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第11話 伝説の果実

 ◇◇ “収穫祭” 当日、 “地母神” の神殿──



 ──ゴーン…… ──ゴーン……


 今日も時計塔の鐘の音が、一日の労働の終わりをカナンの住人達へと告げている。


 聖堂の中央で床に膝をつき祈りを捧げていた少女マリエラも、その音を聴いて今日の務めが終わった事を知った。そして、ゆっくりと目を開いた。


「ハァ…… もう、あれから3年も経ったのね──。」


 しかし、その表情は憂鬱である。

 彼女はその視線を自身の大きな胸に落としつつ、ため息をこぼした。


「いつか街で声をかけてくれたあの子たち……きっと、私をパーティに勧誘しようとしてくれてたんだろうなぁ。」


 彼女の頭には、数日前に大通りで自身に声を掛けた二人の冒険者の姿が浮かんでいた。


「ちょうど私くらいの年齢に見えた。それに、学園の卒業生の指輪をしていた……。

 神様……、もし運命が違えばあの学園に通い、あの子達のように世界中を旅することが私にも許されていたのでしょうか……。」


 彼女は “地母神” の像を見つめ、問いかけてみるが今日も神の像は何も答えてはくれない。


「ああ……ああ、やはり何も答えては、下さらないのですね……。」


 ……しばらくの沈黙の後、マリエラは肩を小刻みに震わせて嗚咽混じりに嘆きの声をあげた──。


「これはきっと神様が私に……、人々を()()()()()罰をお与えになっているのだわ。でも、でもこれでは余りに……。」


 目からこぼれ落ちた涙が、彼女の法衣に染み込んでゆく。


 ◇◇◇


 ── 数時間後


「やぁやぁ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ──こっちの果実は美味いよぉ!」

「今日摘みたての野菜だよ! 食べてってくれよー!」

「さぁ! うちは羊肉の衣揚げだよ! たっぷりあるから買った買った! 食った食った!」

「酒だよ美味いよ! うちのがあのレーヴェンで通用するかどうか、ここで試してやっちゃあくんねーかー?」


 陽も落ちかけた頃、ついに収穫祭が始まった。


 大広場は所狭しと沢山の出店が立ち並び、売り子の声や、男女問わない大きな笑い声で埋め尽くされている。周辺には、ちらほらと酔い潰れた住人達も見える。


 “カナン” は決してそこまで小さな街ではないが娯楽に乏しい。


 そのため、年に一度のこの収穫祭は、ここに住む者達にとっては唯一と呼べるほどの娯楽なのだ。

 現在俺とラミーはカナンの街の大広場で祭りを楽しんでいる。


「もうふぉろそろかな?」


 口にいっぱいの食べ物を詰め込みながら、ラミーが問いかける。


「ああ、もう陽は完全に落ちたから、そろそろ儀式が始まるはず。頼んだぞラミー。」


「……ん、ゴキュ。オッケー、ラミーちゃんに任せといてよ! あんなに練習したんだもん。きっと成功させてみせるよ!」


 ラミーは鼻から息をふんふんと吐いて意気込んでいる。


「いいか…… 何度も言うけど。」


「わかってるよー。でかい声は出さないよ!」


「あれ? いつかもそんな事を言ってたような……う、頭が──?」 


「どーしたのかしらフィン?? ふふふふ〜?」


「えっ? なんか怖い!」


 ◇◇◇


 ──ゴーン…… ゴーン…… ゴーン……


 そんなやり取りをしていると、時計塔から儀式の始まりを告げる鐘の音が聞こえてきた。


「おい。いよいよだぞ?」

「しっ静かに! 豊穣の女神様が来るぞ!」

「おいアンタ前が見えねぇ、少し屈んでくれ!」


 ざわざわとしていた広場も、しばらくするとシンとした静寂に包まれていた。


 ── その時広場中央のステージの松明がいっそう大きく燃え上がる。


 シャーン…… シャーン……


 鈴の音とともに、儀式用の緑と黄と白の衣装に身を包み、金色の髪飾りをつけた緑髪の神官、マリエラが現れた。彼女が独特のステップで舞踊を始めると、観客たちは思わずほぅとため息をつく。


