決勝戦前
改稿しました(2023年7月18日)
マリーとリンが医務室に運ばれた。それを見たコハクとリリーは医務室に急いだ。
「マリー! リンさん!」
「大丈夫ですの!?」
コハクとリリーが医務室に入ると、すでに回復しているアルとセレナの見舞いに来ていたアイリが出迎えた。
「アルさん! マリーは!?」
「ああ、大丈夫だ。体力と魔力が空になっているから、少し休めば眼を覚ますと思うぞ」
「そうなのですか! 他のお二人は!?」
「セレナは、魔力が枯渇状態を超えて無理をしたから、身体を回復してる途中、リンくんはマリーちゃんと同じく、目覚め待ちってところかな」
結局のところ、アル以外の三人は、まだここで回復させる必要があるということだ。
「そうだ。アルさん達の決勝戦は明日になったよ」
「ああ、その時には起きていたからな。知っているぞ」
「やっぱり、アルさんはすごいね」
今日戦闘をした四人の内、三人は眠ったまま、唯一アルだけが起きていた。回復力の違いもあるだろうが、ダメージ量の違いが一番の原因だろう。
「そうか? そもそも俺はリンが勝つと思っていたんだがな」
「そうなんですの!?」
アルの言葉に、リリーは少し驚いた。アルなら、マリーが勝つと思っていそうだと考えていたからだ。それだけマリーを評価していたからというのもある。
「マリーの技は知っているが、リンの能力は、それを凌ぐと思っていたんだ。それが、まさかリンを打ち倒す攻撃をするとはな」
「試合を観てたの?」
「いや、ここにいたからな。マリーがリンに使った技も知らないぞ」
アルは、試合が終わった後、ここでずっと体力が回復するのを待っていた。そのため、マリー達の試合を観る事は叶わなかったのだ。
「明日の試合が楽しみだな」
アルは口の端をつり上げる。リンに勝ったマリーと再戦出来るのが待ち遠しいのだ。入学試験で、負けた事が悔しかったというのもある。アルにとって、マリーはライバルと言っても過言ではなかった。
「あまり期待しないで欲しいんだけど」
ベッドの一つから声がする。皆が声のした方を見ると、マリーが上体を起こしていた。身体を起こすくらいには力が回復したようだ。
「マリー! 大丈夫!?」
コハクが、マリーのいるベッドに寄っていく。
「大丈夫だよ。体力と魔力が、限界になっただけだから。それより、リンくんは?」
「まだ寝ている。かなり消費したようだからな。セレナも傷と体力の回復のため寝ている」
コハクの後に続いて、アルも近くに来た。
「アルくんも大丈夫そうだね」
「ああ」
マリーは、全員が無事である事を聞いて安心した。結界で守られているとはいえ、体力などは削れるし、魔力も消費する。その面で重症となる可能性もゼロではないのだ。
「決勝戦は、明日に変更されましたわ。場所は街の外になりましたのよ」
「そうなの? 何でだろう……?」
マリーは、会場が変更された理由が思いつかずに、首を傾げる・
「闘技場内では、周りへの被害が起きそうだからですよ」
皆が声のした方向を見ると、医務室の入り口にカレナの姿があった。司会を終えて、すぐに駆けつけてきたようだ。
「今回の準決勝を見て、このままだと私の神域でも防ぎきれないと判断しました」
カレナは、苦笑いをしながらそう言った。カレナの神域が耐えられないというのは、かなり危険な事だ。それだけの破壊力を秘めた技を、マリー達が使っているという証拠でもある。
「ああ……確かに、アルくんとセレナの戦いは危なかったね」
マリーは、アルとセレナの戦いを思い出す。二人の魔力のぶつかり合いは、天気にすら作用するほどになっていた。これは、カレナの神域でも耐えられる限界だった。
「あれは怖かったですわ……」
「先生の結界がなかったら、死人が出てる可能性が高かったよね」
リリーとコハクは、少し青い顔をしながらそういった。
「そうだったか? まぁ、あれを結界無しでやったらどちらかが死んでいた可能性はあったな」
「え!?」
さりげなく言ったアルの言葉に、アイリは驚愕の表情になる。アル的には、周囲への被害はそれほどまでではないと思っていたようだ。だが、結界無しでは、アルかセレナのどちらかが死んでいた可能性はあったと思っていたらしい。
「セレナの技はヤバかったね」
「限界以上の魔力を込めて尚且つ、それを操ったんだからな。確実に成長しているはずだ」
マリーとアルは、セレナを賞賛する。それで、カレナがある事を思い出した。
「そうでした! そのことで説教をしに来たんでした!」
「ふふふ、アルくん説教だって」
マリーが、アルをからかう。
「マリーさんもですよ!」
「……だそうだぞ」
マリーは驚きを隠せない。
