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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第三章 達成感と苦しみ

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元の夏期休暇

改稿しました(2023年7月18日)

 マリーは、暗闇の中を歩いていた。周りを見てもあるのは闇ばかり。それに、足下は水のようなものが張っており、歩き辛い。


「何なんだろう、ここ?」


 マリーは、キョロキョロと周りを見るが、何も無い。ただただ歩き続けることしか出来ない。そんな中、マリーの足下から白い腕が伸びてきて足首を掴まれる。


「何!?」


 マリーは、何とか振りほどこうとするが、掴んでくる腕は、一向に離れない。そして、腕の持ち主が顔を出してくる。


『何で助けてくれなかったの?』


 その顔は苦痛に歪められており、血の涙を流している。そして、腕は何本も増えていき、次々にマリーの身体にしがみついてくる。


『私達を見殺しにした!』

『あんた達がいなければ、こんなことにならなかった!』

『避難なんてするんじゃなかった!』

『お前のせいだ!!』

『お前が生きていて、なんで俺達が死んでるんだ!!』

『お前が死ねばよかったんだ!!』


 マリーは、その腕を振りほどくために歩みを進める。掴んでいる人達は、歩くマリーによって、引き摺られていく。マリーが歩いている間も、掴んでくる人達の怨嗟の声は止まらない。


 ────────────────────────


「っは……!!」


 マリーは、空気を貪るようにして眼を覚ました。額には、玉のような汗が浮かんでいた。瞳孔も定まっていない。


「はぁ……はぁ……」


 若干過呼吸になっていたマリーは、呼吸を落ち着けようとする。何度目かの呼吸で、ようやく周りの状況なども理解出来るようになってきた。


「そうだ……私達は、別の街に避難してきたんだった……」


 マリーが周りを見回すと、マリーのベッドに、コハク、セレナが、もう一つの方には、リリー、アイリが眠っていた。ソフィはソファに座っているのだが、マリーが起きた事に気付いていない。


(魔力の吸収に集中しているのかな。結構消耗しただろうし)


 マリーの予測通り、ソフィは、大気魔力からの魔力の補給に集中していた。マリーを追った際に、全力疾走をして大量に魔力を失ったため、急遽集中的に魔力を吸収しないといけなくなったのだ。

 マリーは、誰も起こさないようにベッドを抜けて、備え付けられているシャワー室に入る。悪夢を見たせいで、汗をかいたらしく、身体中がベトベトしていたのだった。


「はぁ……」


 マリーは、暖かいシャワーを浴びながら、ため息をつく。


「あれは……夢……現実じゃない……」


 マリーは、先程見た悪夢を忘れるために、自分に言い聞かせていく。こうしている間にも、マリーの脳内には、あの時の記憶が繰り返されている。あの時、ドラゴンに踏み潰される前に、住人の一人が、マリーに手を伸ばしていた。


「私がもっと強かったら……」

「何をブツブツ言ってるの?」

「!?」


 マリーが背後を向くと、そこには、裸のコハクが立っていた。


「コハク?」

「全く、起きたら、マリーがいなくて少し焦ったんだよ? シャワー室が明るかったから入ってみたけど、マリーがいてよかった」

「私じゃなかったら、どうしてたの?」

「皆、寝てたから、マリーって分かってたんだよ。どのみち、誰でもそこまで気にする事じゃないし。何度か一緒に入ってるんだから」


 コハクはそう言って、マリーを後ろから抱きしめる。


「マリーは、悪くない。だって、マリーは、皆を助けようとしたんでしょ?」

「でも……そのせいで、沢山亡くなった……私のせいで……!!」


 シャワーの水に、別の水分が混じる。


「罪悪感で、自分の善意を否定しないで。マリーがやろうとした事は、立派なことだよ。誰にでも、真似出来るような事じゃない」

「それでも、私は……あの人達を……!!」


 マリーは、コハクを振り払って、コハクを見る。マリー悲痛が滲んだ顔を見たコハクは、より一層強く、マリーを抱きしめる。


「マリー。その人達の事を忘れろなんて事は言わないよ。でも、マリーは、その人達の分も生きていかないといけない。だから、引き摺って生きるんじゃなくて、背負って生きよう。その人達を悪者にしないで。自分を悪者にしないで」


 マリーは、嗚咽を漏らしながら、コハクの肩に顔を押しつける。コハクは、そんなマリーを抱きしめながら頭を撫でた。


「自分を責めないで。きちんと背負っていこう。マリーが重いと思うのなら、私も背負うから。私だけじゃない。師匠だって、アルさん達だっている。皆がいる。だから……ね?」

「うん……うん……分かった……もう、引き摺らない……ちゃんと背負っていく。だから、もう少し、このままでいさせて」


 マリーは、コハクの胸の中で、涙が涸れるまで泣き続けた。


────────────────────────


 マリーが泣き止んだ後は、二人で寄り添って、また眠りについた。そして、朝になると、自然と皆が起き始める。目を覚ましたマリーは、ソファで座るソフィの元に向かう。


「ソフィ、大丈夫?」

『はい。魔法陣の再生、魔力の補給は、完了しました。脚部関節も現状問題はありません』

「分かった。ごめんね。昨日は無理させちゃって」

「いえ、主様を守るのが、私の使命ですから」


 一応、ソフィにも問題は無かった。その事に、マリーは安堵する。

 食堂に向かおうと部屋を出たタイミングで、カレナとネルロと合流した。


「皆さん、おはようございます。よく眠れましたか?」

「はい。皆、ぐっすりでした」


 カレナ達と一緒に食堂に着くと、アルとリンが、先に食事をしていた。


「おはよう」

「ああ、おはよう」


 マリーは、アルに挨拶をして隣に座る。


(吹っ切れた……いや、受け入れたみたいだな)


