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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第二章 成長する王女
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提案と説明

改稿しました(2023年7月18日)

 マリーは、学院付属の病院に向かい、受付に向かう。


「あの、このメモの病室に面会をお願いしたいんですが」

「少々、お待ちください。マニカ・カネエラ様ですね。こちらの札を首掛けてください。病室には、あちらの階段から行けます」

「はい、ありがとうございます」


 マリーは、受付の指示に従って、階段を上っていく。四階まで上がると、マニカの病室の前まで歩いた。


「すぅ~、はぁ~」


 マリーは、深呼吸をしてから、病室をノックする。


「どうぞ」


 マリーは返事を聞いてから、扉を開けた。そこには、黄土色の髪を背中まで伸ばした病衣姿の少女が、ベッドで身体を起こしていた。その片腕……右腕の二の腕の半ばから先は、やはり無い。


「失礼します」


 マリーが病室に入っていくと、マニカは少し驚いた顔をする。


「あの時のお客さん、どうしてここに?」

「えっと、初めまして。私は、マリー・ラプラスって言います」

「ラプラス……もしかして、大賢者様の娘さん!?」

「うん、そうだよ」


 マニカは、マリーの事をきらきらした目で見始めた。これが一般人のマリーに対する反応だ。それだけ、カーリーの名前は人々の間で有名なのだ。神聖視している人もいる程だ。


「それで、何か用があるの?」


 マニカは、首を傾げて訊く。


「えっと、実は……少し相談……というより、お願い……じゃないな。えっと、頼みじゃなくて、提案?」

「えっと……?」


 マリーの要領を得ない言葉に、マニカは訝しげになる。


「いや、遠回りじゃなくて、直接言うね。マニカさん……」


 マリーは、少し息を吸う。


「私が作る義手を付けてみませんか?」

「へ?」


 マニカは、マリーに言われたことを一瞬理解出来なかった。それでも、無意識に無くなった腕を掴む。


「どういうこと……?」

「今、私が試作している義手は、細かい作業も出来るものを作ろうとしているの。それの試着、つまりテスターになって欲しいの」

「テスター?」

「うん。まだ、安全面に難があるから、すぐに装着とはいかないけど」


 マニカは、まだ、この状況を理解出来ずにいた。マリーが何を言っているかは、分かっているのだが、何故それを自分に言うのかを理解出来ないのだ。


「なんで、私なの?」

「一度会っただけだけど、知らない人じゃないからかな」

「そんな理由で、私を選ぶの?」

「うん。そんな理由だけど、マニカさんの腕を戻したいと思ったから」

「……」


 マニカは、唖然とした顔でマリーを見る。そして、しばらくの間、考え込む。静かな時間が流れていく。この時間は、マリーも少し緊張していた。


「私の腕、元に戻るの?」

「元通りとはいかないかな。少し無骨になるし、使い勝手が良いとは言えないけど、自分の腕のように扱えるはず。私の理論が合っていればね」


 マリーは、マニカに対して、気休めの嘘は言わない。嘘をつけば、マニカの信用は得られないからだ。


「……でも、うん。腕が戻るなら、お願いしたいかな……いや、お願いします」


 そう言って、マニカは頭を下げる。


「……うん! 絶対に良い腕を作るよ! じゃあ、少し触って良い?」

「うん! ん? 触る?」


 マニカの了承をとれたことで、マリーはマニカのベッドに近づく。


「失礼」


 そう言ってマリーは、マニカの身体を触っていく。


「ひゃっ!」

「服の上からだとわかりにくいなぁ」


 そう言って、服の中に手を入れる。そして、お腹や背中、胸、脚、腕の隅々まで触っていった。


「ちょ……! そこは、だめだよ! きゃっ!」

「……」


 マニカが抗議をしようとするが、マリーの真剣な顔を見て、言い淀んでしまう。


「魔力の通りは正常だね。右腕も先端まで通ってる。魔力の質も澱んでいる感じは無し。お母さんが何も言わなかったから、大丈夫だと思ってたけど」

「……」


 マリーがブツブツと独り言を言う姿を見て、マニカは少し驚いている。


「後は……マニカさん、右腕の感覚はどこまである?」

「右……? えっと、先端まであったかな。朝起きたときに痛みがあったし」

「まだ、痛みが……どのくらい?」

「えっと、寝れないくらいかな」


 マリーは、マニカの話を聞いて少し考え込む。


「すぐに付けるのは駄目だね。痛みが引いてからかな。後は、長さか。左腕を真っ直ぐ伸ばしてくれる?」

「うん……」


 マニカは言われたとおり、左腕を真っ直ぐ伸ばす。マリーは、腰に付けているポーチから巻き尺とメモ帳を取り出す。

 このポーチは、マリーの剣が入っているポーチとは別のポーチだ。まだ、グランハーバーにいた頃、マリーが七歳くらいの時に、カーリーに作ってもらったものの一つだ。マリーは、その中に巻き尺などの色々な道具を入れている。


