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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第三章 達成感と苦しみ

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いざ、避暑地へ

改稿しました(2023年7月18日)

 旅行初日。マリー達は、街の入り口に集まっていた。


「カーリー殿、お初にお目にかかります。アルゲートの父、グラスフリート・ディラ・カストルと申します。以後、お見知りおきを」

「そうかい。あんたの息子には、うちの娘も世話になってるよ。今時、あそこまで出来た男は、中々いないね」

「お褒め頂き、嬉しく存じます」


 グラスフリートは、カーリーに軽く頭を下げる。二人が挨拶をしていると、そこに青い髪の男性も近づいて来た。


「あなたが、カーリー殿でしたか。私はリンガルの父、ライネル・ミル・バルバロットと申します」

「『青騎士(バルバロット)』の当主かい。やけに若作りだね」

「はっははは、よく言われます」


 リンの父親ライネルは、渋い感じのグラスフリートと違い、一回り若く見える。実際には、同い年なのだが。それぞれの当主とカーリーの挨拶が終わると、皆がそれぞれの馬車に乗った。サリドニアからスノーヒルは、通常の移動で一日近く消費してしまうので、あまり悠長にしていられないのだった。

 動き出した馬車の中には、マリー、コハク、リリー、セレナ、アイリ、カーリーが乗っていた。アルとリンは、それぞれの家の馬車に乗っている。向こうに着いたら、マリー達と過ごすので、移動くらいは家族で過ごす事になっていた。

 マリーは、馬車に揺られながら、紙の束を見て、時折何かを書き込んでいた。それを見ていたリリーが、マリーの隣に座る。


「学院の課題ですの?」

「ん? ううん。違うよ。新しい魔道具の研究。結構難航しているから」

「そうなんですの?」


 リリーは、興味本位でちらっと紙の束を見る。それに気付いたマリーは、リリーに紙の束を渡す。


「良いんですの?」

「うん。リリーだし」

「あ、ありがとうございます」


 リリーは、お礼を言ってから、書いてある事に目を向ける。そこに書かれていたのは、いくつもの魔法陣やそれを構成する魔法式、それらに対するマリーの考えなどだった。それも、紙全体に、びっしりと書かれている。

 それを見たリリーは、思わず目を丸くして固まった。


「何々? 何の話?」


 そこに、後ろの席にいたセレナとアイリも加わる。リリー越しに紙の中身を見たセレナは、内容が理解出来ず困惑していたが、筆記の成績がセレナよりも遙かに上のアイリは、その魔法陣に書かれている事を多少理解出来てしまい、目を見開いていた。


「え? こ、こんな事可能なの?」

「一応、出来るとは思ってるよ。まだ完成してないから、確実って言えないんだ」

「へ、へぇ~……」


 この間に、コハクがちらっと見に来たが、全く内容が理解出来なかったので、外の景色を眺めていた。


「どれ、私にも見せてみな」


 移動中暇になったからか、カーリーもやって来て、リリーから紙の束を受け取った。


「ふむ……」


 しばらくカーリーが紙を捲る音と馬車の走る音だけがし続ける。そして、全部を読み終えたカーリーは、紙の束をリリーに返した。


「かなり面白い事を考えたね。マリー」

「何?」

「これが出来たら、課題三十個分にしても良いさね」

「えっ!? 本当!?」


 課題とは、カーリーがマリーに課した六年間で五十個の魔道具を作れというものだ。それも新しい魔道具を。

 カーリーは、今、マリーが作っている物が出来たら、その三十個分にして良いという。これは、マリーにとっても救いに近いものだった。


「ああ、本当さ。これには、そのくらいの価値がある。ただし、しっかりと完成させたらだよ。中途半端は許さないさね」

「うん!」


 リリーに紙の束を返して貰ったマリーは、張り切って魔法陣開発に勤しんだ。その間、リリー達は、トランプで遊んでいた。

 そんな風に過ごしていると、いつの間にか、スノーヒルに着いていた。


「着いたさね」

「あれ? 一日掛かるんじゃなかった?」

「それは、一般人の話さね。私の魔法と魔道具があれば、こんなものさね」


 カーリーは、手のひらサイズの立方体を弄びつつ、馬車を降りながらそう言った。マリー達も後に続く。


「お母さん、何それ?」

「結界発生装置とでも言えば良いかね。筐体であるこれを、中心に結界を構築。その内側にいる生物の活力を回復させ続けるというものだよ」

「へぇ~……そういえば、馬車にずっといたけど、全然疲れてないかも」


 マリーは、ずっと座りぱなしだったが、身体に疲れが生じていないことに気が付く。


「生物って事は、馬も対象に入っているということですね?」


 マリー達と合流するために、馬車から降りたアルがそう訊いた。


「ああ、カストルの坊ちゃんは、察しが良いね。その通りだよ。だからこそ、馬を休ませることなく走らせることも出来たのさね」

「馬への悪影響はないのですか?」

「私自身で、実験済みさね。これといった悪影響はなかった。今回は、他の生物での実験も兼ねていたけど、悪影響はなさそうだね。まぁ、消費魔力が大きいから、私くらいにしか使えないけどね」