 アルは、マリーの顔色を見て、思い詰めていないことを察した。表情には、出さないようにして、内心では、安堵していた。


「この後、宿を出て、別荘に向かいますから、そのつもりでいてください」

「分かりました。別荘地には、どう向かうのですか?」

「歩きですね。馬車を借りても、ここに返すことは出来ませんから」

「なるほど」


 アルは、カレナの言うことに納得した。その後、マリー達は、朝ご飯を食べ終え、街の入り口にいた。カレナとネルロは、自分達の馬を引き取ってきた。


「では、帰りましょうか」


 カレナとネルロの護衛の元、マリー達は、別荘地まで戻る。


────────────────────────


 マリー達が別荘まで戻ると、そのテラスでカーリーが、優雅にお茶を飲んでいた。


「おや、ようやく帰ってきたかい」


 カーリーとの再会は、かなりあっさりしていた。


「お母さんは、心配してなかったの?」

「心配はしていたさね。でも、途中でカレナの魔力を感じたからね。取り敢えず、マリー達は、大丈夫だと思ったのさね」


 少しふくれ面になったマリーを、カーリーは慈しむように撫でる。


「カレナもネルロもありがとうね」

「いえ、私達は、運良く合流出来ただけですから」

「それまでの間は、子供達だけで耐えていました。その踏ん張りがなければ、私達も間に合っていませんでした」


 カーリーの感謝に、カレナとネルロは、少し照れながらもそう言う。場合によっては、謙遜とも取れるが、二人の言っていることは、紛れもない事実だった。


「そうかい。子供達だけで、よく耐えたもんさね」

「それで、ドラゴンの群れは、どうなりましたか?」


 カレナは、さっきまでの笑みを消し、真剣な顔で訊いた。これには、ネルロだけでなく、マリー達も耳を傾けていた。


「空のドラゴン達に関しては、全滅させてやったさね。地上にいたのは、やって来た軍の奴等と殲滅した。今、騎士団が主導して、ドラゴンの行動原因を調べている最中だね。しばらくは、王国も原因究明に時間を掛けることになるさね」


 カーリーの助力もあり、ドラゴンの殲滅は終了していた。しかし、ドラゴンが何故襲来してきたのか、その理由までは、まだ掴むことは出来ていなかった。


「お母さんも協力するの?」

「いや、私は特に何かをするつもりはないさね。他の仕事もあるからね」

「ふ~ん」


 カーリーは、調査に協力する事はないという。マリーとしては、カーリーにも依頼が来るのではと思っていたが、この様子では断ると思われた。


「では、私達は、ここで失礼しますね」


 カレナ達は、マリー達を別荘まで送る事が出来たので、自分達の宿泊所に戻る。


「皆さんも夏期休暇を楽しんでください。あっ! でも、課題はきちんとやってくださいね」


 カレナ達は、そう言い残して去って行った。


「さて、私は昼寝をするから、後は自由にするといいさね」


 カーリーも欠伸をしながら、別荘の中に入っていった。


「じゃあ、どうする? 取り敢えず、湖で遊ぶ?」

「賛成!!」


 マリーの提案に、セレナが真っ先に飛びついた。マリー達は、水着に着替えて湖に飛び込んでいった。


「はぁ~、気持ちいい~!!」


 マリーは、仰向けになりながら浮かんでいた。そこに、水底からセレナが抱きついた。


「おりゃあ!」

「きゃあっ!!」


 いきなり抱きつかれたので、マリーから可愛らしい悲鳴が出た。


「マリーが、女の子みたいな声出した……」

「私は女の子だよ!」


 マリーは、反撃とばかりに、脇腹をくすぐる。


「ちょっ……それは……反則……!」


 セレナは、身を捩って抵抗する。そんなマリー達に、大量の水が掛けられた。


「ぶっ……」

「ごぼっ……」


 マリーとエレナが、水が来た方を見ると、コハクとリリーが並んで立っていた。


「隙有りだよ!」

「いざ尋常に勝負ですわ!!」


 コハクとリリーは、再びマリー達に水を掛けていく。


「お返しだぁ!」

「くらえぇ!」


 さっきまで、敵対していたマリーとセレナが協力して、コハクとリリーに水を掛ける。二対二の水の掛け合いが始まる。因みに、アルとリンは、でかい湖を利用して泳ぎの競争をしている。マリー達の遊びに混ざらないためだ。

 マリー達が水の掛け合いをしていると、その間を浮き輪に乗ってウトウトとしているアイリが、横切っていく。マリー達は、一瞬だけ水の掛け合いをやめていたのだが、アイリが中心にやってくると、掛け合いを再開した。


「うぶっ! 何!? 何なの!?」


 いきなり大量の水が掛かったアイリは、一気に目が覚めて周りをキョロキョロする。そして、自分の状況を知ると、慌ててその場から逃げようとする。


「逃がすか!」


 セレナがそう言うと同時に、さっきまで戦っていた四人が協力して、アイリの浮き輪を掴む。そして、一気にひっくり返す。


「きゃああああああああ!!」


 アイリの悲鳴と共に、水飛沫が上がる。水面に浮き上がって、文句を言うアイリ。そして、笑い合うマリー達。

 こうして、マリー達の別荘生活は、過ぎていった。

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