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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
最終章 マリーの進む道

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マリーの進化

 カーリー達の戦場は、マリー達が赴いた戦場よりも、激しい交戦が繰り広げられていた。


「大賢者殿。助力痛み入ります」


 指揮官が、カーリーに挨拶をする。


「そんな謝辞は要らないよ。それより、戦況は?」

「言いにくいことですが、悪いです。なんとか持ち堪えているというところです。何せ、敵の数が多いので」

「物量による攻撃って事さね。カレナとネルロは待機しな。私が出て、荒らしてくるさね」

「「分かりました」」


 カーリーは浮遊魔法で空を飛び、戦場へと向かう。


(ここで、マリーの元に向かっても良いけど、最初はちゃんと働いていた方が、良さそうかね。どのみち、ここで魔族を退けないと、マリー達も危険に晒される事に変わりはないからねぇ)


 カーリーは、空から大量の光線を放つ。それは雨という表現よりも、空から降り注ぐ槍という印象を受けるものだった。魔族達は、分厚い鎧を着ていようが関係なく、次々に貫かれていく。貫かれる箇所は、全て急所だった。広範囲を倒す魔法は、現状使う事が出来ない。それは、仲間を巻き込む可能性があるからだ。

 正確に敵だけを射貫くカーリーに、魔族側は空中戦力を出す。空を飛んでくる鳥のような魔族を一瞥したカーリーは、その周囲に炎を生み出し、球状に囲んだ。唐突に炎の球体に閉じ込められた。そして、炎の球体は、少しずつその大きさを縮めていく。鳥の魔族達は、中で次々に焼かれていった。

 既にそちらを見ていないカーリーは、魔法によって前線に空いた空間に降り立ち、大きな炎の波を放った。カストル家の使う魔剣術と何ら遜色ない規模と威力の波が魔族達に襲い掛かる。物量で攻めて来ていた魔族達は、それを避ける事も出来ず次々に焼かれていった。


「さて……ここからどう出て来るかね」


 魔族の出方を窺っていたカーリーだったが、魔族が選択した行動は、撤退だった。唐突に現れたカーリーに、何の対策もせず突っ込むのは、馬鹿でしかないので、これは英断だった。


「ふむ。今の内に、塹壕を掘るよ! 土魔法が使える奴は、作業を開始しな!!」


 カーリーの号令で、土魔法を使える者達が動き出す。カーリーは指揮官ではないので、厳密には指示に従う必要は無いのだが、カーリーの迫力に拒否するという選択肢はなかった。

 そして、出来上がっていく塹壕に、マリー同様強度強化の刻印をしていく。


「さて、明日からの動き次第ってところかね」


 ここからの魔族の動き次第で、カーリーは、カレナ達の援護に紛れてマリーの元に向かう事になる。それが明日なのか明後日なのかは、カーリー達にも分からない。


────────────────────────


 翌日。目を覚ましたマリーは、身体に違和感を覚えながら起き上がった。


「う~ん……」

「あっ、マリーちゃん、起きた?」

「サイラ先輩……おはようございます」

「おはよう。よく眠れた?」

「ちょっと身体が固まってます……」

「あはは、だよね。じゃあ、ちょっと体操をしてから、朝ご飯食べようか」

「はい……」


 サイラに手伝って貰いながら、身体を解した後、昨日と同じ携帯食糧を食べたマリーは、戦場に塹壕から戦場を覗いていた。


「魔族側も動き始めたみたいですね」

「そうだね。こっちも前衛組が準備しているし、そろそろ始まりかな」


 今回、後衛組は、塹壕の中から様子見となる。場合によっては、塹壕を掘り進めて、前線を上げる事になる。


「戦闘が始まります。皆さんも準備して下さい」


 指揮官の指示に従い、マリー達は塹壕からいつでも動けるようにしておく。そして、今日も戦闘が始まった。ザリウスも混じる前衛組が、魔族達とぶつかる。ザリウスの振う大剣が、魔族達と上下で一刀両断する姿を、マリーは見ていた。


(ザリウス先輩って、大人達に混ざっても実力が抜きん出てる気がする。本当に、優秀なんだなぁ)


 そんな戦況を見ながら、前衛を抜けようとする魔族を、マリーは雷魔法で狙撃していく。今日も昨日と同じような戦いになるかと誰もが思っていた。それは、嫌な形で裏切られる。


