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第1章 第5.5話

コースケ視点。異世界召喚される日の出来事。

旅行機が目的地へ到着した頃、コースケは隣にいるはずの席を見ていた。

そこに居るはずの人物は居なくなっていた事を旅行機が飛んでいる最中に目撃していた。


「何で、兄さんが居ないんだ」


数時間が経過しても戻らず、トイレに行っているのかと思ったがそこに居なかった。

旅行機が出発した時は隣の席に座って外を眺めていた。

俺は無関心の兄に少し苛立ちを感じていた。

昔の兄は稽古を欠かさずに通い、自慢できる兄だった。

俺のある一言で状況が一変してしまった。


『実は俺ピアニストなんだ』


友人達にその発言をした時、背後に近づく兄に気づいていなかった。

ピアニストは兄さんであり、俺はピアノを弾いている姿の兄が好きだった。

あの一言で兄はピアノを弾かなくなった。

その時以来、言葉を交わす数も減っていき家族で旅行が決まった時も何も言ってくれなかった。

俺は今の兄に何を期待しているのか分からなくなっている。

それでも、突然と消えた兄に対して胸がざわつく違和感。


「そうだ、俺は兄に」


その先を言うのを躊躇った、理由は母の姿。

ピアノを辞めた兄に母は酷く絶望と失望をしていた。

跡を継がせるために俺にピアノを習わせようとしていたが、俺にその才は無かった。

姿を消した兄を探す事をしない母に怒りを示そうとするが、直ぐにそれは解ける。

どうすれば良いのだろうか。

次に兄に会う事が出来たら謝りたい。

そう願っていた。


『お待ちしております』


声が聞こえたが、した方向を向いても誰も居ない。

辺りを見渡すがそれらしき人物は居ない。


「コースケ、何をしているの」


母が話しかけてきた。母に微笑み掛けて答える。


「なんでもない」


空港で荷物を受け取り、旅館へと向かった。

兄が居ないのに母は気を留めず普通に過ごしている。

どうして、こうなったんだろう。


「少し外の空気吸ってきます」

「遅くならないようにね」


母が返してくる言葉、兄には掛けない言葉。

どうして比べてしまうのだろうか。

廊下を歩き、玄関まで行き靴へと履き替える。

外へと出て深呼吸する。


「時は満ち足りて」


突然と目の前に人影が現れその言葉を投げる。

俺はこの言葉の瞬間周りを見るが人影は無く、言葉の主はニヤけて光だす。


「ようこそ、おいでなされた。勇者達よ」


大きな声で発言する男性。

俺が立っていた場所は床に何か描かれている。

そこには俺以外の人間も立っていた。

まるで兄さんが読んでいた漫画に出てくる異世界召喚物そのものじゃないのか?

兄さんならワクワクする場面だろうけど、俺はそう思わない。

不安でしか無い。

けど、脳裏にある事が浮かんだ。

旅行機で突然姿を消した兄さん。もし兄さんもこれによって呼び出されたのだとしたら?

同じ世界に居る事を願って、行動するしかない。そう思うのだった。

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