第1章 第3話
苗字を授かりウキウキしている中、シャルルはある異変に気付く。
真夜中に物音がしたのだ。音がした方向は恐らく食卓の方。
いつもは静かな時間だが、今日は違ったのだ。
ゆっくり近づき扉の前まで行くと話声が聞こえた。
「隠すのが辛いわ、エーデルハイト」
母さんの声だ、会話している相手は父さんか。
「シャルルが11歳を迎えた時に話すと決めたではないか」
何を隠し何を話そうと言うのだろうか。聞いてはいけない話なのか去ろうとした時、ある言葉が耳に入る。
「実の息子ではない、でもずっと息子のように育てて来ました。でも、リーンハルトの苗字を授かったシャルルを見て、真正面からあの子を見るのがとても辛い」
衝撃の事実に立ち眩みが起きたけど、ゆっくり部屋に戻った。
幸い隣の部屋は書庫になっているので、時間がある時に調べてみよう。
次の日、シャルルは稽古の時間が来る前に書庫に入り、調べ物をする事にした。
苗字の意味を記す本と歴史の本などを調べてみよう。
『勇者カーライルと勇姫リデルの物語』
という本を見つけた。これは御伽話とされている本で現実には存在しない。
でも何処か気になり開き読んでいるとそこにある種族について書かれていた。
「耳が少し尖がり、銀色の瞳を持つ者はセラフィム族の特徴と言える。勇姫リデルはそのセラフィム族の娘であり、彼女もまた耳が尖がり銀色の瞳を持つ。世界を救った後勇姫リデルは国にとっては脅威とされ追放される身となりました。セラフィム族は神出鬼没で一体どこに住んでいるのかはっきり分かっていない。今のこの世においてセラフィム族を迫害する対象ではないが、もしこの者を見つけたらどうか知らせて欲しい。彼らに謝罪する機会を与えてほしい―現王エーデルハイト」
エーデルハイト、父さんの名前だ。
栞のように挟んでいる紙が落ちて、拾い上げるとそこには絵のような物が写っていた。
これを見た瞬間に頭に稲妻が走ったように感じた。
「これはフラッシュバックだ」
ふと自分で言った言葉の意味を理解し、そして思い出した。
僕は黒川陽亮だと。
でも名前を思い出した所で何の意味も持たない。転生前の記憶は一部蘇ったが一体何処に役立つのだろうか。
ただゲームしていただけの毎日を誇れる物なんて物はない。
待てよ。そういえば、手鏡持ってたよな。
確認してみると、自分自身は耳が尖がり、銀色の瞳がある。
セラフィム族の特徴である証。そして飛行機に乗っている時に考えたアバターそのものだ。
魔法の技術と能力を極めようと決心する。
でももし同胞が居るのであれば、会ってみたい。
そんな事を思いながらもシャルルは日々魔法の鍛錬とエーデルハイトから剣の稽古を付けて貰っている。御伽話の内容を打ち明けずひたすら鍛錬を続ける。
こっそり夜に出かけては魔法の発動練習。
風の十字射り(ウインドブラスト)、火炎爆撃を出来るように練習していた。約2ヵ月で熟練度が最大になり習得する。
習得した帰り遅くなってしまったなと玄関へと向かうとそこにはシャルロッテが待ち構えていた。
「シャルル、一体どこへ行っていたのかしら」
シャルルは身体強化を用いてその場から離脱。今シャルロッテに話ても理解して貰えないだろうから、逃げるしかない。
この日、シャルルは初めて家出したのだった。




