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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第二章 成長する王女
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魔武闘大会(3)

改稿しました(2023年7月18日)

 次の日、準決勝に進出した一年生達は、第一闘技場に集まっていた。


「今日は全員同じ所で戦うんだね」

「そうだね。まぁ、準決勝と決勝だから、他の闘技場を使う理由がないんだと思うよ」


 マリーとコハクも隣同士で座っていた。マリーのもう片方の隣には、アルの姿もある。


「第二は、二年生が使い、第三から第六までは三年生が使っているらしい」

「へぇ、第七と第八は?」

「今日は使われていない。その間に、土をならしたり修復したりとメンテナンスをするようだ」


 マリーの疑問にアルが答える。そんな風に会話していると、他のSクラスメンバ-も集まってきた。


「おはようございますわ」

「おはようリリー。セレナもアイリもリンくんもおはよう」

『おはよう』


 朝の挨拶を交わして、いつも通り他愛のない話をする。そんなマリー達の姿を他のクラスの人が唖然と見ていた。他の生徒達は、吐きそうな程緊張している状態なのに、Sクラスの面々は、一切緊張しているように見えないからだ。

 そんなこんなで、魔武闘大会二日目の開催時間になった。


『集まっているな!』


 今日の審判役の先生が、声を張り上げる。その声を聞いた生徒達は、佇まいを直す。


『これより、Aブロック準決勝第一試合を開始する!』


 こうして、準決勝が始まった。やはりというべきか、Sクラスの面々は、準決勝を勝ち進んだ。試合時間は、平均で二分程だった。


「皆勝ち進んだね」

「そうだな。というか、全員奥の手を、一切使わずに勝っていたな。これまでの戦いもずっと使っていないのか?」

「そうだね。『魔弓術』は使ってないよ」

「私も基本的な魔法しか、使ってませんわね」


 今回は、マリーも含めて本来の力を一切使わずに勝ち進んでいた。自分の手の内をあまりさらしたくないと思っていたための行動だ。しかし、次の決勝では、使わざるを得なくなるだろう。


『小休憩の後、決勝戦を開始する! 決勝に残ったものは準備をしておくように!』


 マリー達は、この休憩時間をゆっくりと過ごした。そして、決勝戦が始まった。


『Aブロック決勝戦を始める!』


 闘技場に、アルとコハクが降りていった。互いに一定距離を開けて向き合う。


「コハクが相手だからな。全力で行かせて貰う」

「こっちだって、負けてばっかじゃいられないからね。ここで勝ってみせる!」

『では、始め!』


 先に動き出したのは、コハクの方だった。縮地を使い、一瞬でアルの背後に回る。


「ワンパターンの攻撃は読まれやすいぞ」


 アルは、コハクが背後に回る前に、既に後ろに向いて剣を振っていた。コハクに当たるその瞬間、コハクの姿が掻き消える。再び、アルの背後に回ったのだ。


「ふっ!」


 コハクが剣を抜刀し、アルを斬りつける。しかし、その攻撃はアルの剣によって阻まれる。


「……」

「……」


 鍔迫り合いになるも互いの顔に焦りはなかった。お互い、相手ならこれくらい当たり前にやると思っていたが故だった。

 純粋な力勝負ではアルの方が優勢のため、コハクは、すぐにその場を飛び退く。


「やっぱり、これじゃ倒せないよね。なら!」


 コハクは、再び縮地を使う。アルは、再び背後を警戒する。しかし、いつまで経ってもコハクが現れない。


「なるほど、常に縮地を使う事で攻撃のタイミングを掴ませないということか」


 アルは、背後の警戒から全方位の警戒に変えた。精度は落ちてしまうが、コハクがどこから来るか分からない以上、こうするしかないのだった。


「しっ!」


 アルの右側に現れたコハクは、地面すれすれから斬り上げる。瞬時に反応したアルは、それをいともたやすく防ぐ。ここまでは、さっきの攻防の焼き増しのようだ。


「まだ、まだ!」


 コハクは、また縮地を行い、アルの背後に現れ斬りつける。その攻撃は防がれてしまうが、その直後に再び縮地を行い、今度はアルの左側に現れて斬りつける。それも防がれる。再び縮地を行い、アルの背後に現れる。

 斬っては防がれ、斬っては防がれを延々と繰り返していく。そして、その速さは、一撃毎に加速していった。コハクは、縮地という圧倒的な速さでヒットアンドアウェイを繰り返す。一般的な生徒であれば、この攻撃を防ぐことも厳しいだろう。

 しかし、アルは、超人的な反射神経でコハクの攻撃に対応する。コハクの縮地による砂埃と二人の素早い動きによって、段々と二人の攻防が見えなくなってきた。


「どうなってるの……?」


 試合を観戦していた生徒の一人が呆然と呟いた。そう思ってしまっても無理はない。マリー達でさえ、ほとんど残像を追うことしか出来ないのだから。

 縦横無尽に攻めているコハクは、少し焦りを覚えていた。


(これだけ撹乱して、攻撃しても対応されてしまう。この戦い方じゃ、だめだって事?)


