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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第三章 達成感と苦しみ

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街へ

改稿しました(2023年7月18日)

 マリー達が街に避難してくるのと、街に集められた兵達が出発するのは、ほぼ同時だった。


「これで、後は大丈夫そうだな」

「そうだね。父上達も無事だといいんだけど」

「年老いているとはいえ、まだまだ現役の戦士だ。大丈夫だろう」


 兵士達を見送ったアルとリンは、ドラゴンが飛び交っている方向を見ながらそう言った。ここから見えるだけでも、ドラゴンの数が、最初より減っているのが分かる。


「皆さんは、すごいですわね。私は、怖くてドラゴンに立ち向かう勇気が出来ませんでしたわ……」

「私もだよ。全部、先生やアルさん達に任せっきりになっちゃったもの……」


 そんな中、リリーとアイリは少し落ち込んでいた。ドラゴンの迫力に負けて、戦う勇気がでなかった事を後悔しているのだ。


「仕方ないと思うよ。私も縮地で懐に潜り込んだときは、少し手が震えたもん」

「うん。今までと比べものにならない程の化け物相手だしね。アイリ達が、そうなるも無理ないと思う」


 コハクとセレナは、二人を元気づけるように声を掛ける。


「まぁ、何はともあれ、無事に生き残れたことを喜ぼう。若干一名、そんな余裕はなさそうだがな」


 アルがそう言うと、皆の視線がある一点に注がれた。そこには、正座したマリーと怖い程の無表情で見下ろし、説教をするカレナ、その横で椅子に座って休憩しているネルロがいた。


「ネルロさんは、どうしてあんなに消耗しているんだ?」


 アルは、ネルロが戦っている時に、マリーを追い掛けていたので、その姿を見てないのだ。アルが知っているのは、ネルロが戦った場所が血まみれの状態だったということだけだ。


「ネルロさんの魔法は、すごかったよ。自分の血を触媒にしているというより、自分の血を操って戦っているって感じだった。血で剣を作ったり、血を飛ばして攻撃したり、色々してたよ」


 ネルロの戦いを見ていたセレナがそう説明する。


「血を使った魔法か。以前から使っていたが、自分の血を使って、即興で使う事も出来るんだな。あの様子を見るに、多発は出来ないようだが」


 以前まで、ネルロが使っていた時は、専用に調整した血液触媒を使っていた。アルは、そう言った触媒化した血液しか使えないと思っていたのだ。


「……分かりましたか!?」

「はい! 本当にごめんなさい!!」


 マリーの説教が一段落したらしく、カレナに表情が戻り、マリーの頭を撫でた。


「さて、皆さん。取り敢えず、今日のところは、この街にお泊まりすることになります。明朝に、別荘地に戻るという形で構いませんね?」

「はい。ありがとうございます」


 皆を代表して、アルがお礼を言う。皆もそれに合わせて、頭を下げた。


「いいえ、こんな状況ですから、では行きましょう。先程、街の方に教えて貰った場所がありますから」


 カレナは、街に来て、兵士達の責任者と話したときに、宿についても訊いていたようだった。マリー達は、カレナの案内で、件の宿に移動する。


「結構、大きな宿ね」

「さっき聞いた話だと、高級な宿屋みたいだからね。ここなら、部屋が開いている可能性が高いんだってさ」


 カレナとネルロの会話に、マリー達はギョッとした。そんな高級宿に泊まるとは思わなかったからだ。


「えっと、先生、いいんですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。これでも良いお給料を貰っていますから」


 カレナは、一泊の料金を一括で払った。部屋数は、大部屋を一部屋と小部屋を二部屋だ。小部屋の二部屋は、アルとリン、カレナとネルロの部屋だ。大部屋には、マリー達が泊まる。部屋ごとに分かれたマリー達は、各々ベッドやソファにもたれ掛かって一息ついていた。


「はぁ、疲れたぁ」


 セレナもソファにもたれ掛かって休んでいる。マリー達の部屋には、大きなベッドが二つと大きなソファが二つ備え付けられている。そのベッドは、三人で横になっても、まだ余裕がある。


