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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第二章 成長する王女

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決勝

改稿しました(2023年7月18日)

 試合開始の合図と共に、マリーとアルの両方が動き出した。


「『剣舞(ソードダンス)三重奏(トリオ)』」


 マリーの魔法鞄から、三本の剣が飛び出してくる。この試合では、最初から剣を扱う事にしていた。それだけしなければ、アルに勝てないからだ。マリーの剣が飛び出すと同時に、アルが前に出た。

 剣に火の魔力を通して、炎を撒き散らしながら、マリーの出した剣を近づけることなく弾いた。


「『風壁ウィンドウォール巨大ヒュージ』!」


 剣を自動追尾状態にしたマリーは、自分とアルの間に、巨大な風の壁を発生させる。


「風で防げると思うのか?」

「思わないから、こうするんだよ! 『風撃ウィンドブラスト』!」


 剣に火の魔力を通したアルに対して、いつもの風の弾よりも威力の大きい風が、風の壁を巻き込んでアルに襲い掛かる。その規模だけ見れば、上位魔法に見えるが、実際は下位魔法同士の組み合わせだ。


「はあ!」


 アルは、炎を纏った剣で、地面すれすれを斬り払う。地面が激しく燃え上がり、上昇気流が生まれる。その気流に沿う形で、マリーの魔法が少し上にずれた。同時に、上から迫ってきていたマリーの剣を遠ざける事が出来た。


「火力が高い……」


 火属性に風魔法は、相性が悪いと判断したマリーは、使う魔法を変えることにした。


「『水球ウォーターボール三連トリプル』」


 水の球を複数生み出して、自分の周りに浮かばせる。その間に、アルに弾かれた剣を再び、アルに向かって飛ばしていく。三つの剣が、縦横無尽に駆け抜けていく。

 アルは、最小限の動きでマリーの操る剣を避けつつ、マリーに接近しようとしていた。


「前に使った時は、対処しきれなかったのに……さすが、アルくんってところかな」


 マリーは、アルと剣がぶつかり合っている場所に、浮かばせておいた水を一つ飛ばした。

 その水の球をアルが斬り裂く前に、自分の剣で斬り裂く。


「?」


 突然の行動に、アルも戸惑いを隠せないでいた。


「『纏え』!!」


 水の球を斬り裂いた剣が、水色に輝き始める。


「これは……水の魔力か!」


 アルは、自分の剣を見て少し驚く。マリーの剣と打ち合った自分の剣の火の魔力が、少し減衰したのだ。


「直接魔力を込めるのではなく、魔法を斬って間接的に込めているのか……いや、そういう魔道具になっているという事か!」


 アルは、火の魔力を込めるのを中断して、通常の状態に戻した。それでも、マリーの剣を軽くあしらっている。そこに、マリーが魔法を放つ。


「『稲妻(ライトニング)五連続(クインティプル)』」


 五撃の稲妻が、アルを襲う。


「『石壁(ストーンウォール)三重(トリプル)』」


 その直前に、アルは、自分の目の前に三重の石壁を生み出した。稲妻は、全て石壁に阻まれて、アルに当たることはなかった。

 稲妻をやり過ごしたアルは、石壁の影から飛び出し、マリーに向かっていく。そこに、マリーの剣が殺到した。


「はっ!」


 アルの気合いと共に、身体から魔力の衝撃が発せられた。純粋な魔力の衝撃波は、アルを斬り裂こうとするマリーの剣を僅かに押し返し、少しの隙間を作った。その隙間を縫って、アルは前に出る。直ぐさま、マリーの剣が追い掛けるが、このままでは、間に合いそうにない。


「あまり増やしたくないんだけど! 『剣舞(ソードダンス)五重奏(クインテット)』!」


 マリーの魔法鞄から、新たに二本の剣が追加で飛び出した。


「『風壁(ウィンドウォール)』」


 アルは、マリーの剣が直撃する直前に、風の壁を生み出し、一本の剣を阻み、もう一本は自分の剣で受け流した。マリーとの距離は、もう三メートルもない。その前にマリーは、後ろにバックステップをして、距離を開けようとする。

 しかし、そこまで来たら、アルの方が速い。

 剣に炎を纏わせたアルは、まるで舞うかのように、身体を動かし剣を振う。滑らかな動きで、マリーを追い詰めに掛かる。どこに動こうとも、マリーに逃げ場がない。そんな攻撃だった。


「『短剣舞(ダガーダンス)五重奏(クインテット)』」


 マリーの懐から短剣が素早く飛び出し、アルの攻撃の全てを弾く。


「短剣か。あっちの剣とは、素早さが違うみたいだな」

「ご明察! 『衝撃インパクト』!」


 剣を弾いたことで生じた隙に、マリーは、アルに拳を叩き込んだ。その衝撃が増幅されてアルを襲う。


「ぐっ!」

「うっ!」


 マリーの攻撃がアルに直撃したと思いきや、アルもただ攻撃されるに留まらず、剣でマリーの腕を軽く斬った。


「吹き飛べ! 『風爆(ウィンドバースト)』!」


 マリーの放った風の爆発で、互いに吹き飛ばされ、距離が開いた。荒っぽい方法をとってしまったので、マリーは、ちゃんとした受け身を取ることも叶わず、地面に転がる。逆に、アルの方は、完全な不意打ちだったにも関わらず、両足から綺麗に着地した。


