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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
最終章 マリーの進む道

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始まる争い

 それは、カーリーの授業中に突然入り込んできた。


「カーリー先生! 急いで職員室に来て下さい!」

「なんさね、カレナ。そんなに血相変えて」

「攻めてきました」


 カレナのその一言で、カーリーだけでなく、マリー達も何を言っているのか理解した。


「職員室で集まる程の事かね。騎士団の問題だろうに」

「それが、生徒の派遣要請もあるんです」

「何? まだ、攻め込んできたってだけだろう。まだ、その段階じゃないはずさね」

「それが、王命が出ているんです」

「王命!? ちっ……」


 カーリーから隠しきれない苛立ちが漏れていた。


「分かった。職員室に行こう。マリー達は、ここで待機さね」

「うん」


 カーリーは、カレナに連れられて職員室へと向かった。それを見送ったマリー達は、マリーの席の周りに集まる。


「本当に戦争が起こってしまいましたわ。それも、生徒動員ですの」

「ああ、思ったよりも直接的だったな。これには、俺も予想外だ」


 アルは、戦争が始まって一ヶ月経つか経たないかくらいで、かり出される事になるだろうと考えていた。だが、実際は、侵攻を確認したと同時に王からの命令で、動員が決まった。事情を知っているアル達からすれば、国王の思惑など、手に取るように分かってしまった。


「マリー。本当に、お前が前線で戦う可能性が出て来た。ソフィの準備は大丈夫か?」

「うん。コハク程じゃないけど、剣の腕はあるよ。最近は、ある程度の魔法も使えるようになってきてるし、私がサポートに徹すれば、戦力になると思う」

「そうだな。マリーは、後ろから戦う方が良いだろう。だが、油断はするな。背後から刺される可能性も否定しきれない」

「そんな事したら、処刑されるんじゃないの?」


 マリー達の話を訊いていたコハクが、そう質問する。仲間を殺したとなれば、即刻裁判が執り行われるだろう。そこまでのリスクを背負って、実行する者は、かなりの馬鹿か阿呆だとしか言えなくなる。


「そうだ。だが、そこまで追い詰められた人間を使えば、どうとでもなるだろう。戦場のゴタゴタに紛れるという線もある。どのみち警戒はしておけ」

「うん」

「それにしても、このタイミングで、本当に攻めてくるなんて、相手は、どんな切り札を持っているのだろうね」


 リンは、話題転換にそんな事を言い出した。リンの疑問に、マリー達が悩む。


「お母さんを撃退出来るような何かなんて、全く思いつかないよ」

「私もマリーと同じだなぁ。師匠を撃退出来るものがあったとしたら、世界が消滅していると思う」


 この中で、カーリーを最も近くで見てきた二人の言葉に、アル達は苦笑いしか出来なくなる。否定しようにも、カーリーが打ち立ててきた実績と、市井に出回る噂から、それでもおかしくはないと思えてしまう。そして、先の旅行の戦闘で、それが顕著になっていた。


「てか、カーリー先生がいたら、マリーも安全じゃない? どのみち、カーリー先生は前線に出る確率が高いだろうし」

「確かに。先生がいる場所だったら、マリーちゃんも無事でいられると思う」


 カーリーの話が出た事で、セレナとアイリは、カーリーがいればマリーも安全説を出す。だが、その言葉に、アルは首を横に振る。


「前線と言っても、その範囲は広い。さっきの王令から考えれば、カーリー殿とマリーの戦場を離すというものも出しそうだ」

「そうだね。特に、カーリー先生は、主力となる方だから、一番激しい戦場に向かわされるんじゃないかな。マリーさんは、学生という事を考慮して、比較的安全な戦場ってなると思うよ。さすがに、ここを調整しておかないと、違和感が増すからね」


 アルとリンからその答えを聞いて、セレナとアイリは、少し顔を伏せた。二人とマリーが無事に生き残って欲しいのだ。

 そして、それは、この場にいる全員の願いでもあった。


────────────────────────


 職員室に来たカーリーは、学院長が読み上げた王令に苛つき、机を叩き潰していた。隣にいたカレナがさりげなく元に戻しているが、それだけで、他の教師は萎縮してしまった。

 王令の内容は、マリー達学院トーナメント出場者の前線行きと後方での生徒動員、そして、カーリーとカレナの前線行きだ。それも、マリーとカーリー達の戦場は、真反対側なのだった。


「ちっ……! 腹立たしいことさね!」


 カーリーは一言そう言って、職員室を出て行った。カレナは、他の教師達の頭を下げてから、カーリーを追った。

 この時の、教師達の胸中は、


(カレナ先生、大賢者様に慣れ過ぎじゃないか)