「ワイバーンだ!!」


 前衛から、そんな声が聞こえる。マリーは、すぐに上空に視線を向ける。そこには、前脚が皮膜の張った羽になっているドラゴンのような魔物が群れを成して飛んでいた。ワイバーン達は、前衛達に向かって、ブレスを吐こうとする。


「不味い! 後衛は、ワイバーンの攻撃に対処を!」


 サイラ達は、水の壁を空に張って、ワイバーンのブレスを防ごうとする。そんな中で、マリーは、ワイバーンを攻撃する方向で動く。


「『短剣舞ダガーダンス十重奏デクテット』」


 十本の短剣を操り、ワイバーンに向けて飛ばす。さすがに、ワイバーンの居場所まで、短剣を操る事は出来ない。だが、マリーも無策で短剣を使った訳では無い。


「『自動制御オートマティックコントロール』」


 マリーの制御を離れた短剣は、まっすぐワイバーンに飛んでいった。そして、その皮膜に次々と穴を開けていく。

 新たな短剣の機能である自動制御は、ソフィの知能付加魔法の劣化版だ。前までもある程度は、マリーの制御無しで動く事が出来ていたのだが、それよりも更に自由に動けるようになったというものだ。短剣同士で、連携を取って攻撃をしたりと、単調な攻撃ではなく、少し人間らしい攻撃が出来るようになっている。

 マリーの短剣が、次々にワイバーンの皮膜に穴を開けて、ボロボロにしていくため、飛べなくなったワイバーンが空から降ってくる事になる。そして、落ちる先は、魔族達の上だった。


「おぉ……凄い……」


 ローナは、マリーの異常な魔法を見て、口をあんぐりと開けていた。


「あれのせいで、元々あった魔法は使えなくなりましたけどね」

「へぇ~……」


 自動制御の魔法陣は、かなり複雑なので、短剣唄を使うための魔力線を描く事が出来ていない。そのため今の短剣は、回転してもしっかりとした魔法陣を描けないのだ。ここは、マリーも深く悩んだ事だったが、自動制御は、ソフィと同じく動力炉で動き、マリーの魔力から離れるので、魔力の節約には持って来いだった。

 そのための小型動力炉の開発は、かなり難儀していたが。


「これで、ワイバーンは落ちます。トドメまで刺せるかは分かりませんが」

「まぁ、上を取られなくなったって点だけでも、ザリウス先輩からしたら、助かるんじゃないかな。さすがに、ザリウス先輩も空は飛べないし」


 ローナは、自分の一つ下であるマリーが、自分よりも強いという事を、ここで確信した。


(はぁ……年上の威厳はないなぁ……きっと努力しているんだろうなぁ。私も頑張ろう)


 ここで気落ちする訳では無く、意気込めるのは、ローナの長所と言えるだろう。


「……ワイバーンによる前衛への攻撃……それが防がれたら……後は物量で攻める方に移行するかな?」

「どうでしょうか? 今度はドラゴンかもしれませんよ?」

「それはないと思う。前の火山でドラゴンを群れで寄越したくらいだから。しばらくは、ドラゴンを使った攻撃は出来ないはず」

「ぶ、物量で来られたら、どうなるんですか?」

「前衛が崩れて、私達のところまで、魔族が来るかな。つまり、乱戦になる」


 ミリスとサイラの話に、ローナの顔も強張る。乱戦となれば、かなりの危険があるからだ。


「そうなったら、ローナとミリスは、私の傍を離れない事。マリーちゃんは、ソフィさんの傍にいてね」

「「「はい」」」


 サイラの注意に、マリー達はしっかりと頷く。


「……前衛が崩れます! 後衛は、近接戦闘が出来る者の近くへ! 危険と判断した者から、塹壕を利用しながら戦ってください! 陣を後方に移します! 時間を稼いでください!」


 サイラの予測は当たっていた。ワイバーンによる攻撃が失敗した魔族達が、物量で攻めてきたのだ。

 指揮官は、何人かの部下を連れて後方に退く。マリー達の役割は、後方で陣を張るまでの時間稼ぎだけだ。つまり、遅滞戦術というわけだ。


「ソフィ! 前に出て!」

『はい』


 ソフィを前に置き、マリーは、いつでも剣を出せるようにポーチを開ける。同時に、前線で戦っていた短剣が戻ってくる。短剣の知能の優先事項は、マリーを守る事だからだ。

 ここからは、マリーも安全に戦える状況ではなくなる。ここからが、マリーの戦争の本番だった。

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