキルの継承元に選んだ記録で “パートナー” だった相手も、何故か俺のことを覚えているようだった。あれはいったいどういうことだ?」


『……うん。そのことだけど、ごめん。君みたいにいくつもの並行世界(パラレルワールド)に “一つの魂” を写し変えていく存在って他にいなくてね。正確には私もわからないんだ。それにシミュラクルの世界におけるパートナーっていうものが、あんなに強い結びつきを持った存在なんだということを認識できていなかったんだ。あれは私の責任だよ。』


「で、どうなんだ? 次の転生で、あの二人から前世の……、これまでの記憶を消すことは出来るのか?」


『うーん、そうだねぇ。私の推測がその通りだとして、それは、現在(いま)の “君の魂” からこれまでに取り込んだ “彼女たちの魂” を分離するって事になるんだけれど、それは相当難しいと思う。ほら、フィンのバックアップなんて取ってないし、下手したら廃人になるよ?』


「そうか……なら、詫びだと思ってもう少し教えてくれ。俺の記憶はあいつら──ラミーとミレッタにはどう()()されていたんだ?」


『それじゃ説明しようか。だけどこれから語ることは事実半分、憶測半分だ。これから先転生を重ねるうちに、もしかするとこれが間違いだったって君に言うことになるかもしれない。それでも聞くかい?』


「ああ、憶測でもいい。わかる範囲で構わないから教えてくれないか。」


『わかった。ラミーちゃんって娘には君がファーストだった時の記憶が “夢” という形になって共有されていた。これは、二回目の転生でパートナーになったラミーちゃんが、君と一部魂を共有していたからだと思う。それほどまでにパートナーと君との結びつきは強い。』


「転生先のパートナーには、そこに転生するまでの俺の魂の一部──つまり “記憶” が入り込む……ってことか?」


『そう、全部ではないにしろ、特に、前世で “パートナー(その子)” と過ごした強い記憶やイメージは露骨に流れ込むだろうね。詳細な思考までは明確に伝わるかどうかわからないけれど、具体的に見たもの。発した言葉なんかは伝わってしまうと思う。強烈な記憶であればあるほど、ね。』


「そうか、では、ミレッタにはどうして俺の記憶があったんだ?」


『彼女は、自分が君の “パートナー” であるという記憶が残っていたよね。それは、君が彼女をパートナーにした時の世界の魂──つまり、スキルを継承したからだと思う。』


「それは、その通りだ。俺が今回転生する前に、ミレッタをパートナーにした世界のスキルを継承したのは確かだ。だが、ミレッタは2回目の転生先ではパートナーじゃないぞ?」


『そうだね、それはおかしいよね。けど逆に、君も転生するたび “パートナーの魂を共有” ──つまり “彼女達の魂” の一部を取り込んでいた──と考えれば、しっくりこないかい?』


「つまり、俺の魂に刻まれた “パートナーとしてのミレッタ” が、今回の転生では “パートナーではないミレッタ” と魂の共有を引き起こすきっかけになったってことでいいか?」


『そういうことになるね。たぶん、君の前に現れた時点では、君の魂から漏れ出た記憶を実際の自分の記憶であるかのように感じてたんじゃないかな? しかし、実際には君のパートナーはラミーちゃんで、君は彼女にとっての “()()” ではなかった。』


『いつからかはわからないけれど、彼女はそれに気がついて、本当のパートナーである君を求めてあの世界から消し去った、また会いに来るようにとも言っていたね。……私なら怖いから絶対に嫌だなぁ。』


「俺もヤだよ。あいつめっちゃ強いけど、いわゆるヤンデレだから本当苦手なんだ。ええと、難しいが結局のところ──、俺が転生するたびに、俺の “パートナー(仮)” って奴がどんどん増えていくって考えていいのか?」 


『平たく言えばそうだね。やったじゃないかハーレムみたいで。』


「いや、俺はメアリ “一筋” だから──でも待てよ?」


「じゃあ聞くぞ? 俺がもし現在(いま) “メアリ” の元へ転生したとして、仮にすぐにその世界で死んだとしても、俺とメアリはその後の転生先の世界であっても “パートナー(仮)” として生きていけるってことじゃ無いのか?」


『下衆い考えだなぁ。まあ、君ならそうくるかもと思ったよ。だが、それはやめておいた方がいい。』


「それは何故だ?」


『端的に言うと──。』


『 “メアリ” は君が彼女に出会ったあの “シミュラクル” 以外には、おそらく既に存在しないからだ。』


「は──なんだと?」


『その他全ての世界で “メアリ” は既に死んでいると考えていい。僕は、君の持っている562個の “シミュラクル” の他にも、かなりたくさんの世界の──始まりから終わりまでを見てきた。だから断言できる。メアリは君が保有いるたった一つの “シミュラクル” にしか、現時点で(いまのところ)存在していない。』


