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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第二章 成長する王女
35/93

お泊まり会

改稿しました(2023年7月18日)

 マリー達と学院の教師達による治療を終えたBクラスの生徒達は、怪我の具合によって、様々な場所に搬送された。

 重傷者は学院付属の病院に、軽傷者は学院にある体育館に臨時ベッドを用意して寝かされている。


「ようやく全部終わったな」


 さすがのアルも疲れたようで、肩を回している。他の皆も慣れない医療の現場に疲れていた。


「マリーさんは、まだやっているのでしょうか?」


 リリーが、心配そうにそう言う。


「怪我人の搬送を手伝っているようだな。剣舞(ソードダンス)の要領で担架を運んでいるらしい」

「ああ、確かに、マリーがやったら何人も同時に運べるからね」


 マリーは、全ての人の治療を終えた後に、担架に剣と同じ魔法陣を一時的に刻んで、体育館に運んでいた。魔力は回復していたので、カーリーからの許可も出ている。

 全員の搬送が完了して、ようやくマリーが皆の元に戻ってきた。


「ただいま。ようやく搬送も終わったよ……」

「お疲れ様ですわ。お水をどうぞ」


 リリーが、水の入ったコップをマリーに渡す。


「ありがとう」


 マリーは、コップを受け取り、喉を潤す。


「こうしてみると、皆、血だらけだね」


 マリーは皆の姿を見てそう言う。皆、重傷者を治療したときに、服に血が付着してしまっていた。その結果、怪我をしてないのに血だらけの服装になっていた。


「そうだね。洗って落ちるといいけど」


 リンも自分の格好を見てそう言う。そこに、カーリーがバケツを二つ持って来た。


「全員いるね?」

「うん。でも、そのバケツ何?」

「洗剤さね」


 カーリーはそう言って、皆にバケツの中身を掛けた。


「ぶっ」

「うわっ」

「きゃっ」


 皆、びしょ濡れの状態になった。服が身体に張り付いて、身体のラインが丸わかりになってしまう。


「恥ずかしい……」

「うぅ……」


 アイリやリリーは、身体を隠すため、腕で覆うようにする。


「お母さん、何すんの? びしょ濡れだよ」

「いいから、マリーを中心に集まりな」


 カーリーの指示で皆が集まる。


「『乾燥(ドライ)』」


 カーリーは、魔法でマリー達の服を乾かしていく。


「これで洗い流せたよ。血の汚れは取れにくいからね。特製の洗剤をぶっかけたのさね」

「ありがとうございます、カーリー殿」

「カストルの坊ちゃんは、本当に動じないねぇ。本当にマリーと同い年なのか怪しくなるよ。そうだ、マリー、コハク。私は学院に泊まって、怪我人の急変に備えるから、しばらく帰れないさね。二人で……」


 カーリーは、そこまで言ってから少し考える。


「いや、どうせだから、姫さんやクリストンの双子も泊まるといいさね。たまには同い年同士、仲を深めな」

「いいの?」

「ああ、食事は手分けして用意するんだよ」

「うん! リリー達もいい?」


 マリーは、リリー、セレナ、アイリのいる方を見て訊く。


「ええ! 喜んでお受けいたしますわ!」

「お泊まりだ!」

「楽しみ!」


 こうして急遽、女子のお泊まり会が決まったのだった。マリー達は、凄く浮かれている。


「マリー達の心のケアといったところですか?」


 集まってはしゃいでいるマリー達をよそにアルが、カーリーにそう訊いた。


「さぁ、何のことかね?」


 カーリーは、とぼけて学院の中に戻っていった。


「カーリー先生は、優しい人だね」

「ああ、マリー達は気付いていないようだがな」

「医療の現場で精神的に参ることもあるからね。少しでも癒しを与えようとしているのは、傍から見れば分かるよ。ただ、当の本人からすると、意外に気付かないものだね」


 アルとリンが話していたとおり、カーリーは、マリー達の事を考えて、お泊まり会を提案していたのだった。ただ、マリー達は、本当に何も気付いていなかった。


「皆さ~ん!」


 マリー達が、はしゃいでいると、カレナが走ってきた。血まみれの白衣を着て……


「わっ! びっくりした。先生かぁ」


 遠くから血まみれの人が走ってきたため、マリーは、びっくりして飛び上がってしまった。


「あっ、ごめんなさい。着替えてくれば良かったですね。そんなことより、今日の授業は終わりになります。家に帰り、ゆっくり休んでください。私は、着替えやらなんやらがありますから、もう行きますね。皆さん、今日は手伝って頂きありがとうございました」


