森林を抜けて
洞窟から出ると、慣れない不思議な石の光から馴染み深い日の光へと移り変わり薄暗い洞窟から鬱蒼と生い茂る森林の前へ出た。
「どっちを向いても草木ばっかだ…」
この森林をどう抜けようか考えていると二スターが提案した。
「俺を真上に飛ばしたらどうだ?」
「飛ばす?」
二スターの案はこうだ。
二スターの残っている力に“真っ直ぐ飛ぶ”能力と“常時に身体能力を強化する“能力があるらしい。
二スターをその能力で高く飛ばして森林の規模や開けたところ、人の居そうな所を探して貰おうという事
らしい。
僕たちは二スターの案に乗ることにした。
流石に身体能力が強化されているからといっても剣を木より高く上げるのは難しいと思うので、木の上からぶん投げることにした。
一人で気合いで木に登り、ある程度まで高いところに登った所で、下にいる少女に指示した。
「投げて」
少女は頷くと、強化された身体で二スターを思いっ切り投げた。
言った通り真っ直ぐ飛んできた二スターを僕が見事に掴みそのまま二スターをなるべく高くぶん投げた。
二スターは真っ直ぐ飛んで行き、 ある程度の高さまで上がると勢いが無くなり落ちてきた。
木から降り、地面に刺さった二スターを抜いて声をかける。
「見えたか?」
「バッチリ見えたぜ」
二スターが見た情報を教えてくれる。
どうやらこの森林は窪地にあるらしく、出口は洞窟から正反対の方向にあるので、
洞窟を出て、そのまま真っ直ぐに進めば森林を出ることが出来るらしい。
僕たちはなるべく早く人と出会うために森林を突っ切ることにした。
足に絡みつく草を二スターで切りわけながら進む。
だが日が落ちて暗くなってしまい、このまま進むのは危険なので断念した。
来た方向に印を付け、一旦ここで野宿する事にした。
草を切って地面に敷き簡単な寝床を作った。
小さい虫などが全く居ないのが唯一の救いだ。
寝床が出来る頃にはもう辺りは暗くなっていた。
二人は離れて横になり眠りに着いた。
二スターはいつでも手に取れるように僕の横に置いた。
だが、寒さでなかなか寝付けない。
小声で二スターに話しかけた。
「二スター、起きてるか?」
「バッチリ起きているぞ」
寝付くまでしばらく二スターと話をする事にした。
「二スターみたいに剣が喋るのって普通の事なのか?」
「いや、俺は特別だから喋れるんだ。そこらの剣は喋るどころか意思疎通すらできない」
「そうなのか。じゃあ…」
しばらく考えてから聞いた。
「大切な人とかいるのか?」
「ああ、居るぞ」
意外な答えだった。
その時、背中に柔らかく暖かいものを感じた。
「なんだ?」
振り返ると。
少女の顔がすぐ近くにあった。
頭が混乱し、状況を把握するのに時間がかかった。
その状況を理解すると、途端に顔が赤くなった。
「な、な、なんでこっちに!?」
少女に聞くと
「…こうしたほうが温かいから…」
少女が身体を当ててくる。
どうにか離れさせようと説得するが少女は黙ったまま聞く耳を持たなかった。
「二スターからも何か言ってくれ」
だが、二スターからは何の返答も無かった。
仕方なくそのまま寝ようとするが、柔らかい感触がどうしても気になって眠れなかった。
確かに身体は温かくなったが、寝ることはできなかった。
ずっとそわそわしながら夜を過ごした。
少女が目を覚ました所で、歩く事にした。
森林の中を歩いて行くとやがて建物が見えてきた。
建物は大理石で出来ており、神殿を思わせる作りだった。
その建物の周囲には木が一本も生えておらず近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「取り敢えずあの建物に行こう」
少女が頷くのを確認すると建物に向かって歩いた。
建物の周りは木が無いので周囲の見通しが良く、来た方向を見てみると二つに分かれた崖がみえた。
どうやら森林を抜けたらしい。
建物の扉は固く閉ざされていて重々しい感じが僕たちを招き入れるのを拒んでいるようだ。
僕は扉を思いっきり叩いた。
いくら二スターの能力で強化されていると言っても重々しいこの扉を吹き飛ばすことは出来ない。
強化と言っても人の域を出ない範囲だ。
そして僕は大声で叫んだ。
「すいません!!誰かいませんか?」
だが、返事は無かった。