「私とリンくんは、危ない事してないですよ!」
「最後の技は危なくないとでも?」
「…………」
マリーは、カレナから眼を逸らす。
「そういえば、そろそろカーリー先生もいらっしゃいますよ」
「ほえっ!?」
マリーは、驚きと恐怖が入り混ざった表情になった。それと同時に、医務室のドアが勢いよく開く。
「マリー!! あんた、また危ない事したんだって!!?」
「そこまで、危ない事はしてない!」
「その判断は、私がするんだよ!」
そこからは、カーリーの怒鳴り声が響き渡った。そして、その矛先はマリーだけでなく、アルにも向いた。その説教には、カレナも参加している。
それを、コハクとアイリが少し離れて怯えながら見ていた。
「カーリー先生って、怒るとすごく怖いね」
「本当、当事者じゃなくて良かったよ」
そして、医務室の端っこの方で、セレナの治療をしていた医務室在中の先生が、困った顔をしながら
「医務室ではお静かに……」
と、小声で注意していた。
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次の日、カーリーにこってり絞られたマリーは、げっそりとした気分で食堂に降りてきた。
「おはよう……」
「おはよう、マリー。ご飯出来てるよ」
今日の当番はコハクだった。カーリーは、すでに食卓についている。
「マリー」
「ん? 何?」
ご飯を食べていると、カーリーがマリーの名前を呼んだ。
「剣の補修はしておいた。あまり無理して使うんじゃないよ。短剣の方も細かい欠けは直しておいたから」
「ありがとう、お母さん」
カーリーは、昨日の内に、マリーから剣をぶんどり(表現に誤りはない)、魔法陣と剣本体の補修を行っていた。
「今日はカストルの坊ちゃんとの試合だろ? かなりの激戦になるんだ。他に作り忘れている魔道具はないかい?」
「昨日は結構消費したけど、まだまだ数はあるし、大丈夫だと思うよ」
「そうかい。今日も私は、別の会場担当だから見にはいけないけど、頑張るんだよ」
「は~い! いってきます!」
マリーはご飯を食べ終わると、自分の魔法鞄を持って、外に出る。
「マリー! 待ってよ! いってきます!」
コハクも後を追い掛ける。
「全く忙しない子達だね……」
カーリーは、二人に呆れながらもその顔には笑みが浮かんでいた。
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マリーとコハクの二人が、街の城門に着くと、その上は多くの生徒など観客で埋まっていた。
「昨日より人多くない?」
「昨日の試合の話が広まったんじゃないの?」
マリーは、上を見上げながら人の多さに驚いていると、後ろから声が聞こえた。
「セレナ!」
後ろにいたのは、セレナとアイリ、リリーの三人だった。セレナを見たマリーは、直ぐさま飛びついた。リリーが羨ましそうな顔をする。
「もう大丈夫?」
「大丈夫! 大丈夫! 魔力も回復したし!」
「二人とも元気だね」
マリーとセレナが抱き合っていると、アルとリンがやって来た。
「リンくんも回復したんだ」
「うん。僕もマリーさんと同じく、体力と魔力がなくなっただけだったからね。皆が帰った後に起きたよ」
マリー達がそう話していると、
「マリーさん、アルゲートくん。街の外に行きますよ」
カレナがやって来て、そう言った。試合会場へと案内してくれるようだ。
「は~い」
マリーとアルが、カレナの後に続いていく。
「私達は、上に行こうよ」
セレナが、城壁の上に登っていく。その後を他の三人が追っていった。
マリーとアルは、カレナに案内されて街の外、それもかなり離れた所に来た。
「こんなに離れるんですか?」
「ええ、二人の戦闘だと、どんな被害があるか分からないですからね。ここら一帯の地面には、あらかじめ魔法でコーティングしているので、地面が抉れる事はそうそうないでしょうし」
「そうなんですか?」
「戦争や魔物の襲来があった時は、ここで戦闘をする可能性があるからな。その際に、いちいち地面を直すのは、費用が掛かると見込んで、そういう施工がされているんだ。国家魔道士がやっているから、そうそう壊れはしないだろう」
マリーは、カレナとアルの説明をほえ~っと聞いていた。
「さて、ここら辺ですね。私は、少し離れた場所から見守っています。一応ここにも、闘技場と同じ結界を広範囲で張っていますので、勝敗は気絶か降参となっています」
マリーとアルは、カレナの説明に頷いて答える。そして、カレナは、マリーとアルから少し離れた高台に立った。
『では、魔武闘大会一年の部決勝戦を開始します。はじめ!』
マリーとアルの試合が始まる。




