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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第二章 成長する王女
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魔武闘大会(2)

改稿しました(2023年7月18日)

 マリーと別れたコハクが、第一闘技場に到着すると、観客席の中で、一箇所だけ広く空けた場所を見つけた。そこには、アルの姿があった。


「アルさ~ん」

「コハクか」


 アルを見つけたコハクは、小走りで近寄っていく。


「私達、避けられてるね。何かしたのかな?」

「俺達が、Sクラスだからだろうな。敬遠しているのだろう」

「ああ……そういうこと」


 これは、アルの言うとおりだった。マリーの所でもそうだったが、Sクラスに所属しているというだけで、他のクラスからは敬遠されてしまう。Sクラスは、それだけ周りと隔絶した強さを持っているということだ。


「コハクは、第何試合だ?」

「二試合目だよ。アルさんは?」

「俺は、十五試合だな。この分だとブロックの決勝で戦うことになるか……」

「勝ち抜けばね」


 コハク達が話していると、カレナの説明が始まった。それを聞き終わると、審判役の先生が仕切り始める。そして、第一回戦が始まった。コハクとアルは、並んで試合を観ていた。


「長いね」

「互いの手札が拮抗しているからな。持久戦になってしまっている」

「普通は、手札を隠して、どこで切り出すかが重要になってくるもんね。それを最初にほとんど出しちゃうんだもん。こうなるよね」


 結局その試合は、制限時間いっぱいまで戦い、ダメージ量の多さで判定を下された。


『第二試合。Sクラス、コハク・シュモク。Bクラス、ジュン・カナゴン。所定の位置についてください』


 最初の試合が終わったので、コハクの番が来た。


「じゃあ、行ってくるね」

「ああ」


 コハクは、観客席を立って闘技場まで降りていく。そして、所定の位置に立つと、正面にいるのは剣を持った男だった。


「何だよ。Sクラスだからって警戒したら、女じゃねぇか」

「文句でもありますか?」


 苛ついたコハクが、丁寧に訊いた。Bクラスのジュンは、ニヤニヤしながら答える。


「お前みたいな奴が、Sクラスとは笑わせてくれるって言ってんだよ!」


 コハクは、何も返事をしなかった。ただただ、所定の位置で待っているだけだった。ジュンは、面白くなさそうに鼻を鳴らす。


『では、第二試合。始め!』


 合図とともにジュンが走り出した。剣を振り上げ、コハクに叩きつけようとする。何故か勝利を確信しているジュンの顔に笑みが浮かぶ。しかし、コハクがその餌食になる事は無かった。


「ぐふっ!」


 剣を振り上げたタイミングで縮地をしたコハクが、その腹に膝蹴りをぶち込んでいた。ジュンは、息が詰まり膝を突く。

 コハクは、さらに追い打ちを掛ける。膝を突き、前のめりになったことで丁度いい高さになったジュンの頭を思いっきり蹴った。


「うぐっ……」


 側頭部を蹴られたジュンは、横に一回転して、地面に倒れる。何とか起きようとしていたが、叶わず気絶してしまった。


『そこまで! 勝者コハク・シュモク!』


 試合が終わったのでコハクは、アルがいる観客席まで戻る。気絶したジュンには、一切見向きもしない


「エグいことをするな」

「あっちから挑発してきたんだから、因果応報でしょ」

「そのせいで、コハクを警戒する人が増えたぞ」

「勝手にすれば良いんだよ。女の子だからって、弱いと決めつけるんだから」


 それから少しの間コハクの機嫌は、直ることはなかった。アルも無理に話しかけることなく、試合を観ていた。

 試合は進んで行き、ようやくアルの出番がやって来た。アルの相手は、Aクラスの人だった。模擬戦でも何回か戦っている。


「今日こそは倒させて貰うぞ!」

「俺も負けられないからな。遠慮させてもらう」


 二人は、所定の位置につく。


『では、始め!』


 Aクラスの方が先に仕掛けてくる。


「はあああああ!!」


 剣による薙ぎ払いで、アルを攻撃する。しかし、その一撃は、簡単に防がれる。それどころか、そのまま受け流されてバランスを崩すこととなった。


「しまった!」


 アルがそんな隙を見逃すはずもなく、的確に急所へ攻撃され、対戦相手は気絶した。


「いつも張り切っているが、行動がワンパターンすぎる」


 聞こえてないと知りながら、アルはそう言い残して観客席に向かう。


 ────────────────────────


 Sクラスは、全員三回戦を突破することが出来た。うまく離れていたようで、それぞれのブロックの決勝か本戦でぶつかることになる。


『これにて、魔武闘大会初日を終えます。準決勝に進出した生徒は、明日に備えてゆっくり休んでください。負けてしまった生徒は、観戦しても休んでいても大丈夫です。大会が終わるまで自由にしていてください。あ、勉強はしておいてくださいね。学業も大事ですから』


 カレナの声が響き渡る。今日の試合を全て消化したからだ。


「う~ん、明日も試合かぁ」


 マリーは、身体をほぐしながら歩いていた。コハクと合流するために、教室の方向に向かっているのだった。学院の入り口付近は、他の生徒でごった返しているので、そっちの方が集まりやすい。

 マリーが教室に着くと、いつもの席に全員が揃っていた。


「あれ? 皆どうしたの?」

「人がいなくなるのを待っているんだ。あの状態じゃ、帰りにくいからな」

「ああ……そういうこと」


 マリーも自分の席に座る。


「皆は、勝ったの?」

「ええ! 私達全員全勝していますわ!」


 リリーが胸を張って答える。他の面々も頷いて答える。


「じゃあ、明日のブロック決勝で戦う感じなんだ?」

「そうだね。マリーさん以外は、戦う可能性があるね」

「まだ、分からないがな。準決勝まで残った相手が強い可能性も捨てきれない」


 アルは、真面目にそう言った。実際に、そう考えているので嫌みで言っているのではない。


「セレナとアイリは、同じブロックだったよね?」

「そうだよ。アイリとの真面目な戦いは、久しぶりだからね。ちょっと楽しみ!」

「私は、今から胃が痛くなってくるよ。相性が悪いんだもん……」


 セレナは張り切っているが、アイリは沈んだ表情になっている。


「アイリは、まだマシだよ。私なんてアルさんだからね。勝つつもりだけど、絶望感は強いよ」

「それを言ったら、私はリンさんですのよ……」


 アイリ、コハク、リリーは、互いの対戦相手を思い出しながら絶望に打ちひしがれている。


「クラスメイトに絶望を与えるなんて……三人ともヤバいね!」

「マリーに言われたくないぞ」


 マリーが、若干引き気味に言うと、アルがすかさずに言い返す。そして、アルの意見にセレナとリンが同意した。


「……まぁ、明日は皆それぞれがんばろ!」


 皆の視線に耐えきれずに、マリーがぎこちない笑顔でそう言う。皆の胸中は、


(話を逸らしたな)


 で一致していた。そして次の日、Sクラス同士での激しい戦闘が巻き起こることになった。

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