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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第二章 成長する王女

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魔力中毒

改稿しました(2023年7月18日)

 設計図の見直しなどをして時間を潰したマリーは、制服に着替えて食堂に向かった。そこには、すでにカーリーに姿があった。今日のご飯の当番はカーリーなので、当然と言えば当然だろう。


「おはよう、お母さん」

「おはよう……と言っていいのかね。マリーは、一睡もしていないだろう?」

「うぐっ! 気付いてたの?」

「マリーの工房から明かりが漏れていたからね」


 マリーは、気まずい顔をする。


「マリー、何かを作っているようだけど、うまくいっているのかい?」

「えっと、ちょっと難しい部分があって、お母さんの書斎を覗こうと思っていたんだけど」

「朝になっていたと言うことだね。全く、夢中になると直ぐに時間を忘れるのは、マリーの悪いところさね」

「はーい。気をつけまーす」


 カーリーは、ため息をついて首を振る。


「マリーは、早くご飯を食べな。そうすれば、コハクと一緒に学院に行くまでに、少し時間が出来るだろう?」

「!! うん! わかった!」


 マリーは、カーリーが用意したご飯に飛びついて食べていく。そんなマリーの姿を、カーリーは少し口角を上げながら見ていた。


(私の若い頃にそっくりだね。目の前の事に集中しすぎてしまう。それで時間を忘れて徹夜なんて当たり前。血は繋がって無くても、私に似ている。こんなに嬉しい事は、そんなにないさね)


「ご馳走様! じゃあ、書斎に行ってくるね!」


 マリーは、食器を調理場にある流し場に置いて、書斎に走って行く。


「忙しない子だねぇ」


 マリーは、食堂を出るとすぐに書斎に入った。


「初めて入るけど、どんな感じなんだろう。一面本棚ばかりなのかな」


 マリーが入った書斎は、マリーの予想の斜め上だった。


「嘘……」


 マリーが見たものは、一面に並ぶ無数の本棚だった。


「部屋の大きさと屋敷の大きさが合ってないんだけど。また、空間を弄ってるの? だとしたら、これも魔道具の一種なのかな。いろいろ気になるけど、取り敢えず、探してみよう」


 マリーは、自分が求める事が載っている本を探す。しかし、闇雲に探しても、その影すら掴めないだろう。


「何か、探す方法は無いのかな?」


 マリーは、本棚の本を一つ一つ見ながら呟く。


「『魔道具の基礎』『魔法陣一覧』『禁忌の魔法』『呪いの解呪』『祝福の効果』『人体の組成』『人に刻む魔法陣』『死後の世界』『操屍術』……やばい内容が、時々混ざってるんだけど……」


 マリーは、今見ている本棚からいくつかの本を取り出して、備え付けられている机に向かう。


「『人に魔法陣を刻む際に気を付けることは魔力中毒。刻んだ魔法陣の魔力が、身体に浸透していくことで起こる。その魔力は、身体を先端から蝕んでいき、最終的に腐り落ちてしまう。これを解決する方法は確立されていない』か。じゃあ、専用の魔道具を作るしか方法は無いって事なのか。魔力中毒……これって結局、他人の魔力でやるからなるのかな? 自分で自分に刻む分には大丈夫とか? そうだよ。だって、自分の魔力で魔力中毒になるっていうのなら、全員魔力中毒になってないとおかしいし」


