序章 第一話 死んだはず
──ここは、どこ······?
目をあけた瞬間、視界いっぱいに広がる青空を見て僕はそう思った。
ゆっくりと体を起こすと、どこまでも続く青空と水面がうつりこんだ。それともう一つ。
目の前にこたつがあった。
「??? 意味わかんないんだけど」
心の声がポツリとこぼれた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「······なにしてるんですか?」
僕は、ウェーブがかった銀髪を揺らしてジト目気味の瞳を右往左往させながら、みかんの皮を剥いている美女さんに声をかけた。
ちなみにこの人、僕がこたつに入ってたらいつの間にかいた。
「反応してくださいよー寂しいじゃないですか」
「あいうえお。以上」
「もっと寂しいな」
いやー反応されたのに寂しさが増すなんて、人生初だなー。
ていうかこの人さっきから全然皮剥けてないし。反応するより皮剥く方が楽しいのかな。剥けないくせに。
「やり方は知ってますけど調子が悪くてですね」
すっごいベタな言い訳するなぁこの人。見てる感じやり方を知ってる風にはまったく見えないんだけども。
「言い訳じゃなくて事実ですよ。今日はちょっと左手の指が筋肉痛になる予定なんです」
「これからなるの!?」
なんだ予定って。それじゃ今は万全じゃないか。それに指が筋肉痛ってどれだけ非力なんだこの人。
「仮にもいたいけな女性に筋肉を求めないでください」
「いやみかんの皮剥きで筋肉痛になる人に望むものなんて筋力しかないでしょうが」
非力すぎてこたつから立っただけで倒れそうじゃないかそれ。スペランカーかよ。
「スペランカーさんは歩けるしジャンプだってできます。今すぐ謝ってください」
「自分で言ってて悲しくなりませんかそれ」
「私のこれはアイデンティティです······ていうか勝手に私がこたつから立ち上がっただけで死ぬみたいな設定つけないでください」
もう半分認めたようなもんじゃないか? 非力なのを個性だと言う時点で。
あれれ? てゆうか······
「僕何も喋ってないですよね?」
「? はい。そうですね?」
「じゃあ、僕の心を読んでるとか?」
「まあ」
「プライバシーとかないのかな」
この人を詐欺罪と器物損壊罪で訴えたいッ!! 理由は勿論お分かりですね!!! あなたがみかんの皮も剥けないのに言い訳をし! その上僕の豆腐メンタルを壊したからです!!!!
「あなたのそのオタクみたいなネタ、知っててもついていけないのでやめてくれませんか」
「すいません」
僕はやっと話し始めるのかなと思って姿勢を正す。
目の前の女の人が咳払いをした。
「えっと······私の名前はイシス。天と地の狭間············神界に住まうあー······創造神の一人です。一応、地球も管理してます。はい」
「カンペ見ないでください! 自己紹介に必要ないでしょーが」
この人自己紹介もできないのか。こんなんでよく地球は今まで残ってたなぁ。
「あなたにも分かるようにテンプレみたいな言葉に変えてるんですから当たり前ですよ。あとカンペなんて見てません」
「嘘つけ絶対見てたゾ」
「汚いからやめてください」
「はい」
久しぶりに人と話すからテンション上がってるのかな。ネットのネタ沢山言っちゃうな。
イシスさんはこたつの中から本を取り出してこう切り出した。
「えーっとお名前は五十嵐 凛音さん。十七歳。死因は転落の衝撃による頭蓋の骨折と内臓の破裂、それとショックによる心臓麻痺ですね」
「めちゃくちゃグロいじゃないですか!?」
「まあ長くやってればよくある死にかたですけど、やっぱりあれのせいもあるんでしょうね」
あれって何だろう。すっごい気になるけど、表情から察するに絶対聞いちゃいけない気がする。ていうか話すつもりもないんだろう。
「いきなりなにをはじめたんですか?」
「本人確認です」
「イシスさんってほんとに神様······?」
「なんで疑うんですか!? 折角心まで読んで疑われないようにしてるのに!?」
心読んでる理由しょぼ。