「大体このくらいかぁ。試作品も作り直して、色々と調べないとかな。後は、もう少し軽量化しないと、マニカさんに負担になる気がする。諸々練り直しだね」

「大丈夫そうなの?」

「うん。平気だよ。少し考えなきゃいけないから、時間が掛かるかもだけど」

「……待ってるね」

「うん、じゃあ、また今度ね」


 そう言ってマリーは、病室を出た。その脚で学院に戻る。さすがに、そのまま家に帰るようなことはしなかった。


「何で、マリーの提案を呑んだんだい?」


 マニカは、ビクッと震えた。いきなり声を掛けられたからだ。声の主は、そのまま中に入ってくる。


「大賢者様……」

「カーリー先生と呼びな。それで?」


 病室に入ってきたのはカーリーだった。


「……希望を捨てたくないからです。他の医者は、誰も元には戻らないって言ったけど、マリーちゃんだけは、腕を戻してくれるって言ってくれたから……」

「そうかい……当面の学費は心配いらないよ。私が立て替えておくからね。マリーの義手代も合わせてね」

「えっと、いくらくらいになりますか?」

「う~ん、七十万ミルくらいかね。まぁ、最低でもだけどね」


 マニカは、値段を言われて目を丸くする。


「そんなにですか……?」

「あんたの境遇を考えて、利子なんかは付けないよ。何年かかってもいいから、少しずつ返しな。その前に、私がくたばっているかもだけどね。はっはっはっ!」


 カーリーはそう言って大笑いしている。マニカは、少し面食らってしまう。


「じゃあ、私はもう行くさね。ゆっくり休むんだよ」

「はい、ありがとうございます」


 カーリーが病室を出て行った。マニカは、外を見る。


「腕が戻る……か。嬉しいけど、実感がわかないなぁ」


 一人でいるとき、いつも無表情か悲痛な表情だったマニカの表情に笑顔が戻ってくる。


 ────────────────────────


 マリーは、学院に着くと教室に戻っていった。教室に入ると、今は授業中だった。


「あら、マリーさん。帰ってきたのですね」

「すみません、休んじゃって」

「いえ、カーリーさんにお話は伺っていますから、大丈夫ですよ。席に座ってください。続きからですけど、授業には出て頂かないとですから」

「はい!」


 マリーは、自分の席に着いてノートと教科書を取り出し、授業を受ける。そして、最後まで授業を受けた。

 放課後、マリー達は、教室で集まっていた。


「マリー、どうだったんだ?」

「うん。了承してもらえたよ。だから、早く作らなきゃなんだ。まぁ、マニカさんの傷の痛みが治まるまでは待たなきゃだけど」


 マリーは、アル達にそう話した。アルが訊いてきたのが、マニカのことだと分かったからだ。


「でも、何か駄目な部分があるんでしょ?」


 セレナがそう訊いてくる。


「うん、昨日の授業で習ったでしょ? 魔力中毒のこと」

「魔力中毒?  それって何か関係があるの?」

「うん。私がやろうとしているのは、魔力線を使って神経を義手と繋げようと思ってるんだけど、色々な処理を考えると、使用者に魔法陣を刻むのが一番だって思ったの」

「なるほど。魔法陣の魔力で、魔力中毒になるって事だね」


 アイリの方が先に気が付いた。セレナもアイリの言葉で納得した。


「だが、それだと、完成しないんじゃないか?」

「うん。だから、少し工夫をしないといけないんだよね」

「工夫?」


 コハクが、首を傾げる。


「うん。まず、魔法陣の中の魔力を抜いて、そこに使用者の魔力を注ぐの。そうすれば、魔力中毒にならないんじゃないかと思うんだ。全体が自分の魔力だけになるから」


 マリーが出した答えに皆の目が点になる。最初に正気を取り戻したのは、アルだった。


「よくそんな方法思いつくな。だが、それは、本当に出来るのか?」

「魔力を抜くことは出来ると思う。でも、それで魔法陣が消える可能性があるんだよね」

「では、同時に行うんですの?」


 リリーがそう訊くと、マリーは頷いた。


「それが一番の方法だと思う。でも……」

「魔力同士の反発かい?」


 マリーの悩みをリンが言い当てる。自分の魔力ならまだしも、自分と他人の魔力を同じ場所に入れるなると、互いに反発し合ってしまう。


「うん、少しずつやっても、多分反発が起こると思うんだよね」

「そうか。じゃあ、やり方の研究もしないといけないんだな」

「うん」

「じゃあ、私が手伝いますわ!」


 リリーが元気よく手を上げる。


「そう? じゃあ、頼もうかな。今日、家に来れる?」

「ええ、大丈夫ですわ!」


 リリーは本当に嬉しそうにしている。


「よし! じゃあ、早速帰ろう!」

「分かりましたわ!」


 マリーとリリーは、教室を飛び出していった。


「あいつらは、本当に元気だな」

「それが良いところではあるんだけどね」


 アルとコハクは苦笑いだ。リンやセレナ、アイリは普通に笑っていた。

 マリー達は、全速力で自宅に戻った。家に帰ると、そのまま工房に入る。マリーとリリーの姉妹での実験が始まる。

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