 アルが心配したのは、馬の身体に不具合が起きる可能性があったからだ。実際に、馬への悪影響はない。


「さすがは、大賢者様ですね。夜に着くはずでしたのに、まだ日が出ています」


 アルの後ろから、茶髪の女性がやって来た。


「母上」


 やって来たのは、アルの母親だった。


「初めまして。アルゲートの母、スピカ・ディラ・カストルと申します」

「悪かったね。こっちの予定を優先させて」

「いえ、おかげで、長くバカンスを楽しめます。私達は、離れた別荘にいますので、何かあればお越しください。それと、息子をお願い致します」

「ああ、私の近くにいる時は、任せておくれ」


 カーリーとスピカが話していると、もう一人の女性がやって来た。


「初めまして、大賢者様。私は、リンガルの母、サリー・ミル・バルバロットと申します。私の息子もお願いします」

「ああ、あの子達が無茶しなければ、大丈夫さね。それに、ここの近くには、強力な魔物はいないから、戦闘になることもそうそうないさね」

「そうですね。では、私は、ここで失礼します。リン、粗相をしちゃダメですよ」

「アルもよ」


 サリーとスピカは、それぞれ自分の息子に、念を入れる。


「分かってます」

「大丈夫です」


 そうして、アルとリンの家族と別れて、マリー達は、セレナとアイリの別荘に向かった。


「セレナ達の別荘は、湖の近くにあるんだな」

「本当だ。涼しそう」


 アルとマリーは、最後尾を並んで歩いていた。


「アルくんの別荘は、どんな感じなの?」

「森の中だな。向こうは向こうで、涼しい環境だぞ」

「へぇ~」

「マリーは、こういうところに来るのは初めてなのか?」


 アルの質問に、マリーは少し上を向く。


「う~ん……別荘って意味だったら、来た事ないかな。でも、お母さんに連れられて、素材探しに行った時は、ちょっと涼しい場所とかにも行ったけど」

「そうなのか」

「うん。てか、王都にあるあの屋敷が別荘だし」

「そういえばそうだな。あの大きさだと、それを忘れるが」

「だよね。グランハーバーの家は、あんな大きくないし」


 そんな話をしている間に、別荘の前まで着いた。そこからは、湖が大きく見えてくる。


「うわぁ……綺麗……」

「ここらの湖は透き通っているからな。濁ったという事は聞いた事がない」

「へぇ~、何かに使えるかな?」

「さぁ……どうだろうな」


 すぐに魔道具に繋げようとするマリーに、アルは、若干呆れた目をしていた。


「マリー! アルくん! 入らないの!?」


 セレナが、別荘からマリー達に声を掛ける。


「今、行くよ! 行こ、アルくん」

「ああ」


 マリー達は、セレナの別荘に入っていった。別荘は、結構広く、部屋が四つに大きめのリビング、キッチン、浴室がある。貴族ではない庶民が持っている別荘としては、かなり良いものと言えるだろう。

 部屋わけは、カーリー、マリーとリリー、コハクとセレナとアイリ、アルとリンという組み合わせになった。それぞれの部屋に荷物を置いたマリー達は、リビングに集まる。


「ねぇねぇ、そこら辺を見に行こうよ」

「そうですわね。私も見て回りたいですわ」

「それじゃあ、案内してあげる」


 マリー達は、別荘の周りを散策するために、外に出る。


「夕飯までには、戻ってくんだよ!」


 カーリーは、マリー達の背中に向かってそう言った。


「分かった~!」


 マリーは振り返って、返事をしてから、コハク達と一緒に進んで行く。向かう先は、目の前にある湖だ。


「さっき見た時も思ったけど、この湖って意外と広いね」

「スノーレイクっていうんだって。真冬になると、凍り付いちゃうって聞いた。その時には、来た事がないから、私も実際に見た事がないんだけど」

「へぇ~」


 家族と一緒に、何度か来ているセレナが、マリーにそう説明する。


「そうなのか」


 別荘があると言っても、あまり来た事がないアルもマリー達と同じように感心していた。


「僕の別荘は、もう少し離れた所にあるから、ここまで来た事はなかったな」

「俺のところも、同じように離れているからな」

「二人とも、こんな涼しい避暑地があるのに、全然来た事ないの?」


 二人の話し方から、コハクは、二人はあまり来ていないのではと考えた。スノーヒルは、マリー達が思っていたよりも、かなり涼しい場所だった。湖の近くという事もあって、涼しい風が吹いている。

