第1章 第4話
シャルルは鼻歌をしながら作業している。
精霊剣を通して魔力を使用して調合の補佐をしている。
どうしてこうなったのかというと…。
家出をして外で魔力操作の練習をするシャルル。
また魔力を消費してグリーンポーションを作り出し、それを委託所で買い取ってもらう。
それで出来たお金でブルーポーションを購入して魔力回復して再び魔力操作に励む。
この一連の出来事に目を向けた人物がいた。
「よかったら家に来ないか」
シャルルに声をかけた女性がいた。その人はシャルルの母シャルロッテの同期であるメリシア。苗字は無く平民出身で調合薬師として薬局で働く人物。
「戻りたくない」
シャルルはこの一言で拒絶。それもそのはず、シャルロッテの友人である事を知っており母に告げ口をするのではと恐れているからだ。
しかしメリシアは首を横に振りこう言った。
「居候として生活してみないか」
少し考えてからシャルルは頷いた。シャルルはメリシアの暮らす薬局に"居場所"と捉えるのだった。自分自身が転生者と明かさず魔法に関する鍛錬や経験を惜しまず出来る環境も必要だと考えていた。
日々が過ぎてある朝、シャルルは早くに起床してしまいメリシアが居ない事に気づく。辺りを見て回っていると紙切れと調合瓶などが置かれていた。
調合方法と予測効能が書かれており、解決策を見つけていない状況と判断したのかシャルルは勝手にその調合を行ってしまう。
失敗もなく、用意された材料のみでやり遂げた。
作り出された醸造は解毒薬、風邪薬、発火薬だ。
扉の開く音が聞こえ、振り返るとそこに立っていたのは男だった。
「何を勝手にしてくれてんだ」
男は直ぐ様駆け寄り、調合された醸造を見ると。
「できてる」
きょろきょろと見て、振り返りシャルルを見ると男は言った。
「ここに二度と入らないでくれ」
と言ってシャルルを追い出そうとする。
奥から「おはよう」と言ってあくびしながら入ってくるメリシア。
何なんだこいつはと男はメリシアに訴える。
居候させる事になったシャルルと簡単に紹介するメリシアだったが、男は聞いてないと言って尚もシャルルを退けようとする。
「2階に行っててくれる?」
メリシアはシャルルに2階に行っているように指示する。
シャルルはそれに従い、2階へと上がると家具とか何も置かれていない部屋だった。
何をどうすればいいか分からないシャルルはただ考えるしか出来なかった。
考えている内にシャルルの体内にある魔力は膨れ上がり、ざわつく。
遂には魔力暴走が起きてしまうのだった。
マイナス思考で考えてしまい、シャルルはただ抗っていた。
数分経過する頃にメリシア達は異変に気付き2階へと上がると、シャルルの魔力暴走はリミッターも外れている状態だった。
「このままじゃ不味い」
魔力暴走の先に待ち受けるリミッター解除。そしてこれにより引き起こされる爆発は発動者の魔力量に応じて変わる。シャルルの持つ魔力量は桁外れに近く、下手をすれば都市1つ滅ぶ程の魔力量である。
「5歳にしてはこの魔力量は何だ」
男は驚きメリシアに説明を乞う。
シャルロッテとエーデルハイトの息子と説明する。
「まさか王族か」
メリシアは首を横に振った。
「王位継承権は発行されていないってシャルロッテが言ってた。それに彼は…セラフィム族だって聞いたわ」
男は眩暈を感じたかのようにフラりとしたが魔力量に納得行った。
セラフィム族は魔力量がエルフ並に高く、滅びたはずの種族。
正確には行方知れずとされている種族で、存在が隠されている。
男は鑑定眼を使いシャルルのステータスを確認する。
本来、鑑定眼はステータスを見るためには神官クラスまでの階級が必要だが、男はそれ以上の階級を持つ人物だという事である。
「確かにセラフィム族のようだね。そうと知らず私はなんて惨い事を」
何としても魔力暴走を止めなくてはと近づこうとするが見えない壁に阻まれている気がした。
メリシアは魔力操作を外に向けて行使すれば緩和できるのではと予想し実行すると緩和できている気がして透明な壁は無いように感じた。
しかし負担も大きい、暴走で巻き起こっている波風は魔力そのものと言っても過言ではない。
普通の人が触れれば魔力酔いに触れ倒れる所であろうと。
中心であるシャルルに辿り着くと思わずメリシアはシャルルに抱き着く。
メリシアは小声でも届くようにと思いながらシャルルに言った。
「大丈夫だよ、私は此処にいるよ。もう退け者にしないから」
この言葉を繰り返しシャルルに言った。
また数分経過して、徐々に魔力暴走が止んでいった。
暴走が弱くなった瞬間に男が近づき魔法を唱えた。
【魔力拘束】
魔力暴走を止めるための手段として用いられる拘束魔法の一種。
これによりシャルルの魔力暴走は停止するのだった。
そして家族によって封印されていた物も解除されるのである。
幻惑魔法によって人から見れば普通の髪色で普通の瞳の色だった物が、黒髪の銀の瞳になったのだった。
これを見た男は更に驚いた。
この時、メリシアと男は気づいてしまったのだ。シャルルの正体を。
数日が経過し、男はシャルルに謝罪し自身の名を語った。
「私はスヴァルト・ヴェディスン、この度は失礼を致しました」
深く謝罪し、スヴァルトはシャルルが転生者である事を知った事を告げた。
黒髪は異世界の住人がこの世界へ転生した際に継承する物。
また異なる世界から来た者は誰もが多量な魔力を持つ事。
簡単に魔力暴走を起こさせないためにセラフィム族という器を用いる事。
この事については文献で知ったとスヴァルトは報告する。
「また、この事については口外せず陛下にも伝えません」
「ありがとうございます」
これにて一件落着とメリシアはほっとするのだった。