 ──ドクンッ


 心臓が高鳴る。


「──そんな……どうして……。」


『なぜ彼女の存在が消えてしまったのか。それは、私がいまここで語るべき事じゃない。──だけど彼女に訪れる “死” の運命は、この先いつか君が行こうとしている “メアリ(あの娘)” のいる世界(シミュラクル)にもやがて訪れるもののはずだ。』


「──じゃあ、お、俺は……。」


『メアリと結ばれたければ、彼女の死の運命を捻じ曲げるほどの力をつけるんだ。それしか方法は、ない。』


「い、いったいどれほどの力をつければそれは叶えられる──? その死の運命ってのは、例えば覚醒したミレッタよりも手強いのか?」


『どうかな。彼女も “シミュラクル” じゃ異次元の強さだからね、それに、僕が確認できた限りでは()()()()ミレッタのデータが少なすぎて判断しかねるよ。よくまああんな “パートナー” がいる世界を安易に継承で消しちゃうよね。』


「考え得る限りで、一番俺が都合よく()()()()()()()()()転生先があそこだったからな。数10年も同じ世界に居続けたら、メアリがおばあちゃんになっちゃうだろ? あれ? 時止めてるから大丈夫か。因みにあと2つほどミレッタの世界は残ってるぞ? ちゃっちゃと消しちゃった方がいいんだろうか……。」

 

『それは早計だよ。ミレッタはいつかまともな戦力として数えられる様にした方が得策だと思う。君の()()を叶えたいならね。』


「ミレッタの協力を仰ぐ……かぁ。それすごいわ。プレッシャーが。」


『まあ、君の持ってる世界だから僕は君がどうしようと止めはしないけれど……。おっと、話が逸れたね。死の運命の脅威に対抗したければ、どれくらいの強さを持つべきかっていう疑問だったね。んー、少なくとも君にとってイメージがつきやすいのは、⦅万魔殿⦆かな。そこの深層に居るようなヤツらと対等に闘り合えるくらいの力は必要になるだろうね。』


「マジかよ……その死の運命って完全に、ラスボスしか有り得なくない?」


『どうかな。私もメアリが消される瞬間を直接的に観測したわけじゃならなぁ。正直なところよく分からない部分もある。だけど、あれ? 諦める?』


「──ッ! そんなわけないだろう!」


『おお!』


「俺があの娘(メアリ)を救ってやる…… 、必ず救い出してやる!」


『今更ながら聞くけど、どうしてそこまで彼女に入れ込むんだい? 彼女とはたった一度の周回でしか会ってないのに。彼女が()()()()()()なのかさえ、本当は理解できていないんじゃないのかい?』


「──それは……。」


 ルシフェルは、それを聞くまでここから出さないよ! とでも言うようにフィンをまじまじと見つめている。


 その雰囲気に負けて、フィンはやれやれといった風に自嘲気味に笑った。


「ふっ、確かにそうだな。だが本当に、ただの一目惚れだ。俺の一方通行な “恋愛感情” だ。」


「だけど、俺たちは確かにあの周回で結ばれたんだ。ずっと恋焦がれた相手と、やっと相思相愛になれたんだ。」


「あの世界で、止まった時の中で、まだ彼女は俺を待ってくれてる。俺の手を引いて、やっと冒険に出ようとしてたんだ。あの娘はまだ誰にも世界に連れ出してもらえないまま、 “無垢なまま” で俺を待ってる。」


 ルシフェルは、フィンの眼差しに少年の心を見た。余りにも青々と燃える若い情熱は、長い時を生きる(ルシフェル)にとってはひどく眩しくて尊いものだった。


『フィン──』


 ルシフェルは何かを言いかけたが、しかし言うべきではないと思い直し、その言葉を飲み込んだ。


 彼は、フィンはきっとまだ気が付いていないのだろう。あまりに純粋で一途な思いは、彼へと向かう()()()()の思いから彼を完全に盲目にしてしまった。


 これから転生していく先々で、彼を待っている全ての “パートナー” にとっては、彼こそが彼女達にとっての運命の相手(メアリ)だという事実に、(フィン)はまだ気が付いていない。


『──もう、ゲームじゃないんだよ。』


 変わらない世界、都合の良い世界、自分ではない自分、誰も失わない世界。そうやって割り切れていた世界と、この世界は違うのだ。


 ルシフェルが、現在(いま)のフィンに掛けることができた言葉は、それが精一杯だった。


 ◇◇◇


ここまで読んでくれてありがとうございます♪

── 2022.3.2 読みやすさ改善のため改稿しました( ᐢ˙꒳ ˙ᐢ )


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