「カーリー先生は、大丈夫かな?」


 アイリもセレナ同様に、ソファにもたれ掛かって、そう言った。他の三人はベッド上に座っている。


「師匠なら大丈夫なはずだよ。ドラゴンを相手にあんな風に戦えるくらいだから」

「うん。お母さんは、どんな魔物でも一人で倒せるって、いつも言ってるから、大丈夫だと思うよ」


 心配するアイリに、コハクとマリーは、そう言った。二人は、あまりカーリーの心配をしていない。いや、心配の必要すらないと思っていた。一見、冷たいとも取れるような態度だが、そこには絶対的な信頼が存在した。


「それに、後は、王国軍の方々が動きますから、カーリー先生の負担も減るはずですわ」


 リリーの言うとおり、今、王国の兵達が、動き出したため、カーリーの負担は少し軽減されるだろう。しかし……


「その前にお母さんが倒しきりそうだけどね」

「確かに、あり得る」


 マリーとコハクの意見は、意外と的を射ていて、セレナ達も何も言えなかった。


「う~ん、取り敢えず、今日はもう休んで……」


 マリーは、喋っている途中で意識を失った。後ろに倒れそうになったのを、ソフィが受け止めて、ベッドの一つに寝かせる。安全な場所に移動したことで、疲れがドッと押し寄せて、すぐに眠ってしまったのだ。


「あらら、寝ちゃった」

「マリーさんは、今日一日で相当負担を負ってしまいましたものね」

「うん、あまり気に留めないといいんだけど……」


 リリーとコハクは、心配そうにマリーを見ていた。セレナとアイリも同じように、マリーを心配していた。

 そこにカレナが入ってきた。


「失礼しますね。少し訊きたい事が……っと、マリーさんは眠ってしまいましたか」

「あ、先生。はい。魔力も尽きてましたから。もしかして、訊きたい事って、マリーにですか?」

「いえ、どちらかと言うと、そちらの方になんですが」


 そう言って、カレナはソフィの方を見る。


「ああ、そりゃそうだ」


 カレナの用件がソフィに関してだと知り、セレナは、納得していた。ソフィが完成するところを見ていたセレナ達からしたら、特に気にならないが、全く知らない人からしたら、ソフィの存在は違和感の塊だろう。

 自分の事だと気付いたソフィは、カレナの元まで歩く。


『はじめまして。ソフィと申します。主様より作られました人形です』

「あ、はじめまして。マリーさん達の教師をしています。カレナです」

『きょうし?』


 知らない言葉に、ソフィは首を傾げる。だが、その事を知らないカレナは、聞き返された事が何を意味しているのか分からなかった。


「あっ、ソフィはまだ知っている事の方が少ないので、教師という言葉を知らないんです。ソフィ、教師は、色々な事を教えてくれる人の事だよ」

『そうでしたか。主様がお世話になっております』

「あ、いえいえ。ソフィさんは、魔道具という事ですね? ですが、受け答えが出来る魔道具など……」

「マリーさんが開発した知能付加魔法というものらしいですわ」


 リリーの言葉に、カレナはきょとんとした後、ジッとソフィを見た。


「そう……ですか。取り敢えず、ソフィさんは、マリーさんと一緒に行動してください。決して、一人で行動はしないようにお願いします」

『かしこまりました。主様のお側にいます』


 そう言って、ソフィは、マリーが眠るベッドの隣にある椅子に座った。


「では、皆さんも今日はお休みください。明日は、朝に移動を始めますので」

「分かりました」


 カレナは、皆に手を振ると、部屋を出て行った。


「カレナ先生、驚いてたね?」

「それだけ、ソフィちゃんが特異的な存在って事なんだと思うよ。私も初めて見た時は驚いたし」

「確かにね。まぁ、これからもっと人に近い見た目になるはずだし、こういう事も減るでしょ。あぁ……またマリーが徹夜しそう……」


 コハクの言葉に、皆が頷いた。その面において、マリーの信用度はゼロだった。


 ────────────────────────


 マリー達とは、別の部屋をあてがわられたアルとリンは、それぞれのベッドに腰を掛けていた。


「今日は、今までで、一番の災厄だったな……」

「そうだね。これまでの訓練でも、ここまでの死地に行ったことはなかったね。それに、キマイラやサラマンダーとも、一線を画する危険だった」


 家の訓練で、様々な戦いを経験したことがあるアルとリンでも、今回の戦いは、相当厳しいものだった。そして、これまでは訓練だったが、今回は実戦で、さらに目の前で住人達が犠牲になる姿も見てしまった。その精神的負担は、比べものにならない程大きい。

