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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第二章 成長する王女

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束の間の安らぎ

改稿しました(2023年7月18日)

 マリー達が街まで帰ってくると、Sクラスの皆が城門の前にいた。


「マリー!」


 コハクがいの一番にマリーに近づいていく。


「ブイ!」


 近づいてきたコハクに対してピースをするマリー。


「すごいですわ! まさかアルさんに勝ってしまうなんて」

「うん、うん。すごいよ!」

「マリーちゃんもアルくんもすごい戦いだった!」

「そうだね。まさか、アルに魔剣術を使わせるとは思わなかった」


 リリー達が思い思いの感想を言う。


『さて、これにて、魔武闘大会一年の部を終了します! 後日、六年の部まで終了した後、全学年の優勝者同士でトーナメントを行います。さらに、エキシビションもありますので、優勝者であるマリーさんは、準備しておいてください。では、解散!』


 カレナのアナウンスで、観客達が街の中に戻っていく。


「私達も戻ろうか」

「そうだな。しばらくは、ゆっくり休めるだろう。皆、明日から、どうするつもりなんだ?」


 アルが皆に明日の予定を訊く。


「私は、休んでいるかな。魔道具の補充もしておきたいし」

「マリーが家にいるなら、私もそうしようかな」


 マリーとコハクは、自宅でゆっくりするつもりみたいだ。


「私は、他の学年の試合を見るつもりですわ」

「私も、リリーに付いていこうかな」

「じゃあ、私も」


 リリー、セレナ、アイリは、他の学年の試合を観に、闘技場に行くらしい。


「僕は、家の用事があるから、しばらくここを離れるかな」

「なるほどな」


 それぞれにやりたいことがあるため、しばらくは、別々に行動するようになりそうだ。


「それじゃあ、またね」

「ああ」


 マリー達は、それぞれ別れて、自分達の家に戻っていった。


 魔武闘大会一年の部は、マリーの優勝で幕を閉じた。


 ────────────────────────


 王城にて。


「予定通り、マリーナリアが優勝したな」

「はい。少し危ういかと思われましたが、優勝なされました」


 国王の執務室には、国王とカイトだけがいた。他には誰もいない。


「これで、あの作戦が使えるな」

「ですが、その作戦にのる者などいらっしゃるのですか?」

「既に手配済みだ。後は、時を待って細工をすれば完了だ。くっくく、くっくくくくく、ふっははははははは!!」


 国王の高笑いが執務室に響き渡った。


「では、私は失礼します」

「ああ、引き続き、マリーナリアの監視を怠るな」

「御意」


 カイトは執務室から出て行った。


「これでは、さすがのマリー様も……」


 国王とは正反対にカイトの顔は浮かなかった。


 ────────────────────────


 決勝戦の次の日、マリーは、自宅の工房にいた。


「ふぅ、消費した魔道具を補充して、剣のメンテナンスと改良……後は、少し新しいものを作ろうかな」


 マリー最初に予定していたとおり、消費した閃光石などの魔道具を補充し、自分の剣のメンテナンスを済ませる。


「改良……魔力の通りを複雑化させて、新しい魔法陣に対応出来るように……いや、そのままの状態で通りを良くする方が……」


 メンテナンスまでは、スムーズに終える事が出来たのだが、改良に関しては、かなり難航していた。今の状態から魔法式を変えて新しい魔法陣を創り出すか、あるいは今の状態を維持して魔力の通りを良くするか。前者は、一本だけでなく、全ての剣の魔法式を見直す必要がある。


「う~ん……」


 マリーが悩んでいると、工房のドアがノックされた。


「は~い」


 作業中ではなかったので、ドアを開けに向かう。開けた先にいたのは、コハクとマニカだった。


「マニカ? どうしたの?」


 何度も義手のメンテナンスなどで顔を合わせているので、マリーも呼び捨てで話す仲になっていた。


「いや~、腕の調子が少し悪くて確認して欲しいんだ」


 どうやら、義手の調子がおかしいらしい。


「分かった。中に入って、案内してくれてありがとう、コハク」

「ううん、お茶持ってく?」

「うん。お願い」


 マリーは、マニカを工房に招き入れ、コハクは、厨房にお茶の支度をしに向かった。


「それで、調子がおかしいってどんな感じで?」

「何か反応が悪い感じ? 関節部分の動きが悪いんだ」


 マニカの言葉に、マリーは少し険しい顔になる。関節部分の不調は、戦闘に限らず、日常生活にも影響を及ぼす問題だ。


「一度腕を外すよ」

「うん」


 マニカの腕を外して、作業机の上に載せる。そして、装甲とゴムを外して骨格だけにする。


「えっと……」


 マリーは、関節部分を中心に不具合の原因を探っていく。


「これは……マニカ、少し無茶な戦闘したでしょ?」

「えっ? ええっと、確か、魔武闘大会で激しい戦闘になったのは、あったけど……」

「多分、その戦闘でかな。骨格が少し歪んでる」

「直る?」


 マニカは、不安そうに訊く。もう既に、この義手はマニカにとって無くてはならないものになっている。そのため、義手が直る直らないは、マニカにとって死活問題になる。


「大丈夫! 直るよ!」


 マリーは、魔力を流して骨格の歪みを直していく。多少の歪みなので、マリーの魔力による成形でも直せる段階だった。


(う~ん、強度をもっと強化した方が良いかな。これから激しい戦闘が増えるって仮定したら、その方が良いよね)


