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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第二章 成長する王女
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魔武闘大会(6)

改稿しました(2023年7月18日)

 リンとリリーの戦いが終わって、マリー達が、次の試合を待っているとようやく、アナウンスが響き渡った。


『続いて、Dブロック決勝戦を行う! 該当生徒は闘技場まで来るように!』

「私の番だ。じゃあ、行ってくるね」


 マリーはそう言って、観客席から降りて行く。アルやコハク達は手を振って見送った。


「マリーがどうやって戦うのか、見物だな」

「確かに、魔道具は使うのかな?」


 アルがそう言うと、セレナも同じように考えていたようだった。


「う~ん、もしかしたら素手で決着を付けるかもしれないよ。さっきの準決勝も含めて、今までの戦いも素手で戦っていたみたいだし」


 コハクは、少し唸りながらそう言った。


「マリーさんは、魔道具職人希望なのに近接戦闘能力が高いしね」


 リンがそう言うと、周りの皆は一斉に頷く。


『それでは、Dブロック決勝戦……始め!』


 アル達が話している間に、マリーの試合が始まった。マリーの対戦相手はBクラスの主席であるガルシア・リリコアという男だった。現状の実力で言えば、Aクラスに入ってもおかしくないと言われている。


「くらえ!」


 ガルシアの得物は、大きな戦斧だった。長い柄を掴み、兜割りをしようとしている。


(懐に潜り込めるかな……?)


 マリーは、向かってくるガルシアの懐に潜り込むために、同じように突っ込んでいく。ガルシアは、油断をせずに戦斧を構えている。タイミングを合わせて一刀両断するつもりだ。このまま行けば、マリーの負けが確定してしまう。しかし、マリーとて馬鹿なわけはなかった。


「『起動(ブート)』」


 脚の下に圧縮空気を生成し、爆発させる。その勢いを使って、マリーは不自然に加速した。


「なっ……!?」


 目測を誤った戦斧は、マリーに当たる事無く、空振りになってしまう。そして、懐に飛び込んだマリーは、ガルシアに掌底を撃ち込む。


「ぐっ……」


 ガルシアは、両足を擦りながら後方に吹き飛んでいく。初戦で撃ち込んだときには、十メートルも吹っ飛ばした事を考えれば、ガルシアはよく耐えている。


「今までの人とは、耐久度が桁違いだね」

「お褒めに与り光栄だ」


 ガルシアは、少しダメージを負っているようだが、倒れる程のダメージでは無いようだった。マリーの言うとおり、ガルシアは異常なまでに打たれ強い。今までの戦闘も相手の攻撃を無視して、大きな一撃を当てる事で勝ち上がっている。


「何回撃ち込んでも倒れる気はないぞ」

「やってみないと分からないでしょ!」


 今度は、マリーの方から攻めに行った。先程と同じように足下で空気を爆発させる事で、急激な加速をする。それを読んだガルシアは、戦斧で薙ぎ払う。先程は縦に振り下ろしたが、今度は横の攻撃に切り替えたのだ。

 当然、そのまま突っ込めば、マリーは一刀両断されてしまう。そのため、マリーは、再び足下で空気を爆発させ、空を舞った。足先を掠めるように、戦斧が通り過ぎていく。

 マリーはそのまま身体を回転させ、回し蹴りをする。ガルシアは、その蹴りを腕で受け止める。ガルシアは、そのままの姿勢で飛ばされるが、やはり、倒れない。


「そのタフネスで、何でBクラスなのさ」


 マリーは呆れ顔でそう言った。当の本人であるガルシアは少し気まずい顔でこう言った。


「魔法がからっきしなんだ。身体能力を強化する事しか出来ない。入学試験の時、魔法をメインに使う奴に当たってな。一方的に倒されちまったって訳だ」

「相性の問題でそうなっちゃったんだ」


 現状、観客席から見れば、ただ談笑しているように見えるだろう。しかし、実際には、互いに攻めあぐねているだけだった。


(ん? てか、魔法で攻撃すれば良かったんじゃない?)


 ガルシアの言葉で気が付いた事だった。ここまで、接近戦で戦っていたため、すっかり失念していたのだった。


「『炎弾(ファイアバレット)』」


 マリーはガルシアに対して、炎の弾を放つ。


「ちっ!」


 ガルシアは、避ける事無く戦斧を盾にして炎弾を受ける。ガルシアの目の前が、一時的に赤く染まる。その隙に、マリーはガルシアの懐に潜り込む。拳を握り、ガルシアの脚目掛けて振り下ろす。


「『衝撃(インパクト)』」


 衝撃の魔法が乗った拳を、ガルシアはギリギリのところで、戦斧の柄を使う事で防いだ。致命的な一撃を防ぐ事に成功はしたが、その衝撃で戦斧が手から離れ、飛んでいく。


「くっ! この野郎!」


 ガルシアも拳を握り、マリーに向かって振り下ろす。身体能力強化をされた一撃は、かなりの速度を持ってマリーに迫ってくる。これには、さすがのマリーも反応しきれない。直撃は避けられないだろう。ガルシアもそう思った。しかし、その一撃は、マリーの顔の数センチ前で止まる事になった。


