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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
最終章 マリーの進む道

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初めての戦場

 辺りから何かが焦げる匂いがしていた。それは、草木の焦げる匂いだけじゃない。生き物が焼けた時にする匂いだった。

 それだけでなく、金属がぶつかり合う音や肉が斬り裂かれるような音、何かが押し潰されるような音もしていた。

 ぶつかり合うのは、マリーと同じ人間と魔族だ。その姿は、二足歩行の犬から蜥蜴、鳥など、様々な容姿をしていた。


「これが……戦場……」


 初めて凄惨なその状況を見たマリーは、唖然としてしまっていた。その背中をザリウスが押す。


「呑まれるな。強い意志を持て」

「は、はい」


 マリーは落ち着くために、一度呼吸を整える。そこにサイラも来て、背中を摩った。


「これが戦場なのね。私もちょっと怖いかも」


 そこで、マリーは、サイラの手が震えているのを感じた。怖いのは、マリーだけではない。あれだけマリーの事を可愛がっていたローナとミリスも、この状況に震えていた。全員まだ十代の子供だ。この状況が怖くないわけがなかった。


「おら! ぼさっとするな! 敵がそこまで来ているんだぞ! 突っ込め!!」


 マリー達の指揮官は、それしか言わなかった。それを受けて、マリーは少し呆れた顔になる。


「ザリウス先輩。どうしますか?」


 マリーは、早々に指揮官の指示を捨て、ザリウスに相談した。


「やるしかあるまい。俺は、まっすぐ前線をどうにかする。お前達は、後方から魔法で援護をしろ。ラプラス、そこの女性は、お前の護衛なんだな?」


 ザリウスは、ソフィを見て、マリーに訊いた。


「はい。そうです」

「なら、自分の傍に置いておけ。俺が前に出たところで、相手に抜けられない訳では無い」

「分かりました」


 マリーの返事を聞いたザリウスは、マリーに強化して貰った剣を担いで走っていく。


「先輩。私達は援護に徹しましょう。ソフィ、近づく魔族は全て倒して」

『かしこまりました』


 ソフィは、ソフィ用にお母さんが作った剣を抜き、いつでも戦えるようにしていた。


「マリーちゃんは、強いね」


 ローナは、震える手を握りながらそう言った。


「強くはありません。でも、さっきのザリウス先輩の言葉やお母さんの言葉を思い出したら、怖がって動かないのは、何も解決しないって、そう思えたんです」

「そう……だね。うん! 皆で頑張ろう!!」


 奮起したローナを見て、ミリスも同じように奮起した。

 そして、前線で戦うザリウス達の援護として、魔法を撃っていった。マリーも剣舞(ソードダンス)を使わず、通常の魔法だけで援護をしていた。魔力は、なるべく温存しておくべきだと考えたからだ。ザリウスを始めとする援軍が来た事で、前線はなんとか維持出来る。マリー達も援護もあれば、それを押し返す事も出来ていた。


(敵の攻撃が、散発的過ぎる気がする……経戦能力に割いている? いや、何か変だ)


 マリーの考えは、ザリウスも同じようで、無闇に攻めようとはしていなかった。周囲の仲間にも、無理に攻めないように指示をしているのが、マリー達からも分かった。


「ねぇ、魔族達の動き変じゃない?」


 ローナも同じ事を思ったようで、そう口に出した。


「戦い続ける事が目的、あるいは、私達を引きつける事が目的でしょうか?」

「マリーちゃんの分析は、的を射てそう。私としては、特に後者かな。何だか、私達を引きつけて、釣りだそうしている感じ」


 サイラは、マリーと同意見だった。敵の動きが、自分達を釣りだそうとしているようにしか見えなかったのだ。


「でも、少しあからさま過ぎませんか? あんなにちまちまと攻撃をされたら、誰でも気付きますよ」


 サイラの意見を聞いて、ミリスはそう意見を出した。その意見で、マリーは、もう一つの可能性に気付いた。


「それに気付いた私達が、ここに釘付けになる事が、相手の狙いって事はあり得ますか?」

「…………」


 マリーの意見を聞いて、サイラは援護をしつつ考え込み始めた。


「あり得る。それでも、なんでそんな事をするのかっていう疑問は残るけどね」


 マリー達の話し合いには、断定出来る程の要素がない。そのため、全てが机上の空論でしかなかった。

 そんな中、犬のような魔族の一人が、ザリウス達を突破してきた。


「『稲妻ライトニング』」


 出の早い魔法で、マリーが頭を射貫く。身体が大きく痙攣したと思えば、魔族は動かなくなった。マリーの中で罪悪感が芽生えるが、すぐにカーリーの言葉を思い出して、押し殺した。


