序章 第七話 気づき
「マァマ!」
「······!? え、え? え······!? イ、イオン! もう一回、なんて言ったの!?」
僕に鼻息がかかるくらい顔をグイグイと近づけてくる母様。
「マンマー」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!! イオンが喋ったッ!!」
なにそのハッピーセットのあの子供達みたいな反応!? ていうか鼻から血を吹き出して倒れたんだけど!?
「どうしたんですかカナリア様!?」
シエラが扉を蹴り飛ばすかのように扉を開けて入り、倒れた母様を抱き抱えた。ていうか相変わらず速いね。
「イオンが『ママ』って喋ったのよ!」
「なんですと!?」
抱えていた母様を雑に地面に置いて神速で僕に接近してきた。
「イオン様! 私は『シエラ』です! シ・エ・ラ! はいどうぞ!!」
喋れと?
「シェラ!」
「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!! わわわわわ私の名前をッ!!?? なんで知ってるんですか!?」
鼻から血を吹き出して倒れた。君がさっきそう喋れって言ったからでしょ。
「どうしたシエ──!? これはッ!!」
また扉を蹴り飛ばすかのように扉を開けて、父様が入ってきた。
「ワイゼル······やっぱり、我が子は······愛しいものね······」
「旦那、様······イオン様が······イオン様がッ私の名前を······」
「ど、どうしたんだ二人とも!? 全く意味が分からないぞ!!」
そりゃそうだ。叫び声が聞こえて何事かと思っていけば、二人が倒れててしかも顔が血だらけだし、何故か共通して僕のことをいうんだもん。
そのまま困った顔でその場に立ち尽くす父様。面白そうだし声でもかけるか。
「パパァー?」
「ッ!? ──······ごふッ」
父様もまた、鼻から血を吹き出して倒れた。
僕の周りに死体が三体も出来た! これで僕が最強だ······
······なんだこの状況。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
生後十ヶ月になった。
この時期になると何かに捕まりながら立つ──所謂捕まり立ちをする時期でもあると同時に、早ければ意味のある単語を言い始める時期でもある。僕? 僕はもう歩けるよ?
今僕は家の一階に行こうと階段を下っている。この家は四階建てで、僕の部屋は二階にあるのだ。
(一歩ずつ、一歩ずつ)
両手は手摺に常に添えてあり、進む時は両足が揃うように進んでいる。
(おっし······! あと五段!)
だが油断大敵とでもいうのだろうか。そこらへんは置いておくとして。とにかく──油断してしまった。
次に進もうと右足を出したものの中途半端な所に右足がついてしまって段差を踏み外した。そのおかげで両手は手摺から離れ、体が前に向かっていった。頭の中で、本能が危険だと焦っている。が、それも衝撃で一瞬にしてかききえてしまった。
とにかく全身あますことなく痛みが襲ってきた。視界はグルグルと回り、痛みが体を襲う度に目の裏で何かが弾けたかのように点滅する。
最後は体が何かに叩きつけられて、その回転が止んだ。
そして幾分か、落ち着きを取り戻すとふと遠くから音を切ったかのような音がした。
シエラかな。
「イオン様ッ!!!!!!」
大丈夫、と言いたいが何故だか口が開かないので行動で示そうと思って、手足に力を入れた。しかし動かなかった。それどころか意識が朦朧としてきた。不思議に思ったので、不可視の設定にして体力のバーだけを出してみた。
バーは赤く、そして激しく明滅していた。
(残りの、体力が3······?)
「動かないで下さい! 直ぐに治療しますから!」
だんだんと意識が遠のく中、不謹慎ながらも焦った顔も可愛いものだと思った。
「『我に満ちる聖なる光よ。かの者に治癒の力を──『治癒』ッ!!」
······??? 詠唱······?
