第四話 ヒサーン王国のプラチナ
アルナールの北部にあるヒサーン王国は雪に閉ざされた国であった。年中氷に覆われており、作物はろくに採れない。さらに海も凍っており量にも出られなかった。
なので彼等の産業は盗賊であった。強奪と略奪以外、まったく食べる手段がないのだ。
そこに一人の女が現れた金髪で胸が豊かな美女であった。名前はプラチナという。
彼女は剣を振るうと岩山を切り裂き、魔法で凍った大地と海を融かしていったのだ。
おかげで国民はわずかながら畑を耕し、漁業をすることができた。
「そなたのおかげだな、プラチナよ。そなたのおかげで我が国は豊かになった」
ヒサーン王国の国王だ。二〇歳後半で野性味がある美丈夫である。城は無骨な石造りだ。マントも魔獣の毛皮で作ったものである。
プラチナは身体に合った白銀の鎧を身に付けていた。白いマントをなびかせている。
「いえ、私は戦争が嫌いなだけです。それに陛下のカリスマなしでは国民は動きません」
「国民もできるなら略奪はしたくないのだよ。相手も死に物狂いで反撃するからな。そなたが忌まわしい岩山を崩し、凍った大地を融かしてくれたおかげで我々は真っ当な生活ができるようになったのだ。感謝する」
頭は下げないが、国王は感謝の気持ちを述べた。
「ところでそなたは異世界転生者というのだったな。一体それは何なのだ?」
「私にもわかりません。当時の私は家庭や学校に期待を押し付けられ、それに潰されそうになりました。緊張のあまり心臓が止まったと思ったら、ここにいたのです。そして目覚めた私には不思議な力が備わっていました。創作物では割とよくある話ですけどね」
プラチナは所謂お嬢様で家庭では後継ぎとして厳格に育てられ、学校では理想の模範生として強要された。
彼女に自由などなかった。ここではない世界へ行きたい。彼女はそう願っていたのだ。
「そういえば聞いたか? 隣国のバカラ王国にいたゴールドという男が死んだそうだぞ」
「ゴールド……、確かバカラ王国の王を弑逆し、国を乗っ取った男ですね」
プラチナの顔が曇る。ゴールドは自分とおなじ異世界転生者だ。見た目はちゃらい格好で黄金の鎧を身に付けている。彼は戦えば戦うほど強くなる能力を持っているという。ゴールドの持つ黄金の槍は魔物だけでなく、女を下から突き刺すことも多いそうだ。
そして隣国に対して戦争を繰り広げていた。捕らえた女は暴力で屈服させ、死んでも終わらなかったという。
ヒサーン王国は同盟を組もうと呼びかけたが、つっぱねられた。逆にプラチナの身体を寄越せと言われた。プラチナが我慢していなければゴールドに斬りかかっていただろう。
彼女でもゴールドを殺すことはできない。プラチナは争うよりも相手と強調することを好んだ。チートの力で王国を支配するのではなく、国民の生活を豊かにすることを目的にしていたのである。
そしてゴールドは自分の身体を狙っていた。とりあえず防衛に力を入れているが、まさかあっさり死ぬとは意外であった。
「ゴールドを討ち取ったのはシャイタンという男だ。こいつはカンゼィール王国やサーラブ王国の勇者たちを討ち取ったらしいぞ。もっともビッブ王国の方は素通りしたらしいがね」
「……チート持ちは慢心してしまう傾向が多いようです。選ばれた力に振り回され、暴君と化してしまう。陛下、私がもしそうなってしまったなら、陛下の手で私を……」
だが国王は彼女の腰を抱いた。あまりの出来事に言葉をなくすプラチナ。
「そんなことはさせないさ。そんなことはさせぬ。その噂のシャイタンがそなたの命を狙いにくれば、余が討ち取ろう」
「陛下……」
二人はそっと口づけをした。とても幸せな気分になる。彼女にとってこの国と国王は大切な玉だ。決して傷つけぬよう心に誓う。例えチートハンターが襲撃しても、差し違える覚悟を持っていた。
だがシャイタンはヒサーン王国を素通りした。バカラ王国は主導者をなくして混乱したが、プラチナが乗り込んで治めることに成功した。