 そう思いながらも縮地を乱発して攻撃を繰り返していると、不意にアルの剣が赤熱し始めた。


「はあぁぁ!!」


 アルが、剣を一振りすると、その軌跡を辿るように炎が駆け抜けていった。


「魔剣術!?」


 コハクは、縮地でその場から飛び退く。


「いや、ただ剣に火魔法を通しただけだ。魔剣術には遠く及ばない」


 アルがやった事は、剣に火魔法の魔力を通して、その効果を発揮させただけだった。そのため魔剣術程の威力はない。


「人相手に、魔剣術を使うわけにはいかないからな」


 そう言って、今度はアルの方が攻勢に出た。縮地で避けられるのは、承知の上で大振りの一撃を放つ。やはりというべきか、コハクは、アルの攻撃を縮地で避けた。


「嘘っ!?」


 コハクが驚きのあまり目を見張る。なぜなら、コハクが縮地で移動した先で、既にアルが剣を振っていたからだ。


「うっ!」


 コハクは、何とか刀で防ぐが、勢いの乗った攻撃によって、たたらを踏んでしまう。その隙をアルが見逃すはずもなく、すぐに横薙ぎでの攻撃がくる。この攻撃は、ギリギリのところで回避することに成功した。


「何で……?」

「何でだろうな。自分で考えて答えを出さねば、やられる一方だぞ!」


 攻撃と防御の役が変わり、今度はアルが連撃をする。コハクほどの速さはないにしても、縮地をする隙を生まない程度には、攻撃をする事が出来る。


(こう……なったら!)


 コハクは、攻撃と攻撃の一瞬の隙を突いて、アルに掌底を打ち込む。掌底自体は簡単に防がれたが、それまでのテンポを崩すことが出来たため、コハクは縮地で移動することが出来た。


「一か八か……」


 コハクは、刀を鞘に納める。それを見たアルは警戒を強める。


「ふぅぅぅ……」


 緩やかに息を吐き、精神を統一させるコハク。コハクに何かをされる前に攻撃をしようと、アルは駆け出す。突っ込んでくるアルに対して、コハクも動き出す。


「『抜刀術・雷斬(らいき)り』」


 縮地によってアルの目の前に来たコハクは、目に見えないほどの速さで刀を抜刀する。その軌跡には、青白い稲妻が走っていた。

 コハクの狙いは、アルの首。誰もがアルの首が撥ね飛ばされる姿を想像した。


「な……ん……で?」


 だが、地に伏したのはコハクの方だった。


『そこまで! 勝者アルゲート・ディラ・カストル!』


 先生の言葉に少し遅れて、観客達の歓声が轟く。


「コハクが俺の首を狙うのは予想出来たからな。あらかじめ、首の近くに剣を置いておいたのさ。防いだ後は、すぐに身体を斬ったということだ」


 アルは、コハクに聞こえているか分からないままそう言った。

 コハクは救護班の手によって、治療部屋に連れて行かれた。アルの方は、そのまま皆の元に戻ってくる。


「おめでとう、アルくん。Aブロック優勝だね」

「ああ、少し危なかったがな」


 マリーからの賛美に、アルはそう答えた。


「そうなんですの? 結構余裕があったように見えましたけど」


 リリーが、アルとコハクの戦闘を思い出しながらそう言った。


「コハクは、縮地を使う際に移動先を見る癖があるからな。最初の連撃は目を見ていれば対処することが出来る。危なかったのは、最後の攻撃だ。あんな速度じゃあ、見てからの対処は不可能だ。ある程度攻撃の方法を予測して行動をしたが、外れていれば負けていたのは俺だ」


 アルは、真面目な顔でそう言った。これには、マリー達も驚きを隠せない。アルを、一か八かまで追い詰めていたとは思いもしなかったからだ。


『続いてBブロックの決勝戦を開始する!』


 先生が声を張り上げる。


「あっ! 私達だ。アイリ、行くよ」

「うん、セレナ」


 セレナとアイリが闘技場に降りて行く。アルとコハクの戦いに続いて、セレナとアイリの姉妹対決が始まる。

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