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♪♪♪♪ ハッタツショウ害シャノ唄 ♪♪♪♪   作者: 動物の世界で人間らしく
第二章 人に値札でも付いているのか?
13/21

ある日──夕暮れ


 なんだ? いきなり呉葉ちゃんが飛び跳ねて驚いた。なんだろう……? ガッツポーズみたいなのを作ってるし、珍しい。


 薄暗い部屋の中。

 日曜日の夕暮れを背負って、呉葉ちゃんが立っている。



「いいこと思い付いた」

「ん? どうしたの?」


 寝転んでいたアタシも、半身を起こして呉葉ちゃんを見上げる。



 口角だけを上げたような笑み。

 

 うーん。いつも思うんだけど、呉葉ちゃん、笑うの下手だよなぁ。


 ほころんだ口元とは正反対の、死んだような目。

 目の周りの筋肉と、口の周りの筋肉がうまく連携とれてない。



 そんな呉葉ちゃんを見て、アタシもニッと口角を上げてみる。





 ◇




 二人で晩ご飯の買い出しに行く。


 これといった料理がいっさい出来ないアタシたちの手料理は、いつもカレーかお鍋か素麺だ。


 お鍋のときは少し多めに作って、お弁当箱に取り分けて、次の日のお昼ごはんも兼ねることにしている。節約重要。



 今日はいつもより少し遠くのスーパーまで足をのばす。


 

 アパートの階段をトン、ドン、トンとリズム悪く音を立てて降りると、いつもと反対。左の道に進む。



「……そうそう、今日、お菓子たくさん買おうと思って……」

 どこか不安げに瞳を揺らせて、呉葉ちゃんがアタシの顔を覗き込む。


「へぇ。なんで?」



「朝の……あの子たちにプレゼント……? みたいな……」



「あぁ」とアタシはそこで納得する。



「いいねぇ~」と言って呉葉ちゃんの手を取った。






 “なんとか川”とかいう大きな川の土手に出る。


 夕陽を川の向うに見ながら、歩く。


 オレンジと青い紫が入り混じった光が、薄い雲を複雑な色に染めている。


 雲の隙間からは光が伸びて、でもそれは地上まで届くことなく、空の途中で滲んで溶けてる。


“天使のはしご”って言うんだっけ? たまに見るけど、いつ見てもきれい。見飽きることがない。


 この世界は基本、きれいなもので溢れている。




“カキーン!!”


 ぼんやりとそんなことを思っていると、金属質な音とともにびくりと呉葉ちゃんの肩が跳ねた。


 高い金属の音をかき消すような、甲高い子供たちの声が、洪水のようにアタシの耳にも押し寄せる。



 思わず呉葉ちゃんと顔を見合わせて、驚いたような顔を互いに見せ合う。

 目を大きく開いた、呉葉ちゃんの表情は──笑顔よりもずっと自然だ。



 土手の下では、少年野球の男の子たちが、グラウンドの中、土煙を上げながら練習していた。



 大人のコーチがバットでボールを打って、それを子供たちが受け取る練習──ノック? っていうんだっけか?



「凄いよねぇ。よくあんな速いボール、受け取れるよね」


「うん。全然、ボールの動きが目で追えないよ」



「コーチの人もすごいね」


「あんな小さな球を、長いバットで打てるとか」



「うん、うん──────。かきーん!」

 呉葉ちゃんの言葉に頷きながら、繋いだ手を解いてボールを打つ真似をしてみる。



 うーん。ボールを自分で放り投げて、落ちて来たボールをタイミングよくバットで打つ。子供たちがいる方向に。

 地面にバウンドさせたり、フライにしたり、自由自在に打ち分ける……。



 やっぱ健常者ってすごいなあ、と思う。




 そういや毎朝、公園でバスケやってるおニイさんたちも、高校生たちもすごいなぁって改めて思う。




 目の前に白い月が出ていた。ちょうど丸い形をしている。



「かきーん!」


 月をボールに見立てて、打ってみる。



 隣の呉葉ちゃんを見て、へへって笑う。


 呉葉ちゃんがアタシを見て、目尻を少し下げて笑った。

 口元はいつもどおりで、どこか歪な微笑みで。

 不器用に笑う。

 

 



 笑うのがヘタな人は、生きるのもヘタだ。



 なんて思いながら、彼女の手を再び取った。



 その手を大きく振って、スーパーに向かう。




「お菓子、喜んでくれるといいなぁ」呉葉ちゃんが吐息といきをもらすように呟いた。



「大丈夫。みんないい子だから」


 大丈夫、たぶん、あの子たちは照れながら喜ぶ。



 頭の中で、はにかんだような彼らの表情が浮かび上がる。その確信を胸に、アタシは繋いだ手をもう一度大きく前後に振った。 

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