ちょっと早めのEpilogue3 呪いのようなもの
ところで、極めてどうでもいい話なのだが、世の発達障害者は大雑把に二種類に分けられる。
発達障『害』という言葉を忌み嫌い、発達障『がい』あるいは発達障『碍』という言葉を使う者。
特に頓着なく発達障『害』者と名乗るもの。
呉葉は後者だった。
『害』を『がい』にしたり『碍』にしたところで、本質は何も変わらない。ただの言葉遊びだ。
呉葉は他人から蔑まれる度、あるいは過剰な気遣いを受ける都度、いつも自分にこう言い聞かせてきた。
“──わたしは発達障『害』者だ。それを恥とするものか”──と。
この障害は他者を『害』し、自らをも『害』する──呪いのようなものだ。
「というか、そもそもアタシたちの関係って何なんでしょうね?」
文月さんが素麺を啜りながら聞いてくる。
「……うっ。うーん。運命共同体? みたいな?」
「うーん。なるほどぉ。親友のようでもあり、姉妹のようでもあり、恋人のようでも……」
マイナスからゼロを目指して、歩いてる。二人で。
“共闘している”と言い換えることも出来そうだ。
何と? と聞かれれば──“世の中”と。と答える。キッパリと。
「「うーん」」
二人して顔を見合わせる。
呉葉は手を伸ばして、文月さんの鳶色の髪をそっと梳いた。
「へへ」
彼女の目がキュッと瞑られ、睫毛が微細に震える。
兎に角、必死で生きている。二人で。
それは深く暗い穴から外へ出ようと、崖をよじ登っていくような──そんな行為ともどこか似ていた。
登れば登った分だけ、地上が高くなるような──そんな崖を。
もう片方の手で文月さんの頬に手を伸ばす。
呉葉は初めて就職した会社にいた──痩身のとある男性社員のことを不図思い出した。
石を投げられるようにして、会社を放逐された発達障害者の職員だ。
文月さんが目を開けて、呉葉の眸をまっすぐに見詰める。
相変わらず綺麗な目だ。羨ましいな、と。さらりと思考が垂直に落ちて来た。
文月さんが箸を置き、頬に寄せられた呉葉の手に、自身の手を重ねる。




