序章 第十六話 後始末
そのまま何分が経過しただろうか。少なくとも秒ではない気がする。
ゆっくりと、ルイスが涙でグシャグシャになった顔を離した。
······まあ、服はあとで洗濯してもらおう。
僕はポケットの中からハンカチを取り出してルイスに差し出した。
「ルイス。一度、僕の家に来てくれないかな」
「······うん」
と、ルイスは僕が渡したハンカチで鼻をかみながら答えた。
言っとくけど使い方違うからね? ハンカチって鼻をかませるためじゃなくて、涙を拭かせるために僕渡したんだからね?
「······ま、まあ。あれだけ大規模な水蒸気爆発を起こしたから父様や母様にもバレちゃっただろうし······説明のために、ルイスにも付き合ってもらうから早速いこうか」
僕はいまだ、座り込むルイスの首と膝裏を抱える──所謂、お姫様抱っこをした。
「······!? ······降ろ、して······ッ!」
「ちょっ、暴れないで! こうやった方が速くいけるんだから!」
ちなみに。
彼は『お姫様抱っこ』というものを恥ずかしい行為として捉えていない。
「ルイス、首をしっかり掴んで僕に体を寄せて」
「ッ······! ······!!」
「振り落とされないようにね! いくよ──『風圧』!」
こうして僕達はその場を離れた。
※※※※※
僕が練習している場所から、僕の家まではそう大した距離もないので数分でついた。
「──よっ、と······。ルイス、僕の家に着いたよ?」
「······」
あれ? 反応がないな。『反射』でうまいこと衝撃なんかを頑張って緩和してたから、怪我とかはないと思うけど······。
「あ、イオン様!」
すると、聞き覚えのある声が玄関のほうでした。
僕はとりあえずルイスを抱えたまま、家のほうへ向かった。
「イオン様! あの煙ってイオ──って、えぇ!? イオン様が女を連れてる!?」
声の正体はやはり、シエラだった。ていうかその言い方だと僕が友達いないみたいに聞こえるじゃないか······いないけどさ。
「えっと、ただいま。母様はいる?」
「はい。カナリア様はいます。カストリーズ様は向こうの煙の方へ行かれました。······奥様もイオン様が魔法を使えることに気づいたみたいですよ。あの向こうの煙も、その子を連れて来たのもきっと訳があるんでしょう? あとでお話、聞かせてくれると嬉しいです」
シエラは僕からルイスを預かると家の中に入っていった。
僕もそれに続いて中に入り、数歩廊下を歩いていった。
「カナリア様はこの奥です。私はこの子の手当てでもしておきましょう」
「あ、ありがとう······」
ゴクリ、と僕は唾を飲み込んだ。
今までずっと、魔法が使えることは黙ってきた。それを怒られるのかもしれないとなると、どうも安心できない。まだ確定ではないが。
僕は扉をノックした。するとすぐに、「入りなさい」と返事がきたので、入った。
「あぁ、イオンね。おかえりなさい」
「ただいま帰りました······」
「······早速、聞かせてもらいましょうか。あの煙のこととか、色々」
僕は途切れ途切れながらも、事の顛末を話した。勿論そこに、僕が魔法を使えること、それをシエラも知っていたことも。
「······あの煙は、水属性の上級魔法『濃霧』で起こしたのかしら?」
「い、いえ。えっと、火の初級魔法の『火炎』と、水の中級魔法の『水球』を合わせて、起こしました。あ! 衝撃は『反射』で十分緩和されていると思うので、彼らに怪我はないと思います······」
「······! あなたは一体魔法はどれくらい使えるのかしら? 属性は?」
「属性は、一応全て出来ました。魔法は中級までです」
「全属性······! それに中級魔法······」
なんだろう。驚いているな······やっぱり少し恐くなってきた。
「何故、あなたは私達に魔法が使えることを黙っていたの?」
「······えっと、その、怖がられるかなと、思いまして······」
これは半分本当である。もう一つは、僕が転生者だとバレたくないからである。
人とは、異質な存在がいるだけで自分の領域からそれを外そうとする。それを両親を信じていてもやはり疑わずにはいれなかったのだ。
「イオン······そんなにビクビクしなくても、私は怒ってるわけじゃない。むしろ、人の為に動いたあなたを誉めてあげたいくらいなのよ」
「えっ······」
「確かに、魔法が使えることを黙っていたのは叱るべきだとは思う。けど、そんな理由なら別に叱ることでもないわよ。私なんて五歳あたりで中級魔法覚えちゃったんだから、そんなの気にする必要はないのよ」
え······!? 僕、転生者で色々な知識を総動員して魔法を覚えてきたのに、母様は独力とは······もしかして相当凄い人なんだろうか。
「子供が人の目なんて気にしてたらいけないんだからやるときはパーッとやっちゃいなさい」
「は、はあ······」
パーッと、か。
まあ、とりあえずは許してもらえた······のかな?
魔法の解説。
・『濃霧』······上級水魔法に分類される。辺り一体を覆い尽くす程の霧を発生させる。闇魔法との合成により、霧に効果を付与することができる。