(私も皆も守るには、相手を殺すしかないんだ)


 そんな中、魔族側の後方から魔法が飛んでくる。マリーは、素早く結晶を取り出したサイラ達の前にばら撒く。


「『起動ブート』」


 正面に結界が張られて、魔族の魔法を防いだ。だが、その一つがさらに後方へと流れていき、マリー達の指揮官に命中した。


「ぎゃあああああああああ!!」


 指揮官は叫び声と共にピクリとも動かなくなってしまった。すると、すぐに別の軍人の女性が、前に出て来る。


「副官である私が指揮を引き継ぎます! 前衛は、そのまま敵を押しとどめて下さい! 深追いは禁物です! 後衛は、敵後衛への牽制を!」


 マリー達は指揮に従って、敵後衛への牽制のために魔法を放っていく。山なりに飛んでいく魔法のおかげで、魔族側の魔法の雨とぶつかり合い、相殺されていった。それだけで、互いの魔法による手数が減る。そうなれば、後は前衛の実力次第だ。

 この点に関しては、マリー達も負けていない。だが、数だけは、向こうの方が上なので、結局そこで攻められてしまえば、形勢は不利に傾く。現状、相手が物量で攻めてきていない事が、何よりの救いと言えるだろう。

 戦況は膠着状態のまま進んで行き、夜が更ける頃になると、魔族側が退いていった。戦闘開始初日は、指揮官の喪失という本来であれば、大きなダメージとなるところ、無能が一人いなくなったため、逆にプラスに働く結果となった。

 マリー達は、土魔法で塹壕を掘っていく。本来であれば、先にやっておいた方が良いことなのだが、先の指揮官が無能すぎて、そこまで進んでいなかったのだ。


「あの指揮官って、なんで指揮官としてやっていけていたんですかね?」

「コネだろうな。今の指揮官は、まともらしい。だが、油断はするな」

「はい」


 塹壕の中に部屋を作り、どうにか過ごせる場所を確保する。テントで過ごしていると、遠距離からの魔法で被害を受ける可能性もあるため、地下で過ごす方が安全と判断された。その中で、マリーは、天井に強度強化の刻印魔法を使って、固めていく。これで、天井が崩落する可能性が、格段に減る。


「すみません。刻印魔法まで。私達も使えれば良かったのですが……」

「いえ、気にしないで下さい。魔道具職人になろうと思わないと、覚えないですから。他にする事はありますか?」

「見張りは、私達軍の者が行います。学生の皆さんは、ひとまず休んでいて下さい」

「分かりました」


 刻印も終わったので、マリーはサイラ達の元に戻った。


「マリーちゃん、おかえり」

「ただいまです。取り敢えず、補強は終えました」

「お疲れ様。はい。これ」


 そう言ってサイラが渡してくれたのは、携帯食糧だった。クッキーを極限まで押し固めたようなものだった。


「美味しくない……」

「エネルギー補給だけだからね。後、他の理由もあった気がするけど、なんだっけな?」


 ミリスが思い出していると、サイラが助け船を出してくれる。


「いっぱい食べないようにするって理由。美味しくないから、あまり量を食べたくないでしょ?」

「ああ、なるほど。食料を長持ちさせるって事ですね。でも、干し肉くらいは欲しいですね」

「いずれ配られると思うけどね」


 夕食を終えると、マリーの横にサイラが来て、その頭を太腿に乗せた。


「ここには、まともな寝具なんて無いから」

「でも、先輩が疲れませんか?」

「先輩だから、大丈夫。マリーちゃんは、ゆっくり休みな」


 そう言ってサイラが頭を撫でてくれる。段々と眠くなってきたマリーは、そのまま眠った。


「それじゃあ、ローナは私の太腿で寝る?」

「別に、無理しなくても良いんですよ?」

「無理なんてしてないわ! 全く、後輩に気を遣ってあげたのに」

「じゃあ、お邪魔しま~す」


 ローナは、ミリスの太腿に頭を乗せて眠りにつく。そんなミリスの頭を、サイラは自分の肩に乗せた。


「ほら、こっちにも寄りかかって良いから」

「ありがとうございます……」


 こうして、マリーはサイラの太腿を、ローナはミリスの太腿を、ミリスはサイラの肩を、サイラはミリスの頭を枕にして眠りについた。その四人をソフィが傍らから見守る。

 その部屋を横切ったザリウスも、思わず二度見してしまうほど異様な光景だったが、それ以上に微笑ましい光景であった。

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