「『石杭(ストーンパイル)』!」


 マリーは、地面に手を付いて、石の杭を勢いよく伸ばしていく。アルは、難なく躱して杭の横を走って行こうとする。


「『ブランチ』!」

「!」


 杭の途中から生えてきた別の杭がアルに向かって伸びる。ギリギリのところで避ける事に成功するアルだったが、無傷というわけにはいかず、脇腹に掠り傷を受ける。


「『粉砕(クラッシュ)』!」


 アルは、杭本体に手を当て、力魔法によって、杭を粉々に崩す。そして、そのまま突き進んできた。


「もう! アルくん強くなり過ぎ! 『剣舞(ソードダンス)十重奏(デクテット)』!」


 マリーは、残りの剣を全て排出する。


「『剣唄(ソードソング)増幅(アンプ)』」


 十本の剣の内、三本の剣がマリーの頭上で回転し、魔法陣を描く。その剣から小さく音が鳴り響いてくる。


「『氷槍(アイスランス)十連続(ディカプル)』」


 氷の槍が十本生成された。その大きさは、通常の魔法の倍はあった。


「何!?」


 アルは、マリーの魔法に驚きながらも、動きを鈍らせない。剣に火属性の魔力を集中させて、熱量を高めていく。


「行けぇ!!」


 マリーは、氷の槍を時間に差をつけて放っていく。アルの剣は、熱量が高まった炎を纏って飛んでくる槍を昇華させた。連続で飛んでくる氷の槍は、悉く昇華させられた。


「氷と水はだめ……『(ライトニング)』!」


 こちらも、威力が上がり、特大のものになっていた。


「『石壁(ストーンウォール)三重(トリプル)』」


 アルは、先程と同じ対処をするが、石壁の構築が追いつかず、左肩に直撃する。


「ぐあっ! くっ……」


 ダメージはないはずだが、アルは左腕に若干の痺れを感じていた。


「全く、こんな隠し球を持っていたとはな」


 マリーの剣唄・増幅は、自身が使う魔法の威力と規模を一段階強化するものだ。これも、改めてマリーが開発した新しい唄だった。自分の力が足りないのなら、強化すれば良いという考えから思いついたものだ。


「こっちもなりふり構ってられないな」


 アルは、痺れの残る左腕の事を考えず、自身の剣にだけ集中する。


「白い……炎……?」


 極限まで高められた炎は、白く輝いていた。


「長くは保たなさそうだな……」


 アルの炎は自分自身も焦がす程の炎だった。だからこそ、短期決戦に持ち込むしかない。


「行くぞ」


 アルは、マリーに向かって駆け出した。


「こっちだって! 『起動ブート)』!!」


 魔道具の起動の合図にアルは、マリーの動きを警戒したが、変化は自分の足下からだった。足下から、甲高い音と眩い光が発せられたのだ。アルから目と耳を奪い去った。

 マリーが、アルと接近していた時に、軽くばら撒いていたものだ。


「ちっ!」


 アルは、目と耳が利かない状態になっているにも関わらず、マリーに向かって駆け出していた。


「何で!?」


 マリーがその場から移動しても、アルは見えているかのように付いてきていた。


「はあっ!」


 アルは、マリーから離れているにも関わらず、剣を振う。さっきより、距離が詰まってはいるが、それでも間合いの外のはずだった。


「飛んできた!?」


 マリーは、地面に結晶を叩きつけ、簡易結界を張る。一瞬だけ炎を止めたが、すぐに砕け散った。


「熱っ!」


 身体を掠めてしまったので、一瞬視界が暗くなるくらいのダメージを負う。


「もう! 『起動ブート』!!」


 マリーは、複数の結晶を空中に投げる。その一つ一つが、簡易的な結界となって、アルの攻撃を邪魔する。一瞬だけ……


「結界じゃダメか! 『起動ブート』」


 マリーは、今まで使った結晶と見た目だけ同じものを投げつけて起動した。


「なんだ!?」


 ようやく目と耳が回復したアルは、マリーが投げつけたものを結界だと思い、剣を振ったが、現れたのは大量の水だった。


「目くらましか!?」


 アルの高温の剣によって、マリーが生み出した水が一気に蒸発する。その結果、膨大な水蒸気が生まれる。それによって、アルの目の前が真っ白に染まった。


「『風爆ウィンドバースト』」


 アルは、風の爆発で水蒸気を吹き飛ばす。視界が晴れたアルが目撃したのは、剣を五本ずつ回転させ、二重の魔法陣を作っているマリーだった。


「何だ……あれは……」

「これで、終わりだよ! 『剣唄(ソードソング)交響曲(シンフォニー)』!」


 虹色に輝く極太の光がアルに向けて放たれる。


「これは……『魔剣術・白炎びゃくえん』!!」


 マリーの攻撃に対して、アルは、反射的に魔剣術を使ってしまった。

 マリーの放った虹色の光とアルの放った超高温の炎がぶつかり合う。その結果、辺り一面が白い光に包まれた。さらに、マリー達の戦闘から街を守るために張っていたカレナの神域サンクチュアリィが割れた。そして、衝撃波が街の城壁を襲う。

