第五話 アサド王国の鉄男と銅太
「奴の居場所はまだつかめないのか!!」
アルナールの西部にあるアサド王国。ここは森と湖に囲まれた平和な国であった。
ところが異世界転生者である鉄男という男に乗っ取られてしまったのである。
おかげで隣国を攻めては滅ぼし、吸収合併して強国へと変貌したのだ。
玉座の間で、鉄男は偉丈夫で黒鉄の鎧を身に付けていた。傍には文官らしい男が立っている。
鉄男は情報網を作り、アルナールの情勢を調べていた。
南部のカンゼィール王国のシルバー。
中部のサーラブ王国のサファイア。
東部のドッブ王国のサンゴ。
北部のヒサーン王国のプラチナに、バカラ王国のゴールド。
その内、シルバー、サファイア、ゴールドが討ち取られたのだ。
チートハンターであるシャイタンという男に。熊のような大男でとても物語の主人公には見えない。
なぜチートを持たない男に殺されたのかわからない。それにサンゴとプラチナだけは手を出していないようだ。
奴は女が好きなのか? それとも同盟を結んだのか? 密偵の話ではシャイタンはサンゴとプラチナのいた国を素通りしたという。ますますわけがわからない。
「チートハンターは必ず俺の元にやってくる。俺が築いた王国とハーレムをぶち壊しに来るんだ。そんなことはさせないぞ。俺が手に入れたものを壊しに来るなんて許されるはずがない……」
「でも鉄男君。殺された転生者はみんなチート能力で好き勝手にしていた人間だよ。サンゴさんとプラチナさんは自国のために力を使っていた。僕らが狙われるのは自明の理だと思うよ」
鉄男に忠告したのは銅太だ。彼も異世界転生者でチート持ちであった。彼は自分の世界の知識を引き出せる力を持っていた。だが鉄男は自分の覇権を広める以外に使用を禁じていたのだ。
二人は日本出身の高校生で幼馴染だ。鉄男が銅太を引き回しており、面倒事をすべて擦り付けることが多かった。
何か不都合があればすぐに銅太に投げてしまい、手柄は自分の物にしていた。
ところがある日鉄男は女子生徒に乱暴した。それを銅太のせいにしようとしたが、証人がいたのだ。
そのため鉄男は警察に追われる羽目になった。世界は自分を中心に回っていると思い込んでいた鉄男は怒り狂った。そして銅太が自分をかばわないことに腹を立て、彼の家に侵入して殺そうとしたが、誤って階段から転げ落ちたのである。
目が覚めるとそこは異世界であった。
「ああ? 鉄男君だとぉ? 何なれなれしい口を聞いているんだ、国王陛下とよべぇ!!」
鉄男は銅太の顔を殴った。彼は吹き飛んでしまう。身分は宰相なのだが、国王でもむげには扱えないはずだ。だが鉄男はまったく気にしなかった。
「俺はなぁ、自分の力を使って世界を治めたいんだよ。現実世界ではありえない世界征服を俺はここで成すんだ。お前はその知識を使って馬鹿どもを押さえればいいんだよ。俺の思い通りにならないことはこの世で最も許されないことだからなぁ!! ひゃははっははは!!」
鉄男はゲラゲラ笑っている。銅太は鼻血を出しながらも諫めることをやめる気はない。彼はなぜ自分たちが異世界転生をしたのを理解しているからだ。
「僕たちはこの世界を救うためにやってきた。チートの力で解決することを創造主が望んでいたんじゃないかな。なのに君は私利私欲で力を振るう。このままじゃ……」
「てめえ、俺に歯向かうなとあれほど……」
そこに一人の男が現れた。熊のような野性味のある男であった。シャイタンである。
「お前が異世界転生者か? まったくむかついてくるぜ」
「なんだ、お前は!! なんでお前みたいな奴がここに―――」
鉄男の首が飛んだ。飛んだ首は何が起きたのかわからないようであった。
銅太は動じなかった。今までのツケがやっと回ってきたのだ。鉄男に命じられたとはいえ、国民を苦しめ、嘆きの涙で溺れされた。鉄男だけ押し付けるなどありえない。銅太は覚悟を決めた。
だがシャイタンは背を向けた。
「待ちなさい! なぜ僕を殺さないんだ!!」
「? あんたは異世界転生者じゃないだろう? 俺はチート持ちが誰だかわかるんだ。あんたにはその気配が感じられないんだよ」
そう言ってシャイタンは立ち去った。銅太は呆気に取られている。なぜシャイタンは自分を異世界転生者でないと決めつけたのだろうか。
銅太は知らないが、彼は鉄男のしりぬぐいをし続けており、国民の信頼は厚かった。
鉄男は滅ぼした国に興味を持たないが、銅太は占領しつつ、国の体勢を立て直したのである。
「シャイタンという男は何者なのだろう? そもそもチート持ちを殺せるなんてありえないのに……」
銅太は考え込むと、ある結論に達した。顔が青くなる。
「彼もチート持ちだった……。彼自身異世界転生者であるなら話は分かる……。そして……」
今までシャイタンが手をかけた人間はどんな性質だったか? 暴君で力を振りかざし好き勝手に暮らしていた。
逆に見逃したのは自分の力に頼らず、自国の成長を促していた。
「まさか、神の望みなのか?」
銅太は背筋に寒気が走った。