 マリーは、他にも人体に関する書籍を読み続ける。四冊ほど読んだ段階で、カーリーが呼びに来た。


「マリー、時間になったよ。早く学院に行くさね」

「はーい」

「ヒントはあったかい?」

「う~ん、微妙かな。でも、一つの選択肢が消えたから、考えるべきものが、はっきりしてきたよ」

「そうかい、よかったね」


 カーリーは、マリーの頭を撫でる。


「マリー、行くよ~!」

「分かった! じゃあ、行ってきま~す!」

「いってらっしゃい」


 カーリーは、二人を見送る。


「さて、私も準備して行くとするかね」


 カーリーも学院に行く準備をする。カーリーは、担任を持っているわけではないので、そこまで早く出勤する必要が無い。授業に間に合いさえすれば、問題ないのだ。


 家を出たマリーとコハクは、学院の教室に着いた。


「おはよう、アルくん」

「おはよう、アルさん」

「おはよう、マリー、コハク。マリーは、なんだか眠そうだな」


 朝の教室には、まだアルしかいなかった。


「徹夜したからね!」

「威張る事じゃないでしょ」


 そう言われて、コハクに小突かれる。


「完成したのか?」

「ううん。少し躓いてる。本体の試作は、出来てるんだけど、肝心の装備方法がね。色々考えないといけなくて」

「なるほど、まぁ、頑張れ」

「うん。ありがとう」


 マリーは、笑顔で答える。そんな二人を、ニヤニヤしながらコハクが見ていた。すると、教室の扉が開いて人が入ってきた。


「おはようございますわ」

「おはよう!」

「おはよう」


 リリー、セレナ、アイリが来たのだ。


「おはよう、三人とも」

「何の話をしてたの?」


 セレナが荷物を置いて、マリー達の方に来る。続いて、リリー、アイリも集まってくる。


「マリーの新作魔道具の進捗についてだな」

「へぇ、完成したの? たった一日で」

「ううん。試作品が出来ただけ。まだ、使える段階じゃないよ」

「それで、そんなに眠そうなんですのね」


 アルだけで無く、リリーにも寝不足ということがバレた。じっと見られるマリーは、すぅっと眼を逸らす。


「睡眠不足は、お肌に悪いですのよ! せっかく可愛いお顔をしていますのに!」

「いつも徹夜しているわけじゃ無いよ。偶々だよ、偶々」


 マリーが頬を膨らましてそう言うと、


「絶対偶々じゃないと思う」

「私もそう思う」


 と、セレナとアイリに突っ込まれる


「皆がいじめてくるよぉ」


 マリーが、コハクにすがる。


「事実でしょ。時々、工房に明かりがつきっぱなしなの見てるよ」

「それは、工房で寝ているときでしょ!」

「まず、工房で寝ちゃだめでしょ……」


 マリーは、コハクにまで突っ込まれる。皆から総攻撃を受けたマリーは、肩を落とす。


「おはよう。マリーさんが落ち込んでるけど、何かあったのかい?」


 マリーの味方がいなくなったタイミングで、リンがやって来た。


「リンくん、皆がいじめてくるんだよぉ」

「甘やかすなよ、リン。全面的にマリーが悪い」


 マリーがリンを味方に付けようとすると、すぐさま、アルが止めた。


「あはは、これは、マリーさんが劣勢だね。何をやらかしたのやら」

「徹夜して一睡もしてないだけだよ」

「それは、庇いきれないね」

「えぇ~!」


 事情を聞くと、リンもマリー側では無くアル達側についたのだった。そんな感じで、いつも通りの賑やかな教室となっていた。


「は~い。皆さん、席に着いてください。そろそろチャイムが鳴りますよ」


 そう言いながら、カレナが教室に入ってきた。そのタイミングでチャイムが鳴り始める。マリー達は、自分の席に座るために動き出す。


「はい、皆さん揃っていますね。では、今日の授業を始めますよ。今日からは、新しい所に入ります。それは、魔法の人体への影響です」


 少し眠気に負けそうになっていたマリーは、一気に目が覚める。


「これは、攻撃魔法を受けるとどうなるのかというものではありません。むしろ、その後の話になります。魔法を受けた後の後遺症といったところです。これは、教科書には載っていませんので、適宜メモを取ってくださいね」


 カレナは、時折、教科書以外の内容を授業でやる。そして、それらは全く意味の無いものでは無く、マリー達が、今後役に立つ情報や考えないといけないことが多かった。


「魔法で受けた傷は、すぐに処置を施してもらうのが常識になります。何故、このようになったかわかる人はいますか?」

「はい」


 マリーが手を上げる。


「はい、マリーさん」

「魔力中毒になるからです」

「はい、正解です。よく分かりましたね」


 マリーが知っていた理由は、朝、書斎で見た書籍のおかげだ。あの書籍には、魔法陣を刻んだらこうなったと書いてあったが、マリーは、魔法を受ければ同様の事が起こると思ったのだ。


「魔力中毒というのは、体内に高濃度の魔力あるいは、他者の魔力が溜まる事で起こるものです。初期症状は、魔力が動かしづらいや魔力がつっかえるといった症状になります。ですが、症状が進行していくと、段々と魔法が使えなくなり、身体の一部が動かなくなり、腐り落ちてしまいます。何故そうなってしまうのかは、未だに解明されていません。もしかしたら、魔力と同時に血流も滞ってしまうなんて事があるのかもしれませんね」


