真実
改稿しました(2023年7月18日)
マリー達はカーリーと共に、マリーの自宅に向かった。学院内では、どこで話を聞かれているか分からないからだ。
「さぁ、入っとくれ」
皆は、カーリーの指示に従い、家の奥にある隠し扉に入る。そこは、マリー達も入った事の無い部屋だった。
「お母さん、ここは?」
「内緒話をするための部屋さね。まさか、こんなに早く使う事になるとは思わなかったけどねぇ」
カーリーは、家を盗聴される可能性を考慮して、誰にも盗聴されない部屋を作っていた。
「どうやって対策してるの?」
「簡単さね。この部屋だけ、元の空間からずらしているんだよ。だから、外からの干渉が来ないんさね」
「でも、私達は普通に入れてるよ。条件起動なの?」
「そうさね。部屋の扉が開いていれば解除、閉まっていれば発動さね」
「じゃあ、部屋自体に魔法陣が張ってあるんだね。でも、何処にも見えないよ?」
「ふふ、隠蔽も張ってあるからね。マリーの魔力視じゃ、まだ見る事は出来ないよ」
「むぅ、精進します」
マリーとカーリーの会話に誰も入っていけなかった。カーリーの異次元の魔道具に驚きすぎているのだ。
「空間をずらすって使い切りの魔法巻物でも、使えない大魔法だぞ」
「それを、永続の魔道具として使用しているなんてね。さすがは、大賢者様と言うべきだね」
アルとリンの二人は、カーリーの技量にひたすら感嘆していた。
「こんな部屋、お城にもありませんわ」
「お城以上の安全性ってことだね」
「それって、どうなんだろうね」
リリー、セレナ、アイリは、こんな部屋が一民家にあることに驚いている。
「すごい密度の魔法陣。どんな手法を使えば、こんな密度で互いに干渉しないの?」
「考えても無駄ね。貴方の頭で分からないんなら、大賢者様しか分からないから」
カレナとネルロの魔力視には、カーリーが、この部屋に施した魔法陣が見えていた。互いに理解しようとして、無理だと諦めた。
コハクは、こんなことは慣れっこなので、特に反応しなかった。マリーと一緒に、すでに席に着いている。
「さぁ、あんた達も席に座りな」
カーリーに促され、アル達も席に着く。長方形のテーブルの四辺にソファが置かれている。その一番奥にカーリー。右の辺に、マリー、アル、コハク、リン。左の辺に、リリー、セレナ、アイリ、カレナ、ネルロが座っている。
「まず、ここにいる者達には、ここで聞いた事の口外を禁じるよ。いいね?」
全員が無言で頷く。カーリーの口調は優しかったが、その目の圧は、かなりのものだった。この禁を破れば、悲惨な目に遭うことになると自覚してしまう程に。
「じゃあ、始めようか。まず、話しておくべき事の一つは、マリーの本当の親についてさね」
マリーが顔を俯かせる。あまり聞かれたくない事だからだ。
「マリーの本当の親は……この国の国王アルバナム・トル・サリドニアさね」
コハクとアル以外の全員が驚愕する。このことは、アルの予測に当てはまっていたのだ。リリーは、顔を青ざめさせていた。
「それは……私と同じ庶子と言う事ですの?」
リリーは、青ざめたまま問いかけた。
「いいや、正真正銘、国王と王妃との子供さね」
リリーは、さらに顔が青ざめる。
「じゃあ、マリーさんは、私の腹違いの姉という事ですの?」
「そうさね。お姫さんの誕生日は、マリーよりも後だからね」
リリーは、泣きそうな表情で、マリーを見た。マリーは、リリーと眼を合わせる事が出来ない。そもそも合わせたとしても、どんな顔をしていいか分からなかった。
「続けるよ。マリーは、その国王に捨てられ、森に放置されていたのを、私が保護し、娘にしたのさね。そのまま過ごせれば、良かったけど、この国の決まりで学院に通う事になってね。入学式の時に、国王に気付かれたのさね。その時、少し口論になったのは、知っている者なら知っているだろう。その時に聞いた事だが、あの愚王は、マリーに復讐されると思っているのさね。だからこそ、マリーを殺しに来ているのさ」
「そんな事を、お父様がするわけがありません!」
リリーは、国王の無実を訴える。しかし、そんなリリーに、カーリーは首を振る。
「残念だけど、国王の関与は間違いないだろうね。カストルの坊ちゃん、襲撃者は黒ずくめだったかい?」
「ええ、全員が同じ黒い装束を着ていました」