 コハク達は、踏ん張ることで何とか耐えられたが、他の民間人達は、その場で尻餅を付く人がほとんどだった。誰もが、戦闘が終わったと思っていた。しかし、耳を澄ませば、遠くから剣戟の音がしていた。


「おい、まだ続いているぞ!」

「どうなっているんだ! 今年の一年生は!?」


 観客の皆は、驚きの声を上げていた。


「『短剣舞(ダガーダンス)十重奏(デクテット)』」


 マリーは、魔力をほとんど使い切ってしまったため、通常の剣を動かす魔力が残っていない。そのため、メインに使用する武器を剣から短剣に変えていた。


「速度が高い分、威力に劣るぞ」

「でも、素早いから踏み込みづらいでしょ!!」


 マリーは短剣と格闘術、アルは剣と格闘術を使い戦い続ける。両者ともに魔力と体力が限界だ。それでも、勝ちを奪い取るため、攻撃をやめることはない。


「やぁぁぁ!!」

「はぁぁぁぁ!!」


 マリーの短剣十本同時攻撃とアルの剣の振り降ろしがぶつかり合う。その結果、アルの剣は弾き飛ばされ、マリーの短剣は砕け散ってしまった。


「まだまだ!」

「そうだな……来い!」


 マリーとアルの戦いは、格闘戦に移行した。魔法込みの戦いでは、マリーに軍配が上がっていたが、格闘戦のみとなると、アルの方に軍配が上がる。つまり、現状だとマリーの方が不利なのだった。


『そこまで!』


 マリーとアルの拳が互いに届く直前に、カレナの声が響き渡る。


『時間切れです。これより、互いのダメージ量を見て、勝敗を付けます!』


 カレナはそう言うと、高台から降りてきて、マリーとアルの元にやって来た。


「もう少しだったのに……」

「まさか、そこまで時間が経っているとはな。戦いに夢中になっていたせいか、気が付かなかった」


 カレナは、マリーとアルの状態を隅々まで見ていた。


「難しいですね……よし、決めました」


 カレナは、魔法で声を増幅させる。


『魔武闘大会一年の部決勝戦、勝者は……マリー・ラプラス!』


 城壁の方から大歓声が上がる。


「やった! 勝った!」


 マリーは、飛び跳ねて喜ぶ。


「おめでとう、マリー」


 アルは、悔しさを表情に出さずにマリーを賞賛する。


「でも、どこで判断したんですか?」


 ひとしきり喜んだマリーは、勝利の決め手が何だったのか気になり、カレナに訊いた。


「そうですね。最後の魔法のぶつかり合いで、マリーさんの魔法がアルゲートくんの魔剣術を打ち破ったからですかね」


 カレナの言葉にマリーとアルが驚く。


「見えてたんですか!?」

「はい。マリーさんの魔法がアルゲートくんの魔剣術とぶつかり合って拮抗していましたが、少し経つとマリーさんの魔法が打ち破っていました」

「あの状況で、そこまで見えるとは、さすが先生というべきか」


 打ち破ったマリーの魔法は、アルに直撃することなく、すぐ横を抜けていっていた。その余波で、ダメージを喰らっていたが、ギリギリで意識を飛ばさなかった。


「そうだ。すまない、マリー。魔剣術を使ってしまって」

「別に良いけど。むしろ、使わせられたのが嬉しいよ」


 申し訳なさそうにしているアルだったが、ニコッと笑って許したマリーに少し目を丸くする。


「ああ、その流れで私からも謝罪させてください」

「?」


 身に覚えのないマリーとアルは、首を傾げている。


「実は、時間だというのは嘘なんです」

「えっ!? どういうことですか!?」

「その……二人の戦いで私の神域が破壊されたのは良いのですが、もう一つのダメージ変換の結界も破壊されてしまったんですよ。このまま戦ってしまうと怪我をしてしまうので、その前に止めさせて頂きました」


 マリーとアルは、自分達が結界を壊していることに気が付かなかった。そのまま戦闘していれば確実にどちらかが大怪我をしていただろう。カレナのファインプレーである。


「では、街に戻りましょうか。生徒の皆さんを集めて、今後についてお話しします」

「はい」

「わかりました」


 カレナは、マリーとアルを連れて、街までの道を歩いて行った。

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