序章 第六話 ガチ鬼ごっこ
「おお······シエラちゃんかあ? 魔物でも現れたのかい?」
「いえいえそんなことあるはずないじゃないですか。この辺滅多に魔物なんて見ませんよ」
「??? おっ······おう。そうだよなぁ······?」
「冗談がお上手ですね!」
「??????」
農民のおじさんは考えるのをやめた。きっと僕もそうするだろう。
「その背中の子はワイゼル様のご子息かい?」
「そうです! イオン様です! イオン様〜ご挨拶どうぞ」
「たあ!(こんちゃす!)」
「元気な子だなぁ! やっぱり将来は剣士か、それとも魔術師かい?」
「いえ神です」
「ん?」
「神です」
「······」
「神」
「······そっかあ」
おじさんはまたもや思考を放棄した。なるべく当たり障りのない話をしたつもりがなにやら地雷を踏んだようだと感じたようだ。
シエラは僕のことを文字通り天使のように思っているから、将来的にはこの世界の神になると考えている。馬鹿か。
「なっ、なんかあったら言ってくれよ! おじさんが力になるからよ!」
そう言っておじさんは困惑しながらもシエラに手を振ってそばにある畑の近くの家に向かっていった。
あと何回、僕は奇怪な者を見る目を向けられるんだ······なにもしてないじゃん。
「いやぁイオン様が可愛すぎるせいで沢山の人に声を掛けられますよ! 凄いですね!」
十中八九君の鎧のせいだと思う。
というかシエラ自身は人をそんなに軽くあしらうわけじゃなく、どちらかといえば少し話をして別れるタイプなのだ。
しかも僕のことをめっちゃ話すものだから、余計に時間がかかる。
見て見てよ。一時間くらいはたったのに、まだ家が近くに見えるよ。
(本当になにやってんだろ)
僕はとにかく暇だ。寝たいのは山々だが、耳元でシエラが騒ぐし、全く眠る気が湧かない。ということなので僕は暇すぎてステータスを見ている。
最近はハイハイで部屋を徘徊し、暇があれば立つ練習をしているのでステータスは上がっていた。
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【名前】イオン·ビクトリア 【年齢】8ヶ月 【性別】 男
【体力】 50/50
【魔力】 20/20
【攻撃力】 3
【防御力】 7
【魔法攻撃力】 7
【魔法防御力】 20
【俊敏】 5
【称号】 ()がつくものは非表示。
·守護対象······守られている証。
·(転生者)······前世の記憶を保持したまま新たな生物として生き返った証。
【スキル】
無し
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何故だかは知らないが、いつの間にか『転生者』という称号がついていた。
人にバレるといけないので非表示の設定にしてある。まあ、成長としては順調なんじゃなかろうか。
「あ······もうそんなに時間も掛けられませんし、ちょっと急ぎますか」
シエラはそういうと、少し早歩き気味になっていった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「待ちなさいシエラ!!」
ただ今全力疾走中。別に急いでいるわけじゃない。ただ追われてるだけだ。
「待ちません! イオン様は私の命にかえても守り抜きます!!」
何故追われてるか? 結局シエラが一向に前に進まないから、遠くでストーカーしてた両親の怒りを買っただけ。
なんでこんなに客観的に見れるんだろうなぁ。アホくさいからだよなぁ。
「シエラ! せめてイオンを下ろせ!! 危ないだろッ!!!!」
父様が遠くでそう叫んだ。よかったねシエラ。怒られるのは確定らしいよ。
『逃走中』は佳境に入ったのか、シエラが目指していた広場までやって来た。
もう速すぎて景色を楽しむ暇もないが、とにかく沢山家と人がいるとだけ言っておこう。
広場、というより住宅地だろうか。その入り口付近から人に見られまくっているものの、速すぎるのかなんの反応も示さない人が大半だった。
「流石に速いですね······!」
父様は飛ぶように走っていて、毎回地面を蹴ると土が抉れている。
一方母様の方は、魔法を使いながら追いかけてきている。地面に足がつく度に緑色の魔法陣が見える。
シエラはシエラで忍者のように静かながらも飛ぶように走っている。
「シエラ! 返しなさい! イオンは──」
母様が少し屈んだその瞬間、魔法陣の輝きが増して、更に数が増えた。
「うちの子よッ!!!!!」
母様は大声でド正論を言った。ごめんなさい母様、今ちょっと母様達じゃなくてシエラのことを応援してて······。
グングンと速度は増していき、父様を追い越し、そしてシエラへと手を伸ばし──
空を切った。と、同時に僕の視点も両親を見下ろす形になる。
何故かといえば、シエラが目の前にあった家の壁をかけあがり始めたからだ。そのまま屋根までたどり着くとまた全速力で走り始めた。ちょっとは僕のことも考えてほしいものだ。
「『跳躍』!!」
母様も魔法を発動して、屋根まで昇るとシエラを追いかけ始めた。だが父様が来る気配がないので、多分下から追いかけて来ているんだろう。
「『斬撃』!」
シエラが家と家を飛び越えようと跳躍した瞬間、下の方から淡い水色の三日月の形をした光がシエラに向かって飛んでいった。
斬撃というのはゲームの設定だと、剣を装備した時に使用できる技だ。で、技というのはその名前の通り、その職業だけで使用できる技だ。
「甘いですよ! 『衝撃剣』!」
シエラは膝に備えてあるホルダーからナイフを二本取り出すと、技を発動させ、迫り来る光に向けて放ち、相殺させた。
「うッ······ナイフが······!!」
見て見ると、先程のナイフの刃の部分がボロボロに欠けていた。
そもそも斬撃は設定上、魔力を剣に纏わせて威力を上げた斬撃を放つ技であって、相手に飛ばすものではない。というかゲームでも飛ばせない。
よくもまあ父様はそんな芸当を走りながら出来るものだと感心してしまう。
「甘いのは──そっちよッ! 『闇の捕縛』ッ!!!」
シエラの上に紫色をした魔法陣が浮かび上がると、そこから黒くて丸い輪がシエラの周りを取り囲み、拘束した。
ドラ○ンボールのギャ○クティ○ドーナツみたいだ。
「あッ!?」
シエラはハッとするも、時既に遅しというやつだろうか。黒い輪は完全にシエラを拘束した。しかもご丁寧に僕を避けて。
「やっと捕まえたわ······!」
「ふう······久しぶりに運動したな」
父様が屋根まで飛んできて、そんな会話をしていた。僕は、あれで久しぶりなのかよ! なんて思ってしまった。
「さてシエラ。どうなるかわかるわよね?」
ニッコリと微笑むものの、目が全く笑っていない母様。
「ひゃあぁぁぁぁぁッ! イオン様が幻惑術で私の心を惑わしたんです!! 私のせいじゃありませんッ!」
「流石にそれは無理があるんじゃないか······?」
父様がそう呟いた。
この後、シエラを見た者はこの世にいない。(嘘)
技の解説。
・『斬撃』······剣に魔力を纏わせて攻撃する技。
・『衝撃剣』······剣に魔力を纏わせて振り抜くと同時に弾けさせる技。
魔法に関しては時が来てから解説します。