「それは、王の影の部隊だろうね。暗殺を主とした部隊さね。お姫さんには、悪いが、王の無実はないよ」
「そ、そんな……」
リリーは、予想だにしない事実に、顔を俯かせた。
「あの、一つ訊いてもいいですか?」
アイリが、手を上げて発言する。
「ああ、なんさね?」
「なんで、陛下は、マリーちゃんを置いていったのですか?」
それは、皆が気になっていたのだろう。全員の注目を集めた。
「さぁ、そればかりは分からないね。私も王族の内情に詳しいわけじゃないからね」
「そうですか……」
その答えに、アルが辿り着いた。
「もしかして、マリーの髪や眼が原因なのでは?」
「……なるほど。確かに、王族で、赤眼白髪は聞いた事がないからね」
「でも、それだけで置き去りにするものなのですか?」
セレナが訊くと、カーリーは少し考え込んだ。
「そうさね。可能性はあるかもしれないね。この髪と眼を気味が悪いと思えばね。こんなに綺麗で可愛いのに、あのクズ野郎が……!」
カーリーは良い事を言った次の瞬間に、怒りの形相に変わって低い声を出した。その場にいるほぼ全員が、気圧された。
「おっと、すまないね。それで、カレナ。あんたには、学院でのマリーの安全を確保してもらいたいさね」
「なるほど、授業中の護衛という事ですね。任せてください。私の大事な生徒ですから」
「頼もしいね。頑張っておくれ」
カーリーは、カレナからネルロに眼を向ける。
「あんたは、初めて見る顔だね。国王の刺客かい?」
「残念ながら、違いますよ。私は、ネルロ・メアリーゼ。メアリーゼ触媒店を営んでいます」
「なるほど、マリー御用達の触媒店かい。世話になったねぇ。あんたにも、マリーの事を頼みたい」
「はい。出来る事は少ないですが、やってみます」
こうして、マリーの味方は少しだが増えた。
「お姫さん。あんたには酷だと思うが、これからもマリーの友達でいてくれないかい?」
「当たり前です!! マリーさんの友達を辞めるなんてありえません!!」
リリーは、カーリーのお願いに即答で答えた。マリーは、リリーの答えに驚き、リリーを見る。リリーも、マリーが自分を見ている事に気付き、マリーを見て微笑む。
マリーは、そんなリリーを見て涙をこぼす。マリーは、リリーとはもう友達に戻れないと諦めていた。言ってしまえば、王族の恥部であるマリーを疎ましく思うのではと思っていたからだ。
だが、リリーは、一瞬でその考えを蹴っ飛ばした。マリーの友達を辞める事はあり得ないと言ってくれた。それだけで、マリーは、思わず笑顔になってしまう。
「良いの?」
「当たり前です! それともお姉様は、私と友達になりたくはないんですの!?」
「そんなことない! リリーとずっと友達でいたいよ!」
「じゃあ、良いじゃないですの。お姉様と私はずっと、お友達ですのよ!」
リリーは、仁王立ちでマリーを見下ろす。その勢いに、マリーの涙も引っ込んでしまった。
「うん! ずっと友達だよ!」
マリーも立ち上がって宣言する。その様子に、周りの皆が拍手をする。カーリーもにやりと笑っている。
「よかったじゃないか、マリー。こんな良い妹が出来て」
はっはっはっと、カーリーは高らかに笑った。そして、笑い事ではない事実にマリーも気が付いた。
「ちょっと、リリー! お姉様っていうのは、止めて!」
「何でですの? 事実でしょう?」
「い~や~だ!」
そうして、マリーとリリーの口論が始まった。それを、無視しつつ、カーリー達が話を進める。
「ネルロには、街中の情報を提供してもらいたいんだが、出来るかい?」
「ええ、何か危ない情報を得たら、すぐに持っていきますね」
「ああ、頼むよ」
カーリーは、ネルロにもう一つの頼み事をした。その後に、アルの方を向く。
「カストルの坊ちゃんには……何も言う必要ないね」
「はい」
何故か、意思疎通が出来ている二人。カーリーは、次に、リン、セレナ、アイリを見る。
「バルバロットの坊ちゃんと、クリストンの双子も、マリーの事、頼んでも良いかい」
「はい。できる限りを尽くします」
「わかりました。頑張ります!」
「はい! 守れるように頑張ります」
「はっはっは、そんなに気負わなくても良いよ。マリーには、今以上の護身術を叩き込むから」
「へ?」
マリーは、リリーとの口論をしている途中に、嫌な事が聞こえてしまった。
「リリー、少し待っててね。お母さん、どういうこと?」
