プロローグ 始まりの始まり
三人称なのはプロローグだけです。
二人の男女が闘技場で剣を交わす。
いや違う。交わす、というとまるで対等のように聞こえるがそうではない──一方的な蹂躙だ。見た者全てがそう思うだろう。
実際、この試合を見にきた観客達は皆静まり返っていた。誰も声を上げず、誰も止めない。
「やめろ! 止まれ止まれ止まれーーッ!」
真っ暗な部屋の中、制止の言葉を連呼しながら涙を流す一人の少年がいた。
少年の視界に広がるのは仮想の世界、《アメイジング・ソード・クエスト》──通称、《アーク》。
そして本来なら自由に動くその体は意思を完全に無視して、左手の黒剣を振るう。
「動くなァッ!! なんで勝手に動くんだよ!?」
少年の体は左手に持った黒い剣の切っ先を彼女に突き付けた。
そしてHPもほぼ無い、傷だらけの彼女に向かってノイズがかった声で言い放つ。
雑魚が、と──
彼女の瞳から光が消える。
その目は、僕という存在を否定しているのかのようだ。
やがて右手の白剣が天に掲げられた。
太陽の光を浴びて輝く剣は、まるで彼女の死を肯定するかのようだった。
「やめ」
彼女は真っ二つに切られてた。
赤い粒子を撒き散らして。
絶望の表情を残して。
《battle end! winner イオン!》
勝利を告げるシステムコールが耳に響き、勝負の終わりを告げる。彼の体も自由が利くようになった。
観客席からは無情を嘆く声が聞こえる。
「 」
気づけば走っていた。声にならない声を叫んだ。
目に涙を溜め、力の限り走っていた。
「ここは······?」
そこは何の変哲もないが、よく知っている歩道橋だった。
「僕に死ねって言ってるのか!? 神様はッ!!」
あの時の観客、今通りを歩く人々。その全てに死ねと言われている気がする。心がどうしようもなく縮んでしまって苦しかった。
手摺りに足を掛け、ギリギリのところで止まる。
「凛音!!」
遠くからは聞き覚えのある、それでいてどこか懐かしい声が聞こえてくる。いいや、懐かしいわけはない。さっきまで聞いていたんだから。
僕にはもう彼女に合わせる顔はない。傷だらけにして罵倒までして──故意ではないとは言え彼女の心を傷つけた。
「ごめんな。また、ゲームしよう」
彼は落ちた。彼女をこの無情な世界に残して、落ちた。もう二度と叶わない願いを口にして。
やっと死ぬ。この残酷な世界から解放される。でもこの世界に彼女を残してしまった。
──生きたい。ちゃんと謝りたい。
「じゃあ飛ぶなよな」
彼の口から小さく言葉が漏れた。
彼の人生は端的に言えば生き地獄、だろうか。彼の周りには、侮蔑、嫉妬、憤慨──色んな感情の『目』があった。
だが彼にとってそれでよかった。『彼ら』にとって、彼という壁は邪魔でしかないのだ。
そんな彼の心の唯一とも言える支えはゲームだった。ゲームであれば彼を害する者はいない。ゲームであれば誹謗されることも中傷されることもない──なかったのだ。
生まれ変わりたい、と思った。もう一度、最初から。彼はそう願った。
やり直したい、と思った。もう一度、人生を。彼はそう考えた。
「生きたかったな······自由気儘に」
体が地面に叩きつけられ、一瞬の抵抗はあったものの、すぐに全身の骨が嫌な音を立てた。
彼の視界はコンクリートに広がる自分の血で真っ赤に染まった。
──生きて、る······?
違う。もし神が本当にいるなら、そう言うだろう。
遠くからバイク特有のエンジン音と若い男の叫び声とが聞こえてきて、それらに加えて綺麗な声も聞こえていて
バキッという嫌な音を最後に、彼の視界は闇に包まれた。
2020 2/3より全話改稿中
主人公の性格が少し変わります。