「······実は今さっき、私の趣味が人の黒歴史を読み上げて他の神と一緒に笑うことになりまして」
「???」
「呼んできていいですか」
「ダメです」
そんなことしたら僕の人生終わるナリ。いやもう死んでるから終わってるナリ。欠片も面白くないナリ。
「両親は健在。はえー妹さんもいるんですね。運動、勉強、奉仕あるゆる面において並。交友関係は同年代の男女が一人づつ······へえー?」
「声に出すのやめてくれません? ブッ刺さってるんで」
わざとだ。絶対この人わざと声にだしてよんでるよ。
その後もなんか色々声に出して読まれたが、全部僕の華麗なスルースキルで無視を貫き通した。
「──さて。あなたが何故ここにいるか知りたいですか」
「勿体振るなら別に」
「ここは聞く流れですよね? なんで空気読めないんですか?」
「えぇ······じゃあ知りたいです」
ゲームならああいう選択肢が出たら『いいえ』を選択しちゃうよね。ドラクエみたいにさ······ってリアルにゲームの話持ち込んじゃ末期だ。やめよう。
「実は! あなたは一億人以上もいるアークプレイヤーの中からたった一人選ばれた人間だからなのです!!」
「選ばれるってことは僕が死んだのは対して関係ない······つまり寿命で死んでもこうなる運命だったり?」
「まあそうですね」
神様って人の人生とか分かったりするんじゃないのかな。なんで寿命で死ぬことを否定しないんだろう。そりゃ選ばれた時期にもよるけど、そういうのって運命として決まってるもんじゃなかろうか?
······いっか。気にしてもしょうがない。というか考えるだけ無駄だ。もう終わってることだし。
「神の選定によって、あなたは特別に異世界転生の権利を得たのです! 拍手〜」
怪しすぎてできるか!
「うーん······別に転生したくないわけじゃないんですけど、なんで異世界なんですか?」
「あれれ? あなたの年頃だと異世界大好きなので脇目も振らずに胡散臭いこの話に飛びつくかと思ったんですが」
そりゃ偏見がすぎるし僕はそんなに単純じゃない。あと胡散臭い自覚があったんだね。
「何故かは分かりませんが、地球はあなたの魂の受け入れを拒否しています。なので異世界転生です」
「······」
「納得できませんか?」
「そりゃあ······意味わかんないですし」
「神様は純粋で綺麗な願い事をされたら叶えなきゃいけないものなんです。あなたの『生きたい』という願いはとても真っ白でした。なので叶えてあげることにしました」
それは果たして死後も有効なのだろうか。
それに僕は自分で死を選んだ。そんなやつが死に際に願ったことなんて叶えてやる必要はないと思う。個人的には。
「まだ足りませんか?」
「理解はなんとなくしましたけど······」
「じゃあめんどくさいんで私の気まぐれです。以上!」
「今までの会話は一体······???」
地球が無理だの願いがどーのと言ってたわりに、結局それでいいんかい。
まあでも話してる感じ悪い人(神)じゃないんだよなあ。
······僕はチラッとイシスさんの瞳を見つめる。とても澄んだ緑色をしていた。嘘も方便も見当たらない、綺麗でまっすぐな瞳。
「······善意は素直に受け取れって死んだお婆ちゃんが言ってたんです。だから僕はあなたを信用します」
「うぅ······私が心を読めること忘れてませんか」
イシスさんが顔を真っ赤にして俯いていた。
あ、さっきの目を見てた下りか。なるほどマスカレッジ。人の目を見て話すのは基本だけど、マジマジと見つめるのはダメだよね。
「そういうことなので、僕を異世界に転生させてくれませんか」
「······は、はい。転生させましゅ······」
「あ、噛んだ」
「!! 言わないでくださいッ!!」
イシスさんはそう言うと僕にみかんの皮を投げつけてきた。
どうでもいいけどちゃんと綺麗に剥けてた。
改めて作り直したら、主人公は引きこもりでゲームもやってたんだからネットに強いはず······と思って全開でかいたら、ある意味面白い人になった。