「これから、襲撃されても大丈夫なようにするのさね。まぁ、やるのは素手での対処だけさね。マリーは、剣が持てないからね」
「うぅ、地獄の日々が復活する~!」
マリーは頭を抱えて唸る。
さっきの、暗い雰囲気は何処に行ったのか。いつの間にか、マリー達の雰囲気は元通りに戻っていた。
「お姉様! ファイトですよ!」
「だから、お姉様は止めて! むずむずする!」
マリーとリリーの口論は、再び始まった。それは、コハクが、夜ご飯を作り終わるまで続いた。実は、話の途中で、コハクはご飯を作りに行っていたのだ。話が長くなるだろうからというコハクの心遣いだった。それに、マリーの秘密は、既に聞いているので、いなくても問題はない。
「ご飯が出来ました」
「ああ、ありがとう、コハク。さぁ、皆、ご飯を食べていっておくれ。せっかく沢山作ったんだ。私達だけでは、残ってしまうからね」
カーリーの願いもあって、皆でご飯を食べた。その頃には、マリーとリリーの口論は決着が付いていた。勝ったのは、マリーだ。
「分かりました。これからも、マリーさんと呼びます」
「はい。じゃあ、決定ね。もう、お姉様って呼ばないでね!」
「それは保証しませんわ」
「なっ!? なんでよ!?」
「せっかくの姉ですもの。甘えたいときくらいあるんですのよ」
「ぐぬぬ」
こういうことを言われると、マリーは強く言えない。実際、妹である事は本当だからだ。ここで容認するしかなくなってしまった。
「そうだ。お姫さん。あんたは、これから城に戻るつもりかい?」
「いいえ、いつも通り寮に行くつもりですが」
「なら、大丈夫さね。城に戻るときは気をつけな。マリーの事について、気付いた事を知られてはいけないよ」
「はい。分かりましたわ」
リリーが、マリーの事に気付くと、国王から口封じに殺される可能性がある。先程までは錯乱していたが、冷静に考えて、この事実を知ってしまえば、自分でも殺される可能性がある事に気付いたのだ。
「では、私達はここで失礼します」
「お世話になりました」
「ご飯美味しかったです。ありがとう、コハクちゃん」
カーリーとセレナ、アイリが、学院の寮に帰っていった。マリー達は、玄関で手を振って送り出す。
「俺達も失礼します」
「お話を聞かせて頂きありがとうございました」
アルとリンも、自分達の家に戻る。
「では、私達も失礼します。マリーさん、コハクさん、また明日、学校でお会いしましょう」
「必要な触媒があったら、いつでも来てね」
カレナとネウロも、自宅に帰っていった。皆を見送ったマリー達は、食堂に戻って、お茶を飲みながらゆっくりしていた。
「マリー、今回の戦いで少し無理をしたね。魔力がまだ乱れているよ。コハクもだ。身体の芯に疲れが残ったままだね」
「うぅ……お母さんは騙せないか」
「はい。休めるときに休んでいなかったからですね」
「コハクは、原因がはっきりしているからいいさね。マリーを守るためだろう?」
「はい」
コハクは、テントの中でも気を常に張っていた。襲撃者がいなくなった後も、寝ながらもマリーに近寄る者に警戒していたのだ。
だからこそ、マリーが魘されている事に気付き、起こそうとしていたのだ。
「マリーは、剣舞だけじゃなく、剣唄も使ったね」
「うん」
「まったく、かなりの無茶をしたね。剣を見してみな」
マリーは、剣舞で剣を操り、ひとつずつテーブルに出していく。
「全体的に消耗が激しいね。これは、『協奏曲』と『幻想曲』を使った感じかね」
「うん」
カーリーは、剣の魔法陣の消耗具合でマリーの使った魔法を見抜いた。マリーの剣唄は、かなり特徴的な魔法なので、カーリーには、消耗具合からある程度判断出来る。
「はぁ、剣の修理は私に任せて、今日の所はもう寝るさね」
「わかった、おやすみ」
「おやすみなさい」
二人は、カーリーを残してそれぞれの部屋に戻る。
そして、二人のいなくなった食堂にて、カーリーはマリーの剣の魔法陣を修理していた。
「全く無茶したね。あのくされ外道は、いつか痛い目に遭わせるとして、これからも忙しくなりそうだね……」
こうして、マリーを狙う国王の最初の攻撃が終わった。結果は、国王の惨敗だ。だが、これで、国王が諦めるのなら、カーリーも警戒などしないだろう。
マリーの夢は、カーリーを越す魔道具職人になる事。その道のりは、まだ始まったばかりだ。