 そう言って、カレナは走って学院の方に戻っていった。


「じゃあ、準備して家に帰ろう!」


 マリーの号令で、女子達が動き始めた。アル達も教室に荷物を取りに向かう。そして教室で別れて、マリー達は自宅へ帰った。


「お邪魔しますわ」

「お邪魔しま~す」

「お邪魔します」


 マリー達は、自宅に着くと、まずマリーの部屋に集まった。カーリーが持っているこの屋敷は、かなり大きい屋敷だ。そのため、マリーやコハクの部屋も教室以上の大きさがある。


「マリーの部屋大きい……」


 セレナが呆然と呟く。この前来たときは、奥にある秘密の部屋にだけ入ったため、マリーの部屋は知らないのだ。


「本当にね。今でも慣れないもの。一番の問題はベッドも大きすぎるってところなんだよね」


 マリーの部屋にあるベッドは、キングサイズよりも大きい。頑張れば、人が四人ほど寝られるくらいの大きさがある。


「本当だ。マリーちゃん、こんなにいいベッドで寝てるんだね。ふかふかだぁ」

「コハクも同じベッドだよ」

「おかげで快眠!」


 コハクが、にっこりと笑いながら言う。


「私の王城にある部屋も、このくらいの大きさがありますわ」


 リリーの言葉に庶民代表であるセレナ、アイリが愕然とする。


「リリーって、本当にお姫様だったんだね」


 セレナが絞り出した答えはそれだけだった。アイリの方は言葉も出せない。


「し、失礼ではありませんの!?  私だって、王族に名を連ねているのですよ!」


 リリーが、胸を張って言う。


「でも、暮らしは庶民っぽいよね」

「うん。洗剤も少しケチりながら使ってたもん。後、古くなったタオルを、雑巾に縫い直してたよね」

「ちょっ!? それは、秘密ですのよ!」


 まさかの事実に、マリーとコハクが驚く。少し別の理由で……


「何で、そんな事知ってるの?」

「そっちに驚くよ」

「あれ、言ってなかったっけ? 私達、寮は同じ部屋なんだよ」

「正確には、共同部屋で繋がってるって感じだけどね」


 リリー達の住んでいる寮は、三部屋が繋がっている間取りをしている。真ん中の部屋が共同部屋で、左右にそれぞれの部屋がある。リリーは、一人で使っているが、セレナとアイリは同じ部屋を使っている。