「お美しい、あれが豊穣の女神様……」

「なんてたわわに実った()()なんだ……」


 それは本当に美しく、幻想的な光景である。

 舞踏は進み、いよいよクライマックスへと近づくという時──、一つの松明の炎が、まるで生きているかのように動き出してマリエラへと近づいてゆき、踊りに加わる。


「おい、アレ……!?」

「な、なんだ?」

「精霊様か?」

「こんな事、初めてだ……!!」

「なんて美しい……」


 その余りにも幻想的な光景に、観客達ははっと息を呑む。


『──マリエラ……』


『…… !!』


『聞こえていますね、マリエラ……』


 マリエラの脳内で聞き慣れない女性の声が響く。


『はい。……聞こえております。 』


 マリエラは戸惑いながらも踊りを続け、その声に返事した。


『マリエラ……私は、風と狩りの神マリス』


『…………!! 』


『貴女はいったい、何をしているのですか?貴女が仕える神は、彼女ではなく、 “私” のはずですが……? 』


『──そ、それは……!!』


『早く真実を明かして、自分のやるべき事を行いなさい。』


『で、ですが……彼等は私を、 “()()()()()” としての私を、求めています…… 』


『…………』


『どうして、どうして今まで……私のもとへ現れて下さらなかったの……? な、何で今頃になって……』


 ついにマリエラは舞いを止めてしまい、その場に跪く。


「ど、どうなってるんだ……?」

 広場にざわめきが広がっていく。


 その時、炎が一瞬大きく揺らめいた。


『──この……』


『……? 』


『この、甘えん坊!!』


『──!?』


『あんたはエルフの…… “自由の民” の子でしょう!! 自分じゃない誰かに、あんたの運命を決めさせてんじゃないわよ! 』


『……え? 』


『本当は、冒険に出たいんでしょう? そのために、たっくさん頑張ってきたんでしょう?

 なら自分の心の声を……もっとあんたは聞くべきよ。自分の心の声に、従いなさい。』


『……ま、待って…… 貴女は──』


 マリエラが手を伸ばして炎に触れそうになった瞬間、炎は静かに消えた。同時に、頭の中がスッと晴れたような感じがする。


「そ、そうか……私、私は……。」


 マリエラは、決意を込めた瞳で前を向いて立ち上がると、観衆に向かって声を上げた。


「皆さん。聞いて下さい! 私は、これまでずっと皆さんを()()()いました……!!」


「っえ、どういうことだ?」

「な、なんだ? 女神様の化身じゃないのか?」

 マリエラの言葉に観衆はざわめく。


「私。私は、エルフです! 本当は、 “豊穣の女神” でも……人間でも、ありません! この緑色の髪と、この耳が、その証です!」


 マリエラがヴェールを取り、結んでいた髪を振り解くと、その下からはスッと尖った長い耳が覗いた。

 今まで本当に、よく隠していたものだと思う。


「な、なんと……エルフ……か? 伝説の……」

「ほ、本物か?」

「い、いや。あんな胸をしたエルフなんて聞いた事ないぞ……?」

「そ、そうだ! エルフは貧乳のはずだ!」


(観衆のざわめきが、何だか変な方向に……。 みんな、マリエラの巨乳が大好きだったんだなぁ。マリエラ…… どうする?)


 マリエラは、顔を真っ赤にしながらも、自身の胸元に手を差し入れた。そして引き出された彼女の手には、2つの金色をした果実が握られている。


(そして、彼女の胸は、何というかとても……そう、()()()()としている……!!)


『これは──これは、つまり……ですね。』


 マリエラは、続く言葉を紡ごうとするが、うまく言葉にならない。だが観衆の一人が気づく……。


「ま……まさか! あれ、エルフの御伽噺に出てきた林檎じゃないか……!?」

「……本当だ!! 聞いたことがあるぞ……で、伝説の……」


 マリエラの胸から出てきた果実。その林檎は万病を退け、あらゆる生命の命を倍にさえ伸ばすという、人族も知るほど有名な伝説の “金の林檎(エデンの果実)” そのものであった。


 ──しばらくの沈黙のあと、全ての観衆が辿り着いた答えは、 “()()” しかなかった。


「「「「ほ、本物(偽物)だぁ!!」」」」


 その後なんだかんだで儀式は終了ということになるも、 “豊穣の女神” について参加者達は酒を交えて大いに語り始め、会場の其処(そこ)彼処(かしこ)で大宴会が始まった。

 宴会は翌日の明け方頃まで続き、最終的には冒険者ギルドの職員まで動員されて、ようやく昼前にお開きとなった。


 この収穫祭で起きた一連の騒動は、末長くカナンの街で語られ、後に伝説となったそうだ。


 そしてこの収穫祭以降、マリエラには “()()()()()” という不名誉な二つ名がついたのであった。


 ◇◇◇

ここまで読んでいただき有難う御座いました。

収穫祭のラストをしっかりコメディで〆られて満足です


下にある評価・ブクマ・感想いただければ、更新の励みになります!

また、別途メッセージ、Twitterでの交流も大歓迎です( ´ ▽ ` )これからもシミュラクルをよろしくお願いします!


2022.3.2 読みやすさ改善のため改稿しました( ᐢ˙꒳ ˙ᐢ )

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