第三話 ドッブ王国のサンゴ
ドッブ王国はアルナールの東部にある貧しい国であった。枯れた大地に水は腐っていた。作物は育たず、家畜は疲弊していた。人々は病気になり滅びる寸前であった。
他国もこの国を腫れ物扱いし、国境を閉ざしているくらいだ。
そこにサンゴという少女が現れて豊かになったのだ。
彼女は異世界転生者であった。魔法で大地を生き返らせ、奇麗な水を生み出した。その力でドッブ王国は甦ったのだ。森が生まれ、心地よい風が吹く。
今では作物は普通に実るし、家畜も元気だ。さらに彼女が生み出した珍しい料理のおかげでドッブ王国は栄えていた。特にコメを使った料理が人気だという。
その道中をシャイタンは歩きながら考えている。どうも彼女の居場所がわからないのだ。
「今までなら歩くだけで異世界転生者と出会えた。なのに今回はまったく会える気配がない。どういうわけだ?」
ドッブ王国は牧歌的な雰囲気があった。木造の家に茶屋がある。シャイタンは一度休むことにした。
「すまないが甘いものを一つくれ」
「あいよ」
椅子に座って注文を取ると、中年女がさらに何かを持ってきた。丸いものが3つほど刺さっている。それが3本揃っている。
「これはなんだ?」
「これはダンゴというものだよ。サンゴ様が編み出したお菓子の一つさ。あたしら庶民でも簡単に作れるんだよ」
珍しい食べ物にシャイタンは恐る恐る口にした。そのもちもちとした食感はなかなか面白い。
あっという間に3本食べてしまった。
「ふぅ、うまかった。ごちそうさん」
「ありがとね。サンゴ様がこの国に来てから、この国は豊かになったよ。まったくあの方は女神様さね」
中年女はサンゴに感謝していた。だがシャイタンはなぜサンゴに会えないのか疑問であった。
「ところでこの国ではサンゴ様は何をしているんだい?」
「ああ、サンゴ様は自分の魔法を国民に教えているのさ。今この国で腐った土地を再生しているのは、自国の魔法使いなんだよ。サンゴ様は学校を作って子供たちに勉強を教えているのさ」
「勉強を……? なんでそんなことをするんだ? サンゴ様とやらがいれば平気なんじゃないのか?」
「それがねぇ、サンゴ様は自分の力を頼りきりにするのが一番危険だとおっしゃっているのさ。もし自分が死んだら王国は滅びてしまう。だから自分の力を誰でも使えるように研究していたらしいよ。偉い人は考えることがわからないね」
中年女はシャイタンから代金をもらうと、奥へ引っ込んだ。この国ではサンゴという女は自分のチートを危険視しているようである。なので後進の指導に力を入れているようだ。
「サンゴという女は異世界転生者でチート持ちだ。だがそいつの気配は全く感じられない。こいつはどういうことだろうか。寧ろ北部の方に別の転生者の気配を感じる……」
シャイタンは立ち上がった。この国の転生者は諦めよう。それに彼女の発明したダンゴとやらはおいしいし、殺す必要はないだろう。料理の発明に腹を立てていたが、実際にそれを食するとその気も失せた。
料理とは味だけでなく食感も大事なのだと思った。
シャイタンは一路、目的地を北へ向けるのであった。