「そうなんだ。楽しそう」

「というより、王族と同じ部屋なんて良く出来たね」


 マリーは純粋に、楽しそうだなぁと感じただけだったが、コハクの方は、王族と庶民が同じ部屋を使えるというのに違和感を覚えた。


「学院は、貴族と庶民に違いは無いっていうことを教えようとしているからね。私達は、いい見本なんだよ」


 セレナが胸を張って答える。


「へぇ~、同じように胸を張っても、こんなに差が出るんだね」

「今、何処を見てそう言ったの!?」


 マリーが思わず言ってしまった事に、反応したセレナがマリーに飛びかかる。ちょうど後ろにベッドがあったため、ベッドの上で組み付かれてしまっている。


「そんな事を言う奴は、こうだ!!」

「あっははは、はっはは、はははははっははは」


 セレナは、マリーに馬乗りになってくすぐり始める。マリーとセレナがじゃれ合っているところを、コハク達は少し離れたテーブルから見ている。


「羨ましい……」

「「え!?」」


 リリーが呟いた言葉に、コハクとアイリが驚く。


 ────────────────────────


 そんなこんなで、夕食を作る時間になった。


「リリーって、ご飯作れるの?」

「ふふふ、この学院生活で覚え始めましたのよ。ご飯は炊けるようになりましたわ!」

「じゃあ、リリーには……おかず作りを手伝って貰おうかな」

「えっ!?」


 リリーは、マリーに言われたことに驚いた。


「あの……おかず作りは、自信が無いのですが……」

「だから、練習も込めてやってみたらいいじゃん!」


 マリーは、いくつか簡単なおかずを教えようとしていたのだ。そんなマリーの心遣いに、リリーは感動してしまう。


「ありがとうございますわ! お姉様!」

「むむ……まぁいいか」


 マリーは、お姉様呼びについてもの申そうとしたが、リリーの眼の輝きに言うことをやめた。


「じゃあ、野菜炒めと卵焼きとハンバーグ作ってみようか」

「はいですわ!」


 マリーとリリーでご飯作りを始める。色々なハプニングがあったが、何とか食べることが出来るご飯が完成した。ちなみに、コハクとセレナ、アイリは、料理を二人に任せて掃除などをしていた。

