序章 第十三話 今ある小さな自由
「イオン様イオン様」
「······? どうしたの?」
友達が作れないまま、3ヶ月が立った。
ちなみにこの世界だと春夏秋冬が、風火土水で表され、暦が剣魔暦というものになっている。一応今は剣魔暦262年になるらしい。
それと、地球をモデルにしているので時間の流れも四季も同じだったりする。
ただ、月は青い小さい月と赤い大きい月がセットになっている。
まあ、それはおいといて。
僕が自分の部屋で、暇なので本を読んでいると、シエラがやってきた。一応、絵本みたいな本なので絵を見てるだけだと思われるだろう。
「イオン様ってお買い物とか、したことも、見たことも多分ないですよね?」
「うん。そういえば一度も買い物しているところをみたことがないね。······買い物ってどうやってするの?」
一応、子供のふりをして聞いてみる。
まだ子供だしお金を貰えるほうがおかしいとは思うが、僕は一度もこの世界のお金を見たことがない。
「えっとですね。基本的に、買い物をするときはこちらの『金庫結晶』という物の中に入っている、お金を使うことになりますね」
そう言ってシエラはメイド服のポケットから、緑色でひし形のクリスタルを取り出していった。
まあそこらへんは大体ゲームと一緒だ。
「お金の単位はイシスといいまして、略してEって呼ばれることもあります。大体、20Eくらいでパンを一個くらい買えちゃいます。中に入っているお金はですね、言っても分からないでしょうが、魔力という不思議パワーを流して表示できます」
うんうん。ゲームと同じで1E=十円くらいだな。
にしても、Eってイシスって意味だったのか。あの人のことだよね······? 恥ずかしくないんだろうか。
「······ところで、シエラはなにか僕に用があったんじゃないの?」
「あ、そうでした! イオン様がよろしければ、私と一緒にお買い物でもどうでしょう。将来的にも、こういうことは体験したほうがいいと思うのです」
買い物か。多分、他の子供よりかは断然力があるとは思うけれど、荷物なんて持てるだろうか。
ちなみに力があるとは言ってはいるものの、手やら体なんか女の子みたいに細い。ちゃんと鍛えてるはずなのに。
「でも、僕あんまり力ついてないから、荷物とか持てないよ?」
「いやいやいや! 仮にも子供なんですから、持たせるはずないじゃないですか! 私が荷物なんて持っちゃいますよ! それじゃいきましょいきましょ!」
「う、うん······」
まあ、なにかあってもシエラがいるし大丈夫だろう。
他の子供とかがいなければ、だけど。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あ! あれなんていいかもですね!」
僕とシエラは今、マーラ村から東へ徒歩でいける距離にある小さな町、『ドーラ』に来ている。
どうやらシエラは買い物は大抵この町に来てしているようで、市場の店員と話ながら買い物をしている。
僕はそんなシエラについていきながら、色々な物の相場を確かめている。
改めて周りを見渡すと、あまり人混みで周りが見えないが、確かにここが異世界なんだとわかる。
レンガなんかで作られた西洋風な家が軒並み並び、ローブや鎧なんかで身を包む屈強な戦士達が闊歩する。
とても、普通に生きてたんじゃ見られない光景がここを、日本とは違う別の場所だと教えてくれる。
「今日はいい天気ですね」
「うん、そうだね」
シエラが買い物を終えると、僕とシエラはナチュラルに手を繋ぐ。別に、はぐれないようにというのは分かっているので、照れたりはしない。
「イオン様は将来なにになりたいんですか?」
「え?」
僕は突然聞かれたので、応答に詰まってしまった。
将来の夢か······。そういえば、日本にいた時にも将来のことなんて考えたことがなかったな。
······あぁ、そっか。だから僕は"生きたい"なんて願ったのかもしれないな。
「いやぁ、イオン様くらいになると剣聖になりたい! とか、魔聖になりたい! とか言いそうなのに、イオン様は言ったことがなかったから、聞きたくて······」
「あぁ······シエラは僕くらいの時はなにになりたかったの?」
僕はそう聞いて、咄嗟にまずいことを言ったと後悔した。
僕は、彼女の過去のことを知っている。だから、この質問がとても苦くて辛いものだということも、分かっていたはずだった。
「あっあの、言いたくないなら言わなくても······」
「なんですかいきなり? 私は······そうですね。昔は自由になりたいって思ってました。でも」
「······でも?」
「本当の自由って辛いんですよね。何にも縛られないし、何も邪魔するものもない。それがとっても、とっても辛いんです。だって誰も私を見てくれないから······だから私は、自由を求めることが馬鹿馬鹿しいことだって過去の自分に言ってやりたいですね······って何を言ってるんでしょうね、私······」
わかる。とても、とてもわかる。
僕も、同じだったから。
僕も、守りたいものをほっぽりだして、小さい自由を求めたから。仮想の世界に逃げたから。
でも、自由を求めて逃げた結果、僕は最後に自殺という手段を使ったのだ。
「······僕は馬鹿だなんて思わないよ」
「······?」
「自由ってさ。多分、自分の意思を通せることなのかなって、僕は思うんだ」
結局、僕は自殺した。小さい自由も、守りたいものも、全部捨てて。
だけど、結局悪いのは全部僕だった。ただ、運や流れに身を任せ、抗うことを諦めていたんだ。
結局自殺を選んだのは僕の弱さが原因なのだから。
「僕はね。自由にいきたい。それが将来の夢」
自分の意思を貫くことの出来ない弱さが、自らの死を招いたのだ。
だから僕は、今は意思を貫ける強さが欲しい。
「······もしも、シエラがまだ諦めていないならさ。絶対に自ら命を断とうだなんて、考えないでね」
「なんだか、イオン様が大人に見えます。まだ、私よりも小さいのに、私よりも考えてることが大きいんですね」
「······」
それは、きっと違う。僕よりも、年下なのにそこまで考えられる、シエラのほうがずっと凄い。
「なんか辛気くさい雰囲気になっちゃいましたね······いきましょうか」
「······うん」
いつか。誰でもない、シエラから。彼女の過去を僕に教えてくれる日がくるんだろうか。
いつか。誰でもない、僕自身から。彼女や家族に僕のことを教える日がくるんだろうか。
今はまだ、分からないけど。
今はまだ、奇跡で手に入れたこの小さな自由を大切にしよう。
僕はそっと、握られたシエラの手に力を入れた。