「……結界か!」


 ギリギリ……本当にギリギリのところで結界を張る事に成功した。攻撃をする際に、念のためと地面に結界を張る結晶を落としていたのだ。


「『水壁(ウォーターウォール)』」


 マリーとガルシアの間に水の壁が生まれる。


「『氷針(アイスニードル)』」


 水の壁から氷の針が生え、ガルシアを刺す。


「はあっ!」


 ガルシアは気合いだけで氷の針を耐えた。


「おかしいでしょ!」

「こんなのでやられる奴は、気合いが足んねえのさ!」


 ガルシアは、右ストレートを放っていく。マリーは身体を捻って避ける。


「『風弾(ウィンドバレット)拡散(ディフューズ)』」


 散弾のようになった風の弾がガルシアを襲う。ガルシアは、腕をクロスさせる事で風の弾を防ぎ耐えた。そして、腕を解いたガルシアが見たのは、目の前に迫るマリーの靴の裏だった。


「『起動(ブート)』」


 圧縮空気がガルシアの顔前で爆発する。風圧に押されたガルシアは、数メートル後退する。そして、マリーも反対方向に吹っ飛んでいく。地面に激突する寸前で、手を突いて着地した。


「まだまだ! 『炎弾(ファイアバレット)五連(クインティプル)』」


 直ぐさま、五発の炎弾を放つ。ガルシアは、その場から走って逃げ、戦斧の元に向かう。炎弾は、走るガルシアの後ろに次々着弾していった。

 身体能力を強化したガルシアは意外と速く、戦斧の元まで辿り着いていた。止まる事無く戦斧を拾い上げ、大きく弧を描くようにマリーに迫っていこうとする。そこで気が付いた。マリーの姿が見えない事に……


「どこに行った!?」


 ガルシアは、闘技場内をくまなく見回す。マリーは、姿も形もない。戦斧に意識を奪われていたので、マリーの動向に注意が向いていなかった。さらに言えば、マリーが放った炎弾によって巻き上がった砂埃のせいで、闘技場の一部が見えにくくなっている。


「あそこか……?」


 ガルシアは、砂埃の中を怪しく思い、そこに注意を払っていた。それが、仇となった。


「『衝撃(インパクト)』」


 ガルシアの背後で声が聞こえ、反応したガルシアが背後を向こうとするが、時既に遅し……


「ぐあっ……」


 背後から突き抜けた一撃によって、ガルシアは膝を付いた。だが、未だに気絶をする事は無かった。


「何故……背後にいる……?」


 ガルシアは、ゆっくりと背後を見る。そこにいたのは、口に金属の破片を咥えたマリーだった。


「魔道具『静音片』。触れているものの音を静かにさせる魔道具だよ」


 マリーは、そう説明しながら、手のひらをガルシアの背中に触れさせる。


「『稲妻(ライトニング)』」


 雷がガルシアの身体を駆け巡り続ける。最初こそ耐えていたが、すぐに意識を失った。蓄積されたダメージが限界を超えたのだ。


「ふぅ、やっと倒れた……」


 ようやく倒れたガルシアに、マリーは一息ついた。


『そこまで! 勝者、マリー・ラプラス!』


 静まりかえっていた観客席が歓声に沸く。マリーは、歓声を浴びながら、観客席にいる皆の元に戻ってきた。そこには、マリーの試合が始まるまではいなかったアイリの姿もあった。


「アイリ、目が覚めたの?」

「うん。見てたよ。すごかったね」


 アイリは、帰ってきたマリーをにこやかに迎える。


「手強かったようだな」

「うん。あのタフネスで。Bクラスだなんて信じられないよ。魔闘術が通用しないんだもん」

「ああ、授業でやった高濃度の魔力で殴るってやつだっけ?」


 セレナの言葉に、マリーが頷く。


「うん。その他にも魔力阻害って効果があるっぽい。相手の身体の中に、自分の魔力を撃ち込む事で、相手の魔力をかき乱すんだってさ。だから、魔力を使った防御を突破出来るはずなんだけど、まだ完全に使いこなせてないから、私は、防御を半減させるくらいしか出来ないかな」


 マリーの説明に、皆が感心する。


「それはさておき、これで一年生の部の準決勝、決勝はSクラス同士になったね」


 コハクは、今までの試合を思い返してそう言った。


「どういう組み合わせになるかな?」


 セレナは、わくわくしながらそう言う。


「マリーさんとアルさんの戦いは、見てみたいですわね」

「確かに、二人の本気の戦いってどうなるのか気になる」


 リリーとアイリもセレナ同様にわくわくしていた。すると、審判を務めていた先生が話し始めた。


『これにて、魔武闘大会二日目の試合を終える! 一年生の準決勝、決勝は明日行う! 対戦者については、明日伝える。各自備えておくように! では、解散!』


「どうやら、明日までのお楽しみのようだね」


 リンは苦笑いしながらそう言った。リンとしても、対戦相手は、今日分かるものだと思っていたのだ。


「取り敢えず、今日は帰ろうか。さすがに疲れたし」

「賛成!」


 マリー達は、その場で解散し、各々の家に帰った。次の日の試合は今日よりも、激しい熱戦になりそうだ。

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