目指すはダンジョン
近付くと早速、魔物が現れた。
隠れてやり過ごしながら進む。二スターの探知能力である程度なら見つけることができる。
「この気配は…ゼノ、戦闘になるぞ」
二スターの探知能力は範囲はグランに劣るがその分、正確だ。二スターがそう言うのであればそうなのだろう。
「わかった。敵は何体だ?」
「五体だ」
ちょっと進むと二スターの言う通り魔物が五体現れた。
魔物は狼のような姿をしており、一本の角が生えている以外、ほぼ狼と言ってもいいだろう。
魔物達は僕達を周りを囲むように歩く。
僕達は戦えないグリネさんを守りながら魔物に剣を構える。
突如、魔物のうち一体が吠えると、魔物達は囲みながら走り出す。
そして一体がこちらに飛び掛かってくる。
「危ない!」
ウォルさんが腕でアーデを庇う。
それを合図に魔物達が一斉にこちらに飛び掛かってきた。
僕達はそれを迎え撃った。
「癒しの光」
グリネさんの魔法で傷が癒えていく。
「大丈夫?」
グランが心配そうな顔で覗き込む。
「僕は大丈夫。でも、今日はこれ以上進めないだろう」
空を見ると、すでに暗くなってきていた。
「今日はここで野宿をしよう」
本によると魔物は動物同様に火を恐れるらしい。しかし、例外もいる
僕らは見張りを代わりながら休んでいた。
僕が見張りをしているとグリネさんが話しかけてきた。
「眠れなくて…ちょっとお話ししませんか?」
「いいですよ」
グリネさんが僕の横に座る。
「ゼノさんはどうしてダンジョンを目指すのですか?」
「それは…人助けの為…ですかね」
「人助け…ですか?」
グリネさんは純粋な笑顔で言う。
「いい人なんですね」
グリネさんがいなくなった後にグリネさんに言った言葉を思う
( ダンジョンを目指す理由は人助けの為…か)
一応、ほかに理由はある。
異世界から元の世界に帰る事だ。
(しかし、本当に帰るべきなのだろうか?)
もし元の世界が戦争だの食糧難などが起こっている世界だとしたら、地獄に自ら落ちるようなものだ。
だがもしかしたらこの世界より豊かでみんなが幸せな世界かも知れない。
どちらか今の僕にはわからない。
(やはり、記憶が戻るのを待つしかないか)
僕は戻るかわからない記憶を待ちながらダンジョンを目指すのだ。
不安になってきた。
その時、後ろから声が掛けられる。
「そろそろ代わりましょう。ゼノさん」
ウォルだ。
僕はわかったと言い立ち上がる。
すると、なにかが光るのがみえた。
丁度、ウォルがいた所だ。
拾ってみるとどうやらそれはロケットペンダントのようだ。
ウォルに落ちてた物を渡す。
「落ちていましたよ」
「あ!ありがとうございます。ゼノさん」
ウォルがロケットペンダントを受け取り、大事そうに握る。
「なにが入っているんですか?」
「これです」
開くと中には三人の写真が入っていた。
「私の家族です」
「家族…いたんですね」
「はい。そろそろ息子は10歳になるんです」
ウォルさんは懐かしそうにペンダントの写真を撫でる。
「私、このダンジョンを攻略したら家族の元に帰ろうと思っているんです。本当は最後までお供したいのですが…すいません」
家族の元に行きたいのは当たり前だ。
むしろこのダンジョンだけでも付いて来てくれるだけ有難い事だ。
「なら生きて家族の元に帰りましょう。ウォルさん」
僕はウォルを勇気付けるべくそう言う。
「そうですね。お互い頑張りましょう」
僕はウォルの言葉に逆に勇気付けられた。
最初に出会った熊のような魔物を倒し、進むと突如壁が現れた。
壁は石のようだった。
「なんだこの壁は」
「まさか…」
僕の言葉にラファーが声を漏らす。
「ダンジョン…」
ラファーの言葉に僕は驚愕する。
壁を見上げる。
壁は空高くへと伸びており、その大きさに圧倒される。
「どこかに入口があるはずです。探しましょう」
ラファーの言葉を信じて、僕達はダンジョンの壁に沿って歩く。
「ラファーさんはダンジョンについてよく知ってますね」
レーラさんの言葉にラファーはこう返す。
「兄がそういうの好きでね」
「お兄さんが居るんですね」
「はい。今は旅に出ているのでどこにいるか知りませんが」
そんな話をしていると、扉らしき物を見つけた。
(喜ぶのはまだ早い。まずは作戦を練るべきだな)
すぐにでも入りたい気持ちをぐっと押さえ込み、ここで野宿をすることにした。
本当なら、野宿をしながらダンジョン攻略に向けて作戦を練り、万全の状態でダンジョンに挑みたかった。
しかし、現実は思い通りにいかないものだ。
「ゼノ!何かがこちらに向かって来てるぞ」
二スターがそう言うと、草むらから前に見た狼のような魔物が三体出てきた。
「まだまだ隠れてるぞ。8、9、10体ぐらいいる」
流石にその数を相手にしたら間違いなく僕達は全滅してしまうだろう。
(ならば仕方ない…)
ダンジョンの扉を開き、叫ぶ。
「みんなこの中に逃げ込むぞ」
こうして僕達は魔物から逃げるために魔物の本拠地へと足を踏み入れた。