歓迎会
「歓迎会ですか?」
「うん。新人さんも増えてきたからどうかなって思って」
ニコニコしながら直江が夏希に提案してきた。
「いいとは思うんですけど、私は参加出来るかな…。
もし参加出来ても子連れなら気を遣わせちゃいますよね…」
「夏希さんが良ければ僕は大歓迎だよ。
お子さん連れでもいいし。勿論無理にとは言わないけどね」
優しい眼差しで夏希の返事を直江は待っている。
「うーん。どうしようかな…」
行きたいけど、昨日の良平の態度だと頼みにくいしな…
実家は多分預かってくるないし連れていくのもな…
と夏希が悩んでいると、
「夏希さん。
こいつ歓迎会で酒飲みたいだけだから気にしなくていいよ」
長身の男が話しかけてきた。
「長尾!余計なこと言うなよ。
親睦を深めるための提案じゃん」
直江は長尾に文句を言った。
「夏希さん困ってるしょ。
あんまり無理に誘うとパワハラになるんだよ。
それに子連れで飲み会来たって夏希さんが大変なだけじゃん。
たまにはゆっくり飲みたいよね。
良平は預かってくれない感じ?」
長尾 琢真は夏希と良平の中学の同級生。
また、直江と同じ役職のため夏希の上司でもある。
「うーん。実は昨日良平とちょっとケンカしちゃってね。
今は頼みにくいんだよね。
実家も遅くまでは預かってくれないし…」
「夏希さんと良平ってケンカするんだ!
まぁ夫婦だから色々あるよね」
「まーねー…。正直、許されるなら是非参加したいんだけどね。
もうちょい後に返事してもいい?」
「もちろん大丈夫だよ。
ってか、直江が勝手に言ってるだけだから日程も決まってないし。
どうせやるなら夏希さんが参加しやすそうな日にしようよ」
長尾は優しく笑いながら提案した。
「ありがとう。
それなら、もう少し様子見て返事するね」
「うん。まぁ、あまり無理せずにね」
じゃっと長尾は自分のデスクに戻っていった。
「なんか無理矢理誘ってしまってすいません」
直江が少ししょんぼりしながら言った。
「いえいえ!声を掛けて頂いて嬉しいです。
むしろ、即答出来なくてすいません。
なるべく参加出来るように相談してみますね」
そう言うと直江はまた人懐っこく笑った。
「なんの話してるんですかー?」
夏希と直江の背後から明るい声が聞こえた。
「歓迎会って聞こえたんですけど、
私も参加していいですか?
秋人さんと飲みたーい♡飲みましょうよー♡」
「もちろんだよ。大人数の方が盛り上がると思うし、
美南ちゃんも行こうよ。
直江さんいいですよね?」
「うん。いいけど、小川さん。
新人さんの歓迎会だからね。
あんまり飲み過ぎないようにね」
「私は秋人さんがいるなら何でもいいんで!
チョー楽しみ。決まったら教えてくださいねー」
嬉しそうに美南は席に戻っていった。
「…美南ちゃんって明るくて若くて可愛いですよね。
居てくれるだけで場が盛り上がるから羨ましいな」
「騒がしいだけですよ」
少しうんざりしたように直江は言ったが、
そうは言っても満更ではないんだろなと夏希は思っていた。
直江は、小柄で色白で少し頼りなさそうな印象がある。
しかし、穏やかで優しく顔立ちも整っているので、
意外に女性からの人気は高い。
独身で特定の彼女もいないので、
今は美南からアプローチされているようだ。
「まぁ、歓迎会の日程とかは夏希さんの都合に合わせて決めましょうか。
もし、来れそうな日とか分かったら教えてください。
店とか探しますので」
マネージャーに呼ばれ直江は行ってしまった。
歓迎会…。
そういえば、葵を出産して職場に復帰した時、
私の歓迎会を開いてくれたけど良平に止められて行けなかったんだよな…。
また、モヤモヤとした気持ちが芽生えてきた。
夏希は酒飲みではないが、
元々は職場や友人同士の飲み会は好きなタイプである。
しかし、良平は職場とプライベートは完全に分けるタイプで、
職場の飲み会は基本的には参加しない。
きっと、良平に頼んでも葵を預かってはくれないだろうな…
気付けば大きなため息をついていた。