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捨てられた王女は魔道具職人を目指す  作者: 月輪林檎
第二章 成長する王女
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アルとの買い物

改稿しました(2023年7月18日)

 マリーとアルは、商店通りを歩いていた。マリーが駆けていくのをアルが止め、ゆっくりと歩いているのだ。


「マリー、お前はもっと自覚を持て」

「でも、王都内でそんな事する人いないでしょ?」

「そんな事する輩がいる可能性があるから、カーリー殿が警戒しておけと言っていただろう」


 マリーとアルは、そんな事を話しつつ、ネルロの店に向かっていく。


「それにしても、いったい何を思いついたんだ?」

「私が使う思念魔法って、自分の意志を送って、物を操るでしょ? でも、それは、私の意志での話なんだ。他人の意志がきちんと伝わって動くのか全く分からない。だから、それを試すの」

「それだけなら、触媒屋に行く意味が無いだろう?」


 アルの言うとおり、魔法がきちんと使えるかどうかなら、その辺の木の棒でも試すことは出来る。


「うん。実はもう一つ思いついたんだ。アルくんは、人の筋肉がどうやって動くか知ってる?」

「……いや、知らないな」

「私は、義肢を作るってことで医学書とか、人体の作りとかから調べてたんだ」


 マリーは、何かを作るとき、その何かに関連することを調べるようにしている。これは、カーリーに言われたなどでは無く、自分の考えでやっていることだった。


「意外と難しい内容ばっかりだから、もしかしたら間違いかもしれないけど、脳から出る電気信号で動いているんだって」

「そうなのか。だが、それがいったい何なんだ?」

「うん。だから、筋肉の偽物を作って、その電気信号に反応するようにしてみようかなって思ったんだ」

「それと思念魔法はどう関係するんだ?」


 ここまでの話で、思念魔法のことを出していない。なので、アルは、マリーが思念魔法という案を聞いてこれを思いつく理由が分からなかった。


「この電気信号を拾うのを、思念魔法で出来ないかなって思ったんだ」

「思念魔法で?」

「うん。電気信号が人の意志を運んでいると仮定して、その意志を拾い上げる機構を作るの。そのために必要な材料を買いに行くんだ」

「なるほどな。出来るのか?」

「分からないから、やってみるんだよ。何事も実験からだよ」


 マリーは朗らかに笑ってそう言った。これからやることが楽しみで仕方が無いといった感じだ。アルは、少し呆れながらも、まぁいいかという風に、顔をほころばせる。そして、ネルロの店であるメアリーゼ触媒店に着いた。


「こんにちは!!」

「あら、いらっしゃい。何をお買い求め?」

「えっと、ミスリルの糸と魔鉄の糸、魔鉱石、魔力油、後は、魔ゴムを」

「結構買うわね。魔ゴムは加工前のもの?」

「はい。それでお願いします」


 ネルロが、棚などから、今言った素材を取り出していく。アルは、店の中に置いてある素材を見て回っている。アルも時々ここからものを買っているようだ。何を買っているかは、本人とネルロしか知らないが。


