あの村
「そろそろ村が見える筈だ」
見覚えのある道を歩きながら僕はそう言う。
ラファーが僕の隣に来て話しかけてくる。
「そういえば、その村はボクとゼノとアーデの三人で怪物退治してあげたとこだよね」
「あぁ。そうだな」
村を脅かす大きい猿をみんなで協力して倒したのを思い出す。
色々な事があってまるで昔の出来事のように感じる。
ラファーと僕が話していると、グリネさんが話しかけてきた。
「行ったことあるんですか?」
僕が答える前にラファーがグリネさんの言葉に答える。
「はい。ボク達はその村を脅かしていた怪物を倒してあげたんですよ」
「へ〜!!それは凄いですね。もっとお話を聞かせてください」
「良いですよ。ボク達が歩いていると...」
ラファーが自慢気に話し、グリネさんはそれを目を輝かせて聴いている。
そんなことをしているうちに村が見えてきた。
すると村から誰かがこちらに向かって走ってきた。
僕はその人に見覚えがある。
大猿に攫われそうになっていた所を僕達が助けてあげた子、リリカちゃんだ。
リリカちゃんはラファーに向かっていきそのまま抱きついた。
「ど、どうしたの?確か君はリリカちゃんだったよね?」
ラファーの声にリリカちゃんが顔を上げて言う。
「かいぶつがむらであばれてるの。たすけて」
僕達が急いで村に向かうとそこにはあの時と同じぐらいの大猿がいた。
村の人達が農具などで大猿を牽制する。
しかし、村人の農具では長くは持たないだろう。
僕達は直ぐに行動を開始した。
レーラさんが魔法を唱えている間に、ラファーと僕で両サイドから挟み込み逃げ場を無くす。
グリネさんはその隙に村人を避難させる。
僕とラファーに大猿が気を取られている隙にレーラさんが魔法を撃つ。
光の槍は大猿に真っ直ぐ飛んでいき見事命中する。
いきなりの攻撃に驚いている隙に僕達は大猿に剣を振り下ろした。
「ありがとうございます。再びあなた方に助けて貰えるとは」
前にも会った老人(村長)が御礼を言う。
「いえいえ、しかしあの怪物は僕達が倒したはずでは...」
「恐らく新たな群れでしょう...もしかしたらアレが関係しているのかも...」
アレとはなんだろうか?
僕がアレについて訊く前に先にラファーが訊いてくれた。
「アレって何のことですか?」
「はい、関係無いかもしれませんがつい最近、森で魔物の目撃されているんですよ」
「魔物…?ですか」
魔物。
ダンジョンとその付近に現れる危険な生物だ。
「最近という事は前までは目撃されてなかったんですか?」
「はい、もしかしたらその事と今回の怪物騒動。何か関係があるかもしれません」
今までいなかったはずの魔物の出現、大猿の村襲撃...何か関係ありそうだ。
僕は老人に告げる。
「僕達に任せて下さい」
ちょっとズルをしている気がするが、手っ取り早く真相を聞くにはこの人に聞くのが一番だろう。
混乱させるといけないのでグリネさんとウォルとレーラさんには村で情報収集を任せた。
グランが光の玉を出す。
「どうしたんだい?」
久しぶりに聴くリメルの声。
ダンジョンは間違いなくリメルの力によってできたものだろう。そんなダンジョンから出現する魔物について何か知っているかもしれない。
僕はリメルに事の顛末を話した。
「そうか...恐らくその魔物はダンジョンから偶然迷い込んでしまったのだろう。そして大猿はその魔物によって住処を追い出されたんだと思うよ」
「そうか。じゃあ魔物を倒せば一件落着か」
僕がそう言うとリメルが言葉を返す。
「いや、これは急いでダンジョン攻略に行くべきだと思うよ」
僕はその言葉に疑問を感じる。
(何故、急いでダンジョン攻略しなければいけないんだ?)
確かにリメルもすぐに力を取り戻したいのだろう。しかし、僕はそれとは違うような気がした。
そもそも魔物が迷い込んだ事と急いでダンジョン攻略に行く事に何の関係があるのだろうか。
再発防止とはいえ魔物は偶然外に迷い込んだのだ。偶然はそう何度も起きるものでは無いだろう。
もし、森の魔物の出現が偶然では無いとしたら?
「ちょっと気になる事があるんですが…」
僕が訊こうとすると後ろから声が聞こえた。
「…ゼノ」
振り返るとアーデがいた。
僕があげたマントを着ていた。
それを見たリメルが言う。
「久し振りだね、アーデ。そのマントはゼノに貰ったのかい?」
アーデがリメルの問いに頷くとリメルが言う。
「それは良かったね。二人の時間を邪魔する訳にはいかないね。私はそろそろ失礼するよ」
そう言うと、光が小さくなりそのまま消えた。
アーデが聞いてくる。
「何かわかったの?」
「うん。僕達がすべきなのは急いでダンジョン攻略する事だ」
僕は村にいるみんなの元へ向かった。
早速、これからの事を三人に話す。
話し終え、ダンジョンに向かおうと村を出ようとすると、リリカちゃんに引き止められた。
リリカちゃんはレーラさんといつのまにか仲良くなっていたらしく、レーラさんに何かを渡した。
村を出たところでレーラさんに聞く。
「何を貰ったんだ?」
「これです」
それは木彫りの人形だった。
手のひらサイズの人形で、どこかリリカちゃんに似ていた。
「リリカちゃんの大切な御守りでダンジョンを無事に出られたら返しに来てだって」
レーラさんが人形を見ながら独り言を呟く。
「無事に帰るよ。だって二度目だもん」
僕は敢えてその事には触れなかった。
「あんな寂しそうな顔...聞けるわけがない...」