第14話 大魔女のミレッタ
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突如として目の前に現れたセクシーな出立ちの魔女に、フィンは思わず首を振り、もう一度確かめるように彼女を見るが、間違いない。
「ミ……ミレッタ? “大魔女” のミレッタじゃないか! だけど、どうしてここに?」
そう。彼女は、 “シミュラクル” のメインNPCであり、“パートナー” 候補の一人でもある──、大魔女のミレッタその人だった。
「えっ? だってあたし達 “パートナー” じゃないの……。当然、夫婦は共にいるべきだと思わない?」
(おいおい、コレはいったい……どうなってる? い、いや、そんな事より、今は黒い霧の方が重要だ。何だってこんなに一気に状況が動くんだよ!)
「え、ちょっと……ちょっと待ってよ! フィンの “パートナー” は、あたしだよ!? 貴方はいったい誰!?」
ラミーは、突然現れてフィンのパートナーを名乗るミレッタに困惑している。そのためか、彼女の背後で蠢く黒い霧には全く気がつかない様子である。
「あら、かわいい娘がいるわね……。ダメよフィン。あんまり遊びが過ぎるのは、女の子はすぐ本気にしちゃうんだから……。」
そう言って、ミレッタはススッとラミーに近づいていく。ふわりとその首筋に両手を伸ばしたかと思うと、柔らかい手つきでラミーの顔を挟み込む様にして撫で始める。
「くすくす……本当に、可愛い子猫ちゃんね。何処から迷いこんじゃったのかしら? よしよし……。」
「わ……わわ! やめてよ〜! うわ〜ん、フィン助けてぇ!?」
ラミーは顔を真っ赤にしてジタバタしているが、全く抜け出せる様な気がしない。
「はわわわ! コレは、どういう事ですか〜!? そして、その後ろの黒い霧はなんなんですかぁ!? ちゃんと説明して下さいぃ!!」
マリエラはこの大混乱の中でも精一杯冷静に努めようとしているようで、黒い霧からは目線を外さない。
フィンは、マリエラの言葉にハッとして顔を黒い霧に向ける──
「これ? ……これは、私の魔法じゃないわよ?」
「だろうな!」
ミレッタの言葉にフィンが声を上げた瞬間、頭にあの声が響く。
────ワールドクエスト、 “始まりの災厄” が発動されました。 “シミュラクル” に生きる全ての生命は、全力でこれに抗いなさい。
クエスト勝利条件は、個体名『ディノケンタウルフ』の討伐。
敗北条件は、全ての生命の “死” です。
クエスト達成報酬は、貢献度上位10名の生存者にのみ内容が通知され、授与されます。
以上です。────
声が止んだ後、前回同様に黒い霧はゴゴゴという低い音を発しながら膨張を始めた。
(──やっぱりだ。あの霧は、前回も災厄の発生時に現れたスポナーだ。)
(なんだ? この瞬間、何か条件を満たしたのか? まったく……いつもいつも、不意打ちにも程があるだろう!)
だが、今回のアバターはしっかりと転生時のレベル上限まで強化したフィンである。初回にお試し育成したアバターとは、文字通りレベルが違っている。状況は前ほど悪くはない。
それに加え、今回は後方に援護要員のマリエラとミレッタがいる。
マリエラはまだレベルが低いために無理はさせられないが、回復役に徹してもらえば怪物の標的はフィンたちに集まるのでそう問題はないだろう。
それに、ミレッタも………み、ミレッタも……。
フィンは、ミレッタの方に目をやる。
彼女は自称フィンの “パートナー” なので、既にパーティメンバーとして認識されていた。だからフィンは、即座に彼女のステータスを確認することができた。
そこに並ぶ物凄い数値に彼は目を見開き、結論する。
(な……なるほど、やはり……。)
残念だが、ミレッタは戦力として全く当てにできない!
そこには、魔力:計測不可能、MP: 0(計測不可能)という物凄く意味深なステータスが表示されているのだった。
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2022.3.2 読みやすさ改善のため改稿しました( ᐢ˙꒳ ˙ ᐢ)




