第1章 第1話
「この度は、ご搭乗下さり感謝します。この飛行機はこれより地獄へと案内する」
男の声でアナウンスが鳴り響く。
それと同時にガタンという音が近くで鳴り、直後にギュイーンという音が大きく鳴った。
家族の安否は?と陽亮は隣を見ると洸丞や姉の馨子の姿は無かった。
「あー、それと。適正値に満たした者だけがこの世界へ誘われた事を理解してくれると助かる」
再びアナウンスが流れた。つまりは家族は恐らく無事であり、旅行中なのだろう。
窓から外を覗き込むと他にも飛行機が飛んでいる。
一体何処へ向かっているのか見ていると、だだっ広い浮島があった。
全ての飛行機がそこへと降り立つ。
「降りろ」
最後のアナウンスである言葉がその一言だけ。
陽亮を含む乗客は飛行機から降りる。
そこには2本の角を生やし、2本足で立つ悪魔がいた。
そいつは悪魔獣王と自ら名乗った。
そして下っ端である小悪魔が石を持ってきた。悪魔獣王はこれを鑑定石と言った。
嫌がる人もいる。陽亮は咄嗟に、嫌がっていた女性の前に立ち拒もうとした時「ドス」という音が聞こえた。聞こえた所を見ると、何か刺さっていた。
何も力が出なくなり横に倒れる陽亮。
「おいおい、貴重は素材を殺すなよ」
小悪魔は悪魔獣王にそう呟く。浮島の外へ棄てていけと悪魔獣王は言った。
陽亮は小悪魔によって浮島の外へと放り出される。
この時、陽亮の人生は終わりを告げる。この後、彼らに何が起きるかは分からない。
「暗い、怖い、寒い」
瞼を開けようとしたが開かない。耳元でオギャー、オギャーと泣く声が聞こえる。
これは誰が泣いているのか分からない。
自分が何か揺らされている感覚、でもこの動作は何故か怖くない。
泣いていた声は静まり、寝息を立てている。
「クスクス」
という小さな笑い声が聞こえた気がしたが、気にもならなかった。
何日経過したのか分からないが、遂に瞼が開く時が来たような気がした。
瞼を開けると、そこには見知らぬ女性が立って覗き込んでいた。
「シャルル様がお目覚めになられましたよ、奥様」
シャルルとは僕の事だろうか。頭を動かそうにも満足に動かせない。
眼を横に寄せて見ると、何か柵らしき物が見える。
そして今自分の居る所が少し揺れている。
そうか、僕は「赤ん坊」になっていたのか。何かを思い出そうとするが、何も思い出せない。
自分がここに来る前に何処に居たのか全く思い出せない。
僕は本当にシャルルなのかさえも分からない。
思い出そうとする記憶の中でシャルルであろう人物の記憶だけが呼び出される。
母親のシャルロッテと父親のエーデルハイトの名前も薄っすらと記憶している。
しかし何故、僕は何かを思い出そうとしているのかさえも分からなくなっていった。