 こんなところがあるのなら、夏場に毎年来ていてもおかしくないのだが、アルとリンは、あまり来た事がなかった。


「そうだな。毎年、夏場は、良い修行になるということで、砂漠に行っていたからな」

「何度死を覚悟したことか分からないよ」


 アルとリンは、死んだような眼をしていた。


「夏に砂漠は辛そうですわ……」


 これには、リリーも同情していた。そして、それはマリー達も同じだった。


「じゃあ、今年は涼しい場所でゆっくりと出来る年って事だね」

「そうだな。この旅行の後で行くことになるかもしれないが」

「うわぁ……」


 この話を聞いて、マリーは、騎士の家系に産まれなくて良かったと本気で思っていた。そんな話をしながら、湖の辺を歩いていると、


「あっ、大きな魚!」

「えっ、嘘!?」


 湖の中を見ていたアイリが珍しく大声を上げ、それに瞬時に反応したマリーが、湖を見る。


「えい!」


 そして、そのマリーの後ろからセレナが背中を押す。


「へ?」


 結果、マリーは、湖に倒れていった。比較的浅瀬の場所なので、マリーの足首くらいの深さしかない。それでも、マリーの服はびしょ濡れだった。


「何すんの!?」

「ふふふ、こんな所で油断するのが悪いのさ! ぶふっ!」


 セレナがそう言い終わった瞬間、大量の水が襲い掛かってきた。セレナもマリー同様にびしょ濡れになった。


「油断する方が悪いんでしょ?」


 セレナに水を掛けたのは、マリーの仕業だ。


「やったな!」


 してやったりという表情で笑うマリーに、セレナが飛びかかる。二人で縺れて湖に入った後、距離を取って水を掛け合った。


「おりゃ!」

「何を!!」

「そんなやってたら、風邪ひ……!」


 コハクが、二人に注意しようとすると、二人から同時に水を掛けられた。


「もう! 私も怒ったからね!」


 水の掛け合いにコハクも追加される。三人が掛け合っているのを、他の四人はただ見守っていた。しかし、その時間も長くなかった。


「きゃ!」

「何するんですの!」


 アイリとリリーも水を掛けられたのだ。そして、女同士の戦いが始まった。ちなみに、マリー達は、アル達にも水を掛けようとしたのだが、近くにあった木を盾にされて掛けることは叶わなかった。

 そもそもこの状況で混ざり合おうという考えは、アル達にはなかった。何故なら、びしょ濡れになっているマリー達は、服が肌に貼り付いていたからだ。紳士な二人は、それを見ないようにして湖から離れていく。

 こうして、女子だけの争いが始まった。事は水掛だけでは終わらない。セレナのタックルを受けたマリーが湖に背中から入る事になる。そんなマリーは、馬乗りになろうとするセレナの足を掴んで立ち上がる。


「おわっ!?」

「よいっしょっとおおお!!」


 両脚を掴んだマリーは、その場でくるくると回って、セレナをジャイアントスウィングして、湖の中心の方へと投げる。


「きゃああああああ!!」


 湖に沈んだセレナを見て、満足げに頷くマリーを背後から拘束する者がいた。マリーは、背中に押しつけられる感触で、相手を察する。カーリー直伝の体術で、振りほどいて湖に叩きつける事も出来たが、その相手にそれをする事は出来なかった。

 そんなマリーの考えを見抜いたのか、コハクとアイリが拘束されているマリーに水を掛けようとしていた。


「ちょっ!? リリーもこっちにいるんだけど!?」

「マリーを盾にしているから、問題なし!!」

「リリーちゃん! マリーちゃんの身体に隠れて!」

「分かりましたわ!」


 そう言ってマリーを拘束しながら隠れるが、マリーよりも発育しているリリーの身体は所々はみ出していた。それを見て、コハクとアイリは、絶対にマリーには知らせないでおこうと心に決め、思いっきり水を掛けた。


「ばっぶっ……」


 マリーが、リリーの拘束を優しく解くために四苦八苦していると、アイリの後ろから、セレナが飛びついた。


「ア~イ~リ~!」

「セレナ!?」


 それを見たコハクは、好機とばかりに、セレナへと水を掛ける。


「わぷっ……!」


 セレナに標的が移ったところで、マリーもリリーの引き剥がしに成功する。そして、リリーを優しく押し倒した。


「よいしょっと!」

「きゃっ!?」

「さてと……お仕置きだよ!」


 マリーは、リリーの脇腹をくすぐっていく。


「あはははは!! お、お姉様! それは!」

「リリーは、ここが弱いのか」


 リリーの弱点を見つけてご満悦なところに、三人分の水が掛かり、マリーは、リリーの上から退かされる。


「妹の身体を弄って良いと思ってるの?」

「セレナにだけは言われたくないけど!?」


 五人の水の掛け合いは、かなり続いた。全員服が意味をなさないほど、びしょ濡れになって、別荘に帰ってきたマリー達が、カーリーに怒られるのは、言うまでもない事だった。

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