扉を引くと鍵が掛かっていないのか、そもそも鍵が付いていないのか、すんなりと扉が開いた。
「…」
少女を見る。
少女は頷いた。
中に入る事にした。
中は暗かったが洞窟の石は暗い所で明るく光るらしく、暗闇を照らしてくれた。
右手に剣(二スター)、左手に石を持って進んで行く。
中は広いだけで何も無く、中央にポツンと地下に続く階段が有るのみであった。
中央の階段は、まるであの世に続く階段のようにあった。
僕たちは覚悟を決めると足を踏み入れた。
足元を確認しながらゆっくり下って行く。
やがて扉が目の前に現れた。
扉からはほんの僅かに光が漏れていた。
再び僕たちは覚悟を決めるとゆっくり扉を開けた。
扉の先には赤い絨毯が敷いてあり、その上に机と椅子、そして女の子が座っていた。
女の子は読んでいた本を閉じると、椅子から立ちあがり挨拶をした。
「久しぶりのお客さんだ。どうぞ座ってくれ」
僕たちが状況を飲み込めていないのを気にせずに女の子は奥の扉へと姿を消した。
女の子が戻って来るとその手には紅茶を持っていた。
「まだ立っていたのか。早く座りたまえ」
机に紅茶を並べながら女の子が言う。
僕たちは言われるがままに椅子に座った。
「とりあえず紅茶でも飲んで落ち着きたまえ」
僕たちは女の子の言われるがままに紅茶を飲んだ。
紅茶は温かく、身体の芯まで温まった。
心が冷静さを取り戻し、女の子に質問しようとする。
「あ、あの」
だが、女の子は僕の言葉を遮って話した。
「落ち着いたようだから、次はお風呂にでも入りたまえ」
女の子の言葉を聞いて僕は自分の格好を見た。
所々、土で汚れていて、とても清潔だとは言えなかった。
少女は言葉に頷くと女の子に付いて行ってしまった。
女の子が居なくなったのを見計らい、二スターに声をかける。
「二スター」
「どうした」
「あの女の子、何者だと思う?」
二スターは言った。
「見当は付いている」
その答えに思わず驚いていると女の子が戻ってきた。
「君は入らなくて良いのかい?」
二スターの答えに動揺はしているものの、女の子の問いかけに答えた。
「女性と一緒に入る訳にはいきませんので」
キッパリと断る。
「じゃあ、あの子がお風呂から出るまで話をしよう。何から聞きたい?」
女の子が聞いてくる。
(色々、質問したいことがあるが…まず先に聞くべきことはこれだな)
「あなたの名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「私の名前はコート・リメル。君は?」
女の子…リメルに聞き返されて咄嗟に名前を考えたが良いのが思い付かず、正直に言う事にした。
「すいません。名前が思い出せなくて…名無しの権兵衛とでも呼んでください」
「名無しの権兵衛…権兵衛で良いかい?」
「構いませんよ」
質問する前にリメルについて考える。
リメルは見た目は10歳くらいの女の子だが喋り方は落ち着いており、大人っぽい喋り方だ。
服装はゴスロリと呼ばれる服装をしている。
幼い身体とゴスロリな服装が合わさり、お人形のようだ。
だが、一番気になる点はその言動だ。
明らかに何かを知っているような言動だ。
だが、焦らずに順番に聞く。
「ここは何処なんですか?」
少女は答える。
「ここは大陸の北西の辺りにある島。“聖域”と呼ばれる所だ」
「聖域…」
少女が聖域について語り出す。
「この聖域には人はおろか、亜人も居ない。君たちを除いては」
この島には僕たち以外の人は居ないらしい。
(じゃあ、この子は一体?)
その事について質問する前にリメルが喋り出した。
「何故なら、この聖域には特殊な結界が張っており、外からの侵入は難しいからだ」
リメルは少し考えてから喋る。
「君たちは石版を何処かで見たか?」
僕は驚く。
その反応を見て、リメルがニコッと笑う。
「私に気付かれずにこの結界の中に入るのは不可能だ。石版を使って内側から入る事以外は」
やはり、石版が関係しているらしい。
「その石版って、なんなんですか?」
「石版とは、この世界と別世界を繋ぐ扉。転移装置みたいなものだ」
つまり、僕たちは別世界から転移してきたのか。
そこで疑問が浮かぶ。
「どうして、そのような事をあなたは知ってるのですか?」
リメルは笑顔で答える。
「それは、私がこの聖域の主…神だから」