 せっかくだから姉妹での時間を作ってあげようと思ってのことだった。コハク達が食堂に行くと、少し不格好なおかずが並んでいる。


「うう、不格好ですみませんわ」

「頑張って作ったんだから、問題なし。味見もしたから大丈夫だよ。途中で、塩と砂糖を間違えそうになったり、ハンバーグが爆発しかけたりしたけどね……」

「じゃあ、早速食べよう。いただきます」

『いただきます!』


 皆が揃ったところで、食事を始める。


「美味しい!」

「うん、少し形が悪いだけで味は凄く美味しいよ!」

「びっくりだね。リリーちゃん、初めて作ったの?」


 コハク、セレナ、アイリがご飯を食べて立て続けてそう言った。


「お姉様がいてくれたおかげですわ!」

「リリーも頑張ったからね」


 それから、皆で談笑した後に、お風呂に入ることになった。それも皆で一斉にだ。


「皆で入れるの?」


 アイリの疑問も最もだった。普通の住宅は入れて、二人までだろう。


「入れるよ。温泉施設くらいの大きさがあるから」

「何で、そんな大きさがあるの……」


 セレナも驚きすぎて、勢いよくツッコむことも出来ない。


「お母さんが広い方がいいんじゃないかって事で、広くしたんだって」

「しかも、温泉を引いてるから、ちゃんと効能もあるよ」


 マリーとコハクが自慢げに言うが、リリー達は、顔を引きつらせていた。


「色々規格外の屋敷ですわ」

「さすがは大賢者様」

「羨ましい」


 脱衣所で服を脱いだマリー達は、お風呂場に入っていく。


「……旅館としてやっていけるんじゃないの?」

「私もそう思ったよ」


 セレナの感想に、マリーがそう返した。シャワーもいくつかあるので、全員並んで、身体を洗える。


「お姉様。髪を洗って差し上げますわ」

「ええ……さすがに恥ずかしいよ」


 マリーはそう言いながらも、されるがままになっていた。


「柔らかい髪のですわね。きちんと手入れしないとゴワゴワになりますわよ」

「お母さん特製のシャンプーだもん。髪の保湿とか、色々と効能のある優れものだよ」

「そうなんですの? 羨ましいですわ」


 そう言って、マリーの髪の毛を洗い流す。


「じゃあ、次はお背中を洗いますわね」


 マリーが返事をする前に、リリーは洗い始めてしまう。それらが終わると、リリーは自分を洗い始めようとする。


「リリー、私も洗ってあげるよ」

「まぁ! ありがとうございます!」


 リリーも恥ずかしいと感じるかと思いきや、満面の笑みで喜んだ。マリーは、予想外の反応に少し面を食らったが、すぐに笑顔になってリリーの髪の毛を洗い始める。

 それを、すでに浴槽に浸かっているコハク達が見ていた。


「ああして見ると、本当に仲の良い姉妹だね」

「リリーは、それを実感出来るから、凄く嬉しいだろうね」

「マリーちゃんも、そんな感じになってるしね」


 コハク達が、マリーとリリーについて話していると、洗い終わったマリーとリリーが浴槽に入ってくる。


「何話してるの?」

「仲の良い姉妹が二組もいるなぁって」

「まぁ、お姉様! 私達のことですよ!」


 仲が良いと言われて、リリーは凄く嬉しそうだった。


「私だけ疎外感……」


 コハクがどんよりとしながら言う。マリー達は、コハクに対して何も言えなくなってしまった。コハクが一人っ子なのは事実だからだ。


「えっと、ほら! 帰ったら妹か弟が生まれてるかもよ?」


 マリーが苦し紛れにそう言った。すると、コハクの眼にも生気が宿り始める。


「そうだね! 私は妹がいいなぁ」

「妹は大変だよ……」

「うん、自尊心が傷つけられるかも……」


 コハクの希望に、マリーとセレナがそう言った。


「どういうことですの!? お姉様!?」

「セレナ、私がいつ自尊心を傷つけたの?」


 マリーはリリーに、セレナはアイリに迫られていた。コハクは、その光景を見て、


「妹や弟には、きちんと接していこう」


 そう決心したのだった。

 お風呂から上がると、後は寝るだけになった。さすがに五人同じベッドに寝るのは狭いので、二人と三人で分かれることになった。もちろん、マリーとリリー、コハクとセレナとアイリの組み合わせだ。

 本当は、マリーが


「私は工房で作業するから、二人、二人で寝るといいよ」


 と言ったのだが、


「昨日も徹夜したのですから、今日はきちんと寝ないとだめですわ!」


 とリリーに引っ張って行かれたのだ。カーリーは、このことも考えていたのかもしれない。

 コハクの部屋のベッドに入ったコハク達は、コハクを間に挟んで寝ていた。


「何で、私が真ん中なの?」

「ふふふ、何でだろうね」

「それは、もうすぐ分かるよ」


 コハクの頭には、はてなが浮かんでいる。すると、コハクは左右からぎゅっと詰め寄られた。


「せっかく広いんだから、広く使おうよ」


 コハクはぎゅうぎゅう詰めになったベッドの上でそう言った。


「いいじゃん。せっかくのお泊まりだし」

「友達同士仲良しで寝よ」


 左右からそう言われてしまっては、コハクも何も言えない。


「まぁいいか。おやすみ」

「おやすみ」

「おやすみ」


 コハク達は仲良く並んで就寝した。一方、マリーの部屋では……


「お姉様! 絶対に離しませんよ!」

「むぅ、色々改良したいのに……」

「だめです。ここで一緒に寝るのです!」


 マリーは、ベッドの上で抱きしめられていた。


「ここで抱き枕になって貰います!」

「私を窒息させるつもりか!」


 マリーは、少し藻掻いて隙間を作る。だが、それでも自分にはないものを押しつけられている事は変わらなかった。


「母親が違うと、こんなに変わるものなのかな」


 腹いせだろうか、マリーは遠慮無しに触る。


「あの、そんなに触られると、恥ずかしいのですけど」

「普段何を食べてるの?」

「なんでしょう? あまり、変わったものは食べてませんわ」

「そんな馬鹿な……毎日牛乳を飲んでも成長しないのに……」

「牛乳を飲んでいますの?  私はあの匂いが苦手ですわ」

「何!? 牛乳を飲んでないのに、こんなものを装備しているのか! ずるい!」

「そんなことありませんわ。お姉様もこれから成長しますわ」

「むぅ……」


 マリーは、いろんなショックを受ける。最後に、マリーは、リリーの胸に顔を埋めて、意識を失った。


「お姉様?」


 マリーの寝息しか聞こえない。徹夜をして、医療現場で働いて、完全に疲れ切っていた。そして、リリーに抱きしめられて、癒やされてしまい、すぐに寝てしまったのだ。


「おやすみなさい、お姉様」


 リリーもマリーを抱きしめて眠りに入った。その夜、マリーは、いつもより快眠だったという。

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