「一応、五キロずつ用意したわ。足りる?」

「はい。ありがとうございます」

「これ、全部運べるのか?」

「あっ」


 マリーの買ったものは、確実にマリー一人で運べる量を超えている。気持ちがはやりすぎて、そこまで考えが回っていなかった。


「手配する?」

「う~ん……アルくん運べる?」

「無理に決まってるだろ」


 マリーがアルに無茶ぶりをするが、即切り捨てられる。


「荷車ならあるわよ」

「いける!?」

「はぁ、それなら出来るかもな」


 アルは観念したらしく、ため息をつきながら了承する。

 マリーが、ネルロに手配をお願いしなかったのは、その分のお金が掛かるためだった。出来る事なら、触媒などのために節約しておきたいと考えていた。


「よし、運び込もう!」


 マリーとアル、ネルロで荷車に荷物を運び込む。


「あなたも大変ね」

「まぁ、言ったら聞かないですし」

「短い付き合いで、そこまで悟るってすごいわね」


 荷車に全て積み込み終わる。


「ありがとうございました。後で、荷車は返しに来ますね」

「それも、俺がなんだろうな」

「まぁ、頑張って。マリーちゃんは、また来てね。何か必要なのはある?」


 ネルロは、ニコニコと笑いながら訊く。自分の稼ぎにも繋がるので、ネルロとしても、マリーの要望は訊いておきたかった。


「じゃあ、赤水晶(レッドクリスタル)を多めにお願いします。水晶のままで」

赤水晶(レッドクリスタル)を水晶のままで? 分かったわ」


 ネウロは、首を傾げたが、すぐに了承した。赤水晶は、加工して使う事が多い。というより、加工しないで使う事などほとんど無い。

 なので、普通は加工したものを買う。マリーのような注文はかなり珍しかった。


「じゃあ、また後で」


 そう言って、マリーと荷車を引くアルが、メアリーゼ触媒店を後にする。


「結構重いな」

「筋トレだね!」

「気軽に言いやがって」


 そんな事を言いつつ、アルは一定の速度で荷車を引き続ける。三十分ほど掛けて、マリーの自宅まで辿り着いた。


「じゃあ、工房まで運ぼう」


 マリー達は、荷物を工房まで運んでいく。


「コハクが帰っていると思ってたのに」


 マリーは、コハクにも手伝って貰おうと思っていたのだが、留守という事で、マリー達だけで運ぶ。


「まだ、あそこで喋っているのかもな」


 全部運び終わった後、マリー達は荷車をネルロの所まで返しに向かった。


「ねえ、私は荷車に乗って良かったの?」

「乗りたいと言ったのは、お前の方だろ?」

「冗談で言ったから、まさか了承されるとは思わなかったんだよ」


 今、マリーは荷車の上におり、それをアルが引いている状態だ。周りから温かい眼で見られているが、マリーは気が付いていなかった。


「それにしても、よく義肢なんて思いついたな」

「う~ん、そうかな? 王都って、意外と義肢を付けている人多いんだよ。その人達は、動きがぎこちないから、よく分かるんだ。今も、あっちの通りのお兄さんの脚が義足だよ」


 マリーの言葉に反応して、アルが、そちらを軽く見る。そこには、一見普通に歩いているように見えるが、本当に少しだけ脚を引きずっている。


「確かに、少し歩き辛そうだな」

「でしょ。それに、腕を失ったら、職業の選択肢が、格段に減っちゃうし」


 王都でもグランハーバーでも同じだが、猟師にせよ、製造業にせよ、手を使った職が多くなる。そのため、腕を失った人は、職業の選択肢がほとんど無くなってしまうのだ。

 一応、義手の製造はされているが、ただ握ったり出来るだけで、細かい作業ができない。


「そこで、自分の意思で自由に動かせる義肢を作ろうと思ったわけか」

「うん。それがあるだけで、今までの生活が一変するでしょ。魔道具は、皆の幸せのためにもならなきゃだから」

「にも?」


 アルは、マリーの発言のある部分が気になった。マリーは、「幸せのために」ではなく、「幸せのためにも」と言った。そこに引っ掛かったのだ。


「うん。私は、私が作りたい物を作る。これは譲れないよ」

「作りたくないものは、作らないって事か?」

「その人に本当に必要なら作るけど、正直、戦争のための道具とかは作りたくないかな」


 マリーは、争いの為の道具を作りたくないと言う。


「暮らしを便利にするもの。それが、魔道具のあるべき姿だと思うんだ」

「そうか。その割に、盗聴器とか作ってるんだな。あれは、別種の争いを生むぞ」

「うぐっ……確かにそうだけど、作れそうって思っちゃったから。絶対、売り物にはしないし」

「当たり前だ。そろそろ着くぞ」

「うん」


 マリーは荷車を降りて、アルと並んで歩く。


「ネルロさん、荷車返しに来ましたよ」

「あら、早かったわね。そっちに置いておいて」


 アルが、ネルロの指した方に荷車を留める。


「ところで、マリーちゃんは、あれから何もない?」

「はい、大丈夫ですよ」

「そう、よかったわ。街では、何も噂を聞かないから、問題ないかもだけど気をつけてね」

「はい!」


 ネルロも街の中での情報収集を欠かさなかった。マリーが上客ということもあるが、単純にマリーが心配というのが一番の理由だった。


「では、俺達は失礼します。荷車ありがとうございました」

「また来ますね」


 ネルロは、手を振って送り出す。マリーとアルも手を振って、その場を離れる。


「帰ったら、すぐに作るのか?」

「ううん。まずは図面を引かなきゃ。それに、魔法陣の組み立てもしなきゃだし。作るのは、その後かな。工房に鍛冶場が付いてて、良かったよ」

「同じところにあって、熱くないのか?」

「大丈夫。普段は、火も点いてないから」


 そんな事を話している内に、マリーの家まで着いた。荷車を引いていないので、比較的早く帰る事が出来た。


「送ってくれてありがとう。じゃあ、また学校でね」

「ああ、またな」


 マリーは、アルと別れ、自宅内の工房に向かった。


「まだ帰ってない。今日の当番は、コハクだから、早めに帰ってくると思ったんだけどなぁ」


 工房内に入ったマリーは、まず買った材料の整理をする事にした。

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