あ、駄目だ······意、識が──
プツリ、となにかが切れたかのように僕の視界はブラックアウトした。
意識が戻ると、目の前には心配そうに覗きこむかのようにしている可愛い女の子がいた。
「あ、大丈夫ですか!? イオン様!」
あ、シエラか······。ていうかなんで僕は······──って僕、階段から落ちて意識を失ったんだ。我ながらよく生きてたものだと思う。
「どうやら大丈夫みたいですね。はあぁぁぁぁー! イオン様が生きてくれててよかったぁ······」
どうやら心配をかけてしまったらしい。
「どこか痛いところはありませんか?」
「······」
僕はふと、意識を手放す寸前のことを思い出した。たしか彼女は魔法を使う時に呪文を唱えていた。ちょっといい機会だしもう一回やってもらおうかな。
「あしがいたい」
「足ですね! 『我に満ちる聖なる光よ。かの者に治癒の力を──『治癒』」
シエラは僕の足に手をかざすと詠唱を開始した。唱え終わると同時にかざした両手から温かい光が漏れ出てくる。なんだかジワジワする。
「どうです? まだ痛みますか?」
「だいじょぶ」
「そうですか! それではまた痛くなったら言ってくださいね」
そう言うとシエラは両手を離して、席から立ち上がる。
「歩けるようになって楽しいのはいいですが、危ないことはだめですよ!」
「あい」
「分かればよろしい! では私はまだ仕事が残っているので······イオン様、ちゃんと寝てくださいね?」
シエラは扉を静かに開けて、音もなく出ていった。
(さて······じゃあ早速考えてみるか)
何故魔法に《呪文の詠唱》があるのか。ゲームでは実際に放たれるまでに数秒の時間を待つだけだ。そもそもの話、《アーク》に呪文があるなんて聞いたことがない。しかも魔法はそれ関連の職業に就かなければ使用できない。シエラはこの前『斬撃』を使っていたからてっきり剣を使う職業だと思っていたのだが······。
《知識の書》を見ても呪文があるだとか、どの職業でも魔法が使えるとは一切書かれていない。
······そういえばイシスさんがこんなことを言っていたな。
《こほん。え、えーっと簡単に言うと《アーク》の世界です》
《その通りです。けれど《アーク》とは異世界の未来を元に私が作り上げたゲームです。ハードの容量に収めるために色んなものを省きましたから······》
もしかして歴史以外にも省いた要素があるのか? もしそうならこの現象もゲームでは省かれていたものとして説明がつく。
ちょっと僕にも出来るか試してみるか。
(意識をへその下に集中して······)
これはラノベでもよく見かけるような体を流れる魔力の感じ方だ。
よく聞くへその下というのは、魔力じゃなくても『気』とかいう力が集まる『丹田』がある場所だ。丹田自体は器官とかそういうものではない。
まあもし僕のこの仮定が当たっていれば······。
続けていると、次第にへその下あたりから、温かい力のようなものを感じることができた。そしてその力は身体中をくまなく循環していることも。
(これが魔力······? なんかどろどろしてるな)
感覚的には身体中を粘性の物が流れているようだった。それよりも何故だかさっきから冷や汗が止まらないので、一度意識を離す。
やはり無職でもMPではなく魔力が存在する。恐らくこの世界の人間全てが持っているのだろう。前々から疑問だったのだ。なぜステータスにMPではなく魔力と表示されるのか······やっと解けた。
纏めよう。
この世界は簡単に言ってしまえば、異世界とゲームがごちゃ混ぜになった世界だ。ゲームの独自の世界観にラノベの異世界のような設定を追加したような世界と言った方がいいだろうか。
《アーク》をゲーム化するために削った要素とはつまりアクションRPGには必要ない、細かな異世界設定だった。職業に就かずとも魔法が使えるのも魔法に詠唱が必要なのも全てこの世界の設定なのだ。
つまりだ。
ラノベ側の設定でいくと、こうやって魔力を消費していけば魔力量が上がっていくはず!
と、いうことなので魔力を感じとるために一応魔力のステータスバーを出しながら感じていたところ、冷や汗が止まらなくなって、最終的には気絶してしまった。