 アル達がマリーと比べて、平然としていられるのは、騎士の家系に属しており、自分達が、常に死と隣り合わせにあると教えられているからだった。この心持ちの違いは大きい。


「マリーさんのフォローは良いのかい?」

「俺から、掛けられる言葉はない。こればかりは、マリー自身が乗り越えるべき壁だ。今は、コハク達に任せるのが、一番だろ」

「それもそうか。それにしても、今回は、自分達の弱さを嫌という程実感したね。上には上がいるというけど、その上がどれだけ上なのかを思い知ったよ」


 リンは、少し遠い目をしながらそう言った。


「そうだな」


 アルも、リンの意見に同意している。二人が言っているのは、決してドラゴンのことではない。カーリー、カレナ、ネルロの事だ。三人は、単体でもドラゴンを倒せる程の実力を備えている。カーリーの強さは、噂としても回っているので、知っているのだが、カレナとネルロの実力は、その噂に引けを取らない。

 それは、今日二人がそれぞれ見た、カレナ達の必殺技を見れば、分かることだった。特に、カレナの破壊(ディストラクション)は、ドラゴンの群れどころか、その先にある雲までも消し去った。言ってしまえば、マリーの交響曲の強化版だ。


「先生達の強さは知っているつもりだったが、俺達が思っていたよりも遙かに強い人達だったな」

「そうだね。僕たちは、先生達を過小評価していたみたいだ」


 リンはそういうが、何もカレナ達が弱いと思っていたわけじゃない。強いと思っていたのが、より上の強さだったということだ。


「俺達は、もっと強くならなといけないな」

「そうだね。皆を守るためにも」


 アルとリンは、一つの決意をした。その決意は、アルとリンを更なる力へと導く。


────────────────────────


 もう一つの部屋には、ネルロが、ソファの上にもたれ掛かっていた。マリー達の部屋から戻ってきたカレナが、その隣に座る。


「本当に、今日は疲れたわね……」

「本当に。まさか、ドラゴンと戦う事になるとは思わなかった。はぁ……準備をしてたら、もう少し楽だったのに」


 カレナとネルロは、火山の噴火を見た直後、近くにある街に応援を要請しに向かった。その途中で、火山の上空の様子がおかしいことに気が付き、遠くを見ることが出来る魔法で確認して、ドラゴンが飛び交っている事を知ったのだった。


「それにしても、珍しいわね。カレナが、あの魔法を使うなんて」

「そう? まぁ、確かに、最近は使った事なかったけど。正直、あまり好きな魔法じゃないし」

「そうよね。すべてを消し去る魔法だから、使いたくないと言ってたものね」

「でも、生徒の命には替えられないでしょ?」

「……そうね」


 カレナが、意外とちゃんとした教師をやっている事を知って、ネルロは、少し嬉しそうだった。カレナは、ネルロに寄りかかって、そのまま膝に頭を乗せた。


「はぁ……」

「その様子だと、別の意味で疲れているって感じね。マリーちゃんを叱った事?」

「うん。やっぱり叱るのは慣れないよ……」

「そうね。でも、あの子は間違えた事をしたんだから、教師として、しっかりと叱らないとよ」

「だから、頑張ったでしょ……もっと褒めてよ」

「は~い。凄い凄い」

「ネルロの馬鹿」

「そんな褒めて欲しいなら、褒めてくれる恋人でも作る事ね。まぁ、その前にお友達を作るところからかしら」

「ネルロって、友達いなさそう……」

「少なくともあなたよりいるわよ」

「ば~か、ば~か」


 カレナは、子供のようにそう言う。そんなカレナを呆れた目で見ながら、ネルロは、カレナの鼻を摘まむ。


「今日は、もう寝ておきましょう。お互いに魔力が減っているし、私は血が減っちゃって、起きてるのも少し辛いしね」

「ああ、それもそうか。ごめん。無理させちゃって」

「気にしないで、いいわよ。私が、勝手についてきたんだもの」

「ありがとう。おやすみ」


 カレナとネルロも、今日はゆっくりと休むのだった。

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