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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
最終章 マリーの進む道

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義眼と嫌な手紙

 それから一週間が経った。カレナが帰ってきたとはいえ、すぐに授業が再開する事はなく、まだ家で自由な生活を送れる。マリーは、自分の義足を作った後、サイラの義眼製作に取り掛かった。これに関しては、サイラの主治医と相談して作っている。腕などと違い、手術なども必要になるので、しっかりと話し合っていかないといけないのだ。

 この主治医は、マリー達の治療も担っていたので、マリーが義足を着けて普通に歩いてきた時には驚いていた。

 そうして、手術当日を迎えた。まず義眼を支える台を、サイラの眼窩に作り、その上から填めるという方式だ。この義眼台は、義肢の時と同じく、サイラの魔力に置換している。手術で義眼台を、サイラの眼窩に入れた後は、マリーが作った義眼を装着する。


「えっと……これで入ったかな」

「はい。ちゃんと入ってます。それじゃあ、義眼に魔力を通して下さい」

「うん」


 サイラは、マリーに言われた通り、義眼へと魔力を送る。そうして少しすると、サイラの義眼についている瞳が横に動く。その後に縦にも動いた。


「これって、斜めには動かないの?」

「強度関係の問題で、斜めには難しかったです。今後、改良していくつもりですが、すぐには……」

「あ、ううん。責めてるわけじゃないの。これだけ横に縦に動くから、もっと自由に動かせるのかなって思っただけ」

「一応、縦横に動かすだけでも、普通の目と同じ範囲が見えるようにはしているので、視界自体に問題はないはずです。後は、確認項目がいくつかあるので、それを処理していきましょう。まずは、視力検査からです」

「ふふふ」


 サイラの笑い声が聞こえて、マリーは確認項目を書いた紙から顔を上げる。


「どうかしましたか?」

「ううん。改めて、マリーちゃんは魔道具職人なんだなぁって。ほら、良いから、確認項目をやっつけよう」

「そうですね」


 その後、特に問題はなく、義眼の確認は済んだ。


「よし! ちゃんと機能してますね。着けているのが目ということで、義眼は、いくつか用意しています。保管する時は、この液体浸けておいてください。それと、一日に最低一回は洗って下さい。寝る前が良いかもです。一応、先輩が出来るメンテナンス方法を紙にまとめておきましたので、暇な時に読んでください」

「うん。ありがとう」

「後は、反響定位装置の改良ですね。前の状態だと、他の音も集めてしまうので、この装置が発する音だけを集めるように変えました。これで、雑音も減ると思います。義眼を外した後は、こちらを使って頂ければ、動く事に問題はないと思います。ただ、文字などは読めないので、そこは変わらず注意してください。取り敢えず、確認をお願いします」

「うん」


 サイラは、耳に引っかけるように反響定位装置を付ける。


「……うん。前よりも鮮明に周囲の空間が認識出来るよ」

「何かおかしな部分はありますか?」

「ううん。今のところは問題無いよ」

「わかりました。これから毎日検査をしに来るので、何かあったら、すぐに言って下さい。どんなに些細な事でもですよ」

「うん。分かった。ところで、これっておいくら?」

「……百万くらいです」


 義肢よりも、さらに細かな作業をする義眼は、カーリーの換算でも百万以上はすると言われていた。なので、マリーは、最低値だけを教えた。


「何年掛けてでも、必ず返済するね。バイト探さないと」

「そんなに急いで貰わなくても良いですよ。ある意味じゃ、先輩は実験台みたいなものですし……」


 マリーの言っている事は事実だった。マリーやマニカの義肢は体外に付けるものだが、サイラの義眼は、体内に入れるとも言える代物だ。そのため、義肢よりも不安要素が多い。


「全然構わないよ。マリーちゃんは、私の為を思ってくれているのは、分かっているから。正直、こんな早く視界が戻ってくるとは思ってなかったもん」

「超特急で作りましたから。ずっと頭の中で構築しておいて良かったです」


 マリーは、何も出来ない間に、常にサイラの義眼の事を考えていた。そのため、材料が集まるようになってから、すぐに作り始める事が出来、主治医との話し合いもスムーズに行えたのだ。


「マリーちゃんは、その後大丈夫?」

「特に何とも無いですよ。そろそろ授業が始まるかもなので、ようやく元の生活に戻れそうです。そういえば、戦場での経験のおかげで、魔道具を作る速度が上がったんです! 特に金属系のものが。やっぱり、自動で動いてくれる鎚って、良いですね。細かい作業には向かないですけど、それも改良を重ねればどうにかなるかなって」

「へぇ~、魔道具か……カーリー先生が来るまで、魔道具の授業は、あまり詳しくやらなかったからなぁ」

「最近、友達のセレナにも魔道具作りを教えてるんです。お母さんの授業があるからか、結構理解していて、思ってたよりも早く進みました。先輩の話と合わせると、お母さんの授業って、本当に凄い事が分かりますね」