 というものだった。

 カーリーに追いついたカレナは、その横に並んで歩く。


「どうやって、合流しますか?」


 色々と抜けているが、これは、戦場にてマリーと合流する方法についての相談だった。


「そうさね……正直、こんなクソみたいな王令なんて、無視してもいいんだが、他の騎士団がそれを許さないだろうね」

「色々とうるさく言われてしまうという事ですね」

「って考えると、一番の方法は敵と戦いながら、自然な流れで移動していくというものさね」

「ですが、それは一番難しいものなのでは? 私とカーリーさんは、敵を殲滅していくというものを期待されています。敵が残っていたら、それこそうるさいかもしれませんよ?」

「そこは、二人一遍に行かなければいいさね。一人でも、殲滅くらいなら出来るだろうさ」

「では、私が残って、カーリーさんが駆けつけるという方針にしましょう。その方がマリーさんが助かる可能性も高いでしょうから」

「……ネルロも連れてこられないかね?」

「ネルロですか? 一応、分類的には、市民ですので、義勇兵や傭兵として来るしか……」

「ふむ。それなら、マリーと同じ場所に配属させられるかもしれないね。最悪、私達と同じ場所に来ても、二人で、全てを殲滅出来るだろうさ」

「そうですね。ネルロに伝えておきます」


 カレナは、ネルロが嫌がりながらもマリーのためならと受ける姿を容易に想像出来た。


「……いっそ、国王を暗殺するかねぇ……」

「思っても言わない方が良いと思いますよ」

「本気なのだけどねぇ」

「それは、それで駄目だと思います」


 そんな話をしながら、二人は教室に戻って来た。


「あ、お母さん。もう話は終わったの?」

「ああ。悪い知らせさね。マリーは、前線だよ」

「うわぁ……アルくんの言う通りになったよ」

「なって欲しくなかったがな」


 アルが予見した事が悉く当たっているので、マリーとしても特に驚きは無かった。


「お母さんは?」

「私とカレナは、マリーとは反対の戦場に向かう事になるさね。ここで、マリーに付いていくと、騎士団がうるさいからね。大人しく従って、戦いながらマリーの元に行くさね」

「それって、上手くいくの?」


 マリーとしては、そこまで上手く自分の元まで来られるのか心配していた。


「タイミングは、見計らう必要があるさね。それまでは耐えてもらう必要がある。そこは、マリーの踏ん張りどころさね」

「そうなんだ……」

「なるべく早く行くさね」


 カーリーは、マリーの頭を優しく撫でる。そこで、カレナが手を叩く。


「マリーさん以外の皆さんには、後方に向かって貰います。特に戦闘が起こるような事はないはずですが、注意して下さい。今日は、これで授業は終わりです。明日の朝、また学院に来て下さい。そこで案内があるはずです」


 カレナの指示に、マリー以外の面々が頷く。そして、今日は、これで解散となった。マリー達は、それぞれの家に戻っていく。


「ねぇ、お母さん。私は、いつ集合すればいいの?」

「マリーは、途中まで私と一緒の馬車でいくさね。後方拠点となる場所で、それぞれの持ち場に移動していくという形だね」

「そうなんだ。分かった。じゃあ、私は、色々と準備してくるね」

「ああ、何が起こるか分からないからね。魔法鞄に限界まで詰め込むといいさね」


 マリーが工房で魔法鞄に物を詰めていると、コハクが工房に入ってきた。


「マリー、本当に行くの?」

「そりゃあ、行かないとうるさいだろうし。私は、どうでもいいけど、普通の人達からしたら、国王の命令は絶対でしょ? ここで行かないとそれだけで処刑もあり得そうだし」

「でも……」


 コハクとしては、マリーに戦場へと赴いて欲しくなかった。それは、マリーが死ぬ可能性を指しているからだ。


「私も前線に行けないかな……」

「ちょっと、せっかく後方で安全な場所にいるんだから、態々前線に出たいとかやめなよ」


 マリーは、コハクに近づいて頭を撫でる。


「私は大丈夫だから。こういう時に備えて、ソフィの改造してるし、剣や短剣だって、改良に改良を加えてるんだから。他にも沢山魔道具も用意してるし、最悪、現地でも作れるわけだしさ」


 コハクは、マリーに抱きつく。幼馴染みで親友が死地に行くという事に、納得がいかないものの覚悟が出来ているマリーに、何も言えず、こうして行動に出る事しか出来なかった。


「死なないでね……」

「分かってるよ。私だって、魔道具職人になるって夢があるんだもん。こんなところで、死ねないよ。コハクの方こそ、後方だからって油断しないようにね」

「うん」


 最後に力強く抱きしめ合うと、コハクは工房を出て行った。準備をするマリーの邪魔にならないようにだ。


(コハク、震えてたなぁ……私もコハクの立場だったら、戦場に行って欲しくないって思うし、気持ちは分かるけど)


 マリーは、コハクが自分の心配をしてくれる事を、少し嬉しく思っていた。

 そんな風に、マリーの準備は進んで行った。そして、翌日。マリーとカーリーが、戦場に向かう日が訪れた。

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