序章 俺はチートが嫌いだ
俺はチートが嫌いだ。奴らは有り余る力でズルをする。
人が努力している隙に、自分が活躍してすべての努力を無にしやがる。
俺はそんなチート持ちが大嫌いだ。
大抵チートを持つ者は異世界転生者と決まっている。
そいつらはどういう理屈か知らないが、世界各国で好き勝手に暴れ回るらしい。
今まで見たことのない料理を作り出すのも特徴だそうだ。
そしてみんなにちやほやされ、一生幸せしかない人生を過ごす。
俺は許せない。そんなチート持ちを殺す。それが俺の使命であり運命なのだ。
奴らが存在するだけで俺ははらわたが煮えくり返りそうになる。
神はなぜ異世界転生を行うのだろうか?
差別され贔屓される人間の気持ちを考えたことがあるのか?
多分、そんなものはない。異世界転生者を甘やかし、自由に暮らせるようにしたに決まっている。
俺は不細工だ。それに熊のような大男でもある。
そんな俺は女にもてないし、チートも持っていない。
だが力がなくてもやる気があれば異世界転生者を殺せるはずだ。
くっくっく、待っていろよ。チート持ちども。
この俺シャイタンがすべての異世界転生者を狩りつくしてやるぜ!!
「なんだぁ、てめぇは? この偉大なる俺様の前に立ってんじゃねぇよ」
一人の男が現れた。鉄の鎧を着て、剣を振り回している。明らかに酔っぱらっていた。山賊の頭みたいだな。
ここはとある町だ。もうすでに夜になっている。盛り場では酒を目当てに客でにぎわっている。
「……お前は異世界転生者か?」
「ああん、よく気づいたなぁ。俺様はレッド!! 鉛大好きのレッド様だ!! 俺はものすごく強いんだ、S級モンスターは一撃で倒し、美女たちは全員俺になびいているぜ!!」
レッドという男の後ろには薄着の巨乳美女が立っていた。全員顔をしかめている。恐らく無理やり連れてこられたのだろうな。これだから異世界転生者はむかつくんだ!!
「おい、俺様の機嫌を損ねない方がいいぜ。俺様がいなければこの世界は終わるんだからよぉ。まだ国をもらっていないが、いずれは他の転生者みたいに……」
その先は言わせなかった。俺は剣を振るい、奴の首をはねた。レッドは目を丸くして、口をパクパクさせている。
死んだことに気づかず、息絶えた。
「きゃあああああああああ!!」
「人殺しぃぃぃぃぃぃ!!」
「誰か、誰かきてぇぇぇぇぇ!!」
女たちは叫びだした。俺がお前らを縛るレッドを殺したのに、感謝の一言もない。
所詮は顔と力が一番なのか。奴らが人を殺しても許されるのに、俺は不細工だから捕まえていいわけだな。
まったくこの世界は腐っているぜ。俺は世界の支配者を気取る異世界転生者共を狩りつくしてやるんだ!!
☆
街中では騒ぎになっている。その一方でレッドの死にざまを見て喜ぶ者たちがいた。
レッドに痛めつけられ、搾取された町人たちであった。レッドの死にざまを近くで見届けていたのである。
「レッドの奴あっさり死んだな」
「俺はあいつに店を潰された。いい気味だぜ」
「俺なんか女房と娘を連れていかれた挙句娼婦にされたんだ。溜飲が下るとはこのことだね」
表向き、レッドは町の英雄として扱われている。何も知らない人間はレッドを人格者と思い込み、女たちを抱くのは正当な行為を見なしていた。
だが実際のレッドは下劣な人間である。そんな人間を一撃で殺したのだ。胸がすく思いであった。
「けど、あいつは何者だろうか? レッドを殺せるなんて普通の人間じゃないだろう」
誰もがそう思った。
突然書きたいと思いました。チートスレイヤーの一話打ち切りを聞いて思いついた作品です。