「本当にね。その指導を十年近く受けていたんだから、マリーちゃんがとんでもない魔道具を作れるのも納得だよ」


 サイラから見ても、マリーの作るものは理解出来ないものが多かった。特に自分が使っているものが、それに当たる。


「何でしょうね。色々と本を読んだからでしょうか?」

「知識方面は、そっちかもだけど、ただ単純に、頭が柔らかいんだと思う。そういう柔軟な思考が魔道具作りに必須なんじゃないかな。普通の人は、剣が扱えないからって、剣を飛ばそうとは考えないだろうし、その剣を使って、別の魔法を発動させようとも考えないと思う。これは、カーリー先生と暮らしていたからというよりも、マリーちゃんの元々の素養なんじゃないかな」

「そうですかね?」

「だと思うよ」


 義眼の装着が終わっても、マリーは、サイラと楽しそうに話していた。経過を見ていたというのもあるが、話がどんどんと弾んでいったからというのもあった。


「はぁ~……」


 話の合間で、マリーがため息をつく。


「何かあったの?」

「この前にお母さんから、もしかしたら叙勲される事になるかもって言われたのを思い出しちゃいまして。憂鬱だなぁって」

「ああ、なるほど。マリーちゃん、結構貢献してたしね」


 マリーの事情に勘づいているサイラは、マリーが憂鬱になっている理由も察しが付いていた。


「でも、公の場だから、何かされるとかはないと思うよ。寧ろ、二人きりとかになった時が危ないかもね」

「そんな事になると思います?」

「さすがに、分からないかな。でも、もしお茶に誘われても、断るって事はしない方が良いかな。周囲に目があったら、尚のことね。それだけで目を付けられる可能性があるから」

「うぅ……面倒くさい……」

「よしよし。余程の事がないと、そんな事にはならないと思うよ。もしお茶に誘われたら、お姫様も一緒にって言ってみたら?」

「……そうします。そろそろ面会時間も終わっちゃうので、失礼しますね。また明日来ますので」

「うん。また明日」


 長話も終え、マリーは病院から帰った。その後、一週間程病院に通って、サイラの経過を確認したが、大きな問題はなかった。これまで視界のない状態だったため、多少酔ってしまう事があったが、少しずつ慣れてきてはいたので、大きな問題とはならなかった。

 そして、マリーの家に一通の手紙が届く。それは、マリーが嫌がっていた叙勲に関するものだった。

  食堂で手紙を読んでいたマリーは、大きくため息をつく。


「はぁ~……ねぇ、お母さん。これって、お母さんも受けるんだよね?」

「そうなるね。さすがに、これを拒むと、この国に居づらくなるからね。お姫さんの話だと、あの愚王の時のようにはならないって事らしいじゃないか」

「まだ分かんないじゃん。リリーは信用出来るけど、他の王族は信用出来ないし」

「まぁ、気持ちは分かるさね。ただ、私とマリーは同じ場で叙勲とはならなさそうさね」

「えっ!? そうなの!?」


 カーリーの発言に、マリーは思わず立ち上がる。


「これが、私に届いた手紙さね。見比べてみな」


 マリーは、カーリーから手紙を受け取って、言われた通りに見比べる。すると、指定された時間が、自分とカーリーでは数時間違う事が分かった。


「何で?」

「マリーは、戦線の維持に尽力したための叙勲。それに対して、私は魔王を倒した事による叙勲だからねぇ。規模の違いさね」

「うぅ……でも、カレナ先生とかネルロさんとかは、一緒になるよね?」

「そうさね。あの二人も大きな功績を作ったからねぇ。恐らく、マリーと同じ時間帯だと思うさね。まぁ、どのみち、国の重鎮も参列するんだ。さすがに、王妃も行動に移す事はないと思うさね。それよりも、後一週間しかないんだ。コハクと一緒にドレスでも見ておいで。コハク、マリーに似合うのを選んでおくれ」

「分かりました」


 コハクはそう言って、立ち上がる。


「ほら、マリー、行くよ」

「コハクは良いなぁ……叙勲がなくて」

「普通羨ましがるのは、逆だからね。ほら」

「分かったよぉ……ソフィ」


 念のための護衛として、ソフィを侍らせて、マリー達はドレスを買いに向かった。コハクの感性で良いと思ったドレスを購入し、叙勲当日を迎えた。

 青のシンプルなドレスに着替えたマリーは、家の前に停まった馬車に乗り込んだ。


「ねぇ? 本当にコハクは来ちゃ駄目なの?」

「当たり前さね。呼ばれてもないのに行けるわけがないだろう。この時間帯に呼ばれた者しか入れないよ」

「多分、リリーはいるんだから、大丈夫でしょ」

『頑張って下さい』


 若干不安になっているマリーの頭をカーリーが撫でる。


「今のマリーなら大丈夫さね。この時の為に、色々と仕込んでいるんだろう?」

「まぁ……そうだけど……」

「それに、オドオドしているよりも堂々としていた方が、相手も襲いにくいはずさね。私は、今のマリーなら、このくらいの逆境を乗り越えられると信じているよ」

「むぅ……お母さん、ズルい」

「良いから、さっさと行って来な。気を付けるんだよ」

「は~い」


 マリーは、馬車の席に座る。それから二秒後馬車が動き出して、王城へと走り出した。

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