 マリーは、義手にある魔法陣を浮かび上がらせて、強度上昇の魔法陣をプラスさせる。強度上昇を二重で付ける事により、さらに、強度を跳ね上げさせる。


「よし! 成功!」


 マリーは、念のため義手のメンテナンスもする。それらを終えたマリーは、義手を組み立てる。


「終わった。マニカ付けてみて」

「わかった」


 マニカは、義手を腕に付けて魔力を通す。そして、義手を軽く動かして調子を確かめる。


「すごい! 元に戻ってる!」

「そりゃあ、作った本人ですから!」


 褒められたマリーは、胸を張る。


「メンテナンスは、いつも通りで大丈夫だよ。魔力の消耗は大丈夫そう?」

「うん、前と変わらないよ。ありがとうね、マリーちゃん!」


 お礼を言うと直ぐさま飛び出していってしまった。


「無理しないでね」


 マリーの声は聞こえていただろうか。


「マニカさん、行っちゃったよ?」


 扉からお茶の用意をしたコハクが覗いてきていた。


「うん。直ったら行っちゃった」

「何か急ぎだったのかな?」

「どうだろう? まぁ、いいや。お茶飲も」

「そうだね」


 マリーとコハクは、食堂の方に向かっていった。そして、二人でゆっくりとお茶を飲みながら他愛のない話をした。

 お茶を飲み終えたマリーは、再び工房に戻ってきた。


「さて、剣の改良は諦めるとして……新しい魔道具か……」


 マリーは、素材を入れている箱などを眺めて頭を働かせていく。


「あっ……いや、さすがに難しいか……いや、形だけなら、既に出来る事は証明している……問題は、中核……そっちも既にある程度は形がある……でも、実際に作り上げるのは、難しい……焦らずに、理論の組み立てからやろう……絶対、トーナメントには間に合わないな」


 マリーは、口角を上げながらそう呟いていた。


 ────────────────────────


 あれから数日後、マリー達の自宅に、アルがやって来た。


「アルくん!? どうしたの?」

「少し、頼み事があってな」

「?」


 アルから頼み事と言われても、一切思いつかないマリーだったが、取り敢えず、アルを応接室にまで案内する。


「頼みって何?」

「ああ、盗聴器を一つくれないか」

「何で?」


 マリーは、眉を寄せながらそう訊く。


「今、色々と調査していてな。少し、確かめたいことがあるんだ」

「ふ~ん、まぁ、いいよ」


 アルの事をジッと見ていたマリーだったが、了承して、盗聴器を取りに工房まで向かった。


「絶対に悪用しちゃダメだよ」

「ああ、分かってる。かなり小型なんだな」

「まぁ、小さくないと見付かっちゃうからね」

「そうか。ありがとうな。また何かあったら来る」

「うん。分かった」


 盗聴器の受け渡しが終わると、アルは早々に帰っていった。


「本当に何に使うんだろう?」


 マリーは、かなり考え込んだが、結局何も思いつかなかった。マリーが、うんうん唸りながら考えていると、家の呼び鈴がまた鳴った。


「は~い!」


 マリーが扉を開けると、セレナとアイリが立っていた。


「マリー! ちょっと遊びに行かない?」

「いいよ。コハクもいるけど、誘って良い?」

「うん。いいよ」


 マリーは、家の中にいるコハクを呼び出して、セレナ、アイリと共に、街に繰り出した。


「ところで、リリーは?」

「今日は王城での予定があるんだって」

「王城で? なんだろう?」


 王城でする事など、マリーとコハクには、検討も付かない。


「何だっけ? 確か、王妃様とのお茶会とか言ってたかな?」

「へぇ~」


 マリーには、ほんの少しも興味をそそられない話だった。


「そんな事より、色々回ろうよ! もう少ししたら、マリーも忙しくなるでしょ?」


 魔武闘大会もかなり進んでいる。もうすぐ、上級生の試合も終わる頃合いだ。それは、マリーの上級生との、試合も近づいている事を表している。


「はぁ、何で上級生と試合しなくちゃいけないんだろう?」

「下級生に上級生の強さを確認させて、上昇志向を伸ばさせようとしてるんだっけ?」

「でも、下級生に負けたら、上級生のプライドが崩れるんじゃない?」

「そもそも、下級生が上級生に勝てる訳がないもん。そんな心配してないんじゃないの?」


 セレナの意見が、一番的を射ていた。六年連続優勝しているカレナがおかしいだけだ。


「まぁ、この話は置いておいて、今日は目一杯遊び尽くそう!」

『おー!』


 マリー達は、様々な店に赴き、わいわい話ながら、服や宝石、魔道具の材料まで幅広く買い物をした。マリー達にとっても、かけがえのない思い出となった。

 この数日後、マリーの試合の日がやって来た。

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