 ここで、セレナが手を上げる。


「はい。セレナさん」

「治療法はないんですか?」

「良い質問です。初期症状であれば、治療出来ます。体内の魔力を放出していけばいいのです。そうすると、体内の魔力濃度は下がりますし、それに載って、他者の魔力も抜け出します。基本的な治療方法は、これですね」


 ここで次にアイリが手を上げた。


「あの、回復魔法は大丈夫なのでしょうか?」

「それも良い質問ですね。回復魔法を使うことで、魔力中毒になったという例は、今の所ありません。回復魔法は、基本的に自己治癒能力の上昇が基礎になっています。それを行うために、魔力自体を、その人に合った形へと変質させているのかもしれませんね。魔法には、まだ解明出来ていない事がありますので、ハッキリとしたことが言えないのが申し訳ないです」


 回復魔法の自己治癒能力の上昇は、対象の身体に働きかけている。そのため魔力が入り込んでいるのだが、魔力中毒になった者はいない。カレナは、これを回復魔法に、他者の魔力に合わせて変異するという効果があるからだろうと予想していた。実際に、そのような効果があるのかは、解明されていない。


「では、次に魔力中毒になる例をご紹介します。まずは、相手から魔法による攻撃を受けた際です。ただ、一度二度受けただけでは、魔力中毒にはなりません。何度も魔法による攻撃を受け続ける事でなってしまいます。なので、基本的に、魔法使いとの戦闘後は治療を受けるか、自分で魔力を発散させる必要があります。ここの闘技場で戦う分には、魔力中毒にはなりませんので、ご安心下さい」


 闘技場に張られている結界の一部には、肉体的ダメージを精神的ダメージに変えるものがある。その結果、魔力が体内に残るという事がないのだ。


「次に、高濃度の魔力が体内に回った場合ですね。この高濃度の魔力に関してですが、自分の魔力でも同じです。問題は、どこからが高濃度になるのかですが、皆さんは、魔闘術というものをご存知でしょうか?」


 カレナの確認に、マリーだけが頷いた。他の皆は知らないようだった。


「マリーさんだけは、ご存知のようですね。身体の一部に魔力を集める事で、威力を底上げするものですね。ですが、その際に高濃度の魔力を集める事になりますので、魔力中毒の注意が必要です。これを教わる際には、使い過ぎないように注意がされるはずです。マリーさんも、注意を受けたのでは?」

「はい。使い過ぎるなと言われています」

「その理由の一つが、この魔力中毒です。少し心配になるかもしれませんが、身体能力を強化する際に魔力を循環させる分には、魔力中毒になる可能性は低いです。注目しないといけないのは、高濃度という部分です。大規模魔法を使っても、魔力中毒になる可能性はあります。アルゲートくんとリンガルくんの魔剣術や魔弓術も同じように大規模魔法に入りますが、あれは剣や弓に魔力が流れているため、魔力中毒になる恐れはありません」


 ここで、マリーが手を上げた。


「森での戦闘で、先生は大規模魔法を連発していましたよね? 大丈夫なんですか?」

「私は大丈夫ですね。そもそも保有している魔力が、普通の人よりも高濃度なので、魔力中毒になる基準値が、さらに高いんです。なので、あのくらいの魔法なら連発する事も出来ます」


 カレナの解説に、マリー達は唖然とする。そんな状態のマリー達を正気に戻すために、一度手を叩く。


「はい。続きをやりますよ。この魔力中毒ですが、皆さんがなることは、あまりないかもしれません。ですが、万が一のために教えました。これから先、戦争などが起こった場合、学生の皆さんは、徴兵される可能性が高いです。今日教えたことは、その最中に役に立つでしょう。さて、ちょうど時間になるので、ここで一時間目の授業を終わります。次は、教科書の内容をやるので、忘れないようにしてくださいね」


 そう言って、カレナが出て行ったと同時にチャイムが鳴った。マリー達は、ノートを片付けて、次の授業の準備をする。その中で、マリーは、先程の授業を思い返していた。


(やっぱり、あの本に書いてあった通りの事だった。でも、あれよりも詳しかったかな。古そうな本だったし、仕方ないのかな。でも、これで、人に直接魔法陣を刻むのは、絶対だめだって分かった。私の魔力で、その人を汚染してしまうかもしれない。それに、魔法線で繋ぐ方法も、少し危険かもしれない。後で、先生に相談してみるのもいいかも)


 マリーが真剣に考え事をしていると、皆は、それを察して声を掛ける事は無かった。

 その後の授業で、上の空になっていたマリーは、授業を担当していたカーリーに、